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ブレずに自分であり続けること 映画『正体』

概要と、簡潔且つ重みのあるメッセージ

信じる、君を。
信じる、この世界を。

映画『正体』のポスター、公式HP、パンフレットにまで書かれているこの言葉。
言ってしまえば、ありふれたごく普通の単語の並びである。
しかし、本作を通して、私はこの言葉たちの重みに気がつくことになった。

本作の概要は以下。

『余命10年』(2022年公開)が興行収入30億円を超える社会現象を巻き起こし、最新作『青春18×2 君へと続く道』が日本のみならず現在アジア各国で大ヒットを記録中の藤井道人監督が手掛ける、極上のサスペンスエンタテイメントが誕生。

原作は、染井為人による傑作小説「正体」。
日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けたが脱走し潜伏を続ける主人公・鏑木。鏑木を演じるのは、2025年NHK大河ドラマの主役にも抜擢され国民的俳優の地位を確かなものにしている横浜流星。【5つの顔を持つ】逃亡犯という難役に挑む。藤井監督とのタッグは、『青の帰り道』、『ヴィレッジ』に続き、長編では今回で3回目となる。横浜にとって、クランクインから遡ること約3年もの間、藤井監督と脚本やセリフなどのやりとりをし準備を進めてきた作品であり、「非常に思い入れのある作品」と語る。

ほかメインキャストに吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、さらに山田孝之と、本作への出演を熱望した“主演級”の豪華キャストが集結。藤井組に俳優として出演するのは、全員今回が初となる。

映画『正体』公式

藤井道人監督作品は、映画、ドラマに関わらず、没入感が他とは違う。
今回は、どんな世界観に没入させてくれるだろうかと大きな期待を持って観た本作。
その期待を、遥かに超える良作であった。

鏑木慶一という青年と、俳優・横浜流星

本作は、とある一家を惨殺した罪で服役中の死刑囚・鏑木慶一(横浜流星)が脱走し、日本各地を転々としながら逃亡生活を送る中で、人と触れ合い、本来の姿を取り戻していく様を描いた作品である。

逃亡中の緊迫感こそ薄いものの、鏑木や周囲の人間たちの葛藤や、
純粋な心の動きを丁寧に描いた作品に仕上がっていた。
鏑木慶一という青年の美しい心に、見事に揺さぶられる。

鏑木は逃亡期間中、土木作業員、フリーライター、介護ヘルパーなど、次々と姿を変えて潜伏していく。しかし、そのどの姿の時も、彼が本来的に持つ柔らかさと真っ直ぐさがスクリーンから伝わってきた。
その本来の要素を失わずにいながらも、全く違う見た目の5役を演じ分けた横浜流星の演技は圧巻だった。
横浜流星といえば、目が印象的な俳優である。
元々瞳がとても綺麗であるが、今回、思わず吸い込まれてしまいそうになる澄んだ瞳の綺麗さが、”死刑囚であるはずの鏑木慶一”の根底にある純粋さを、作中でずっと、表現していた。
横浜流星がどのように今回の役作りに挑んだかは定かではないが、そもそも横浜流星という人物と、鏑木慶一という人物は、似た部分があり、かなり近い所に部類されるのかもしれない。
私は横浜流星と話したことがなければ、会ったことすらない。
それでも何故か「鏑木慶一と横浜流星は似た雰囲気を持つ人だ」と想像できる。
どちらもとても真摯で、そして強い人間なのだろう。

鏑木慶一によって存在させられた人たち

そんな鏑木に影響を受ける人物達の表情、仕草・・・。
どれをとっても不自然が一つも存在しない。
彼と大きく関わった人物は、主に4人だ。
最初に鏑木を逮捕し、逃亡中の彼を追うことになった刑事・又貫(山田孝之)。
土木作業員同士として知り合い、心通わせた友人・和也(森本慎太郎)。
フリーライターに転身した鏑木を雇う編集者・沙耶香(吉岡里帆)。
ヘルパーとして勤めた介護施設で共に働く従業員・舞(山田杏奈)。

彼らは総じて、鏑木という儚くも強い人物に心動かされる人の挙動として、
あるべき百点満点の姿を観せてくれた。
横浜流星が作り出した鏑木慶一のブレない人物像があったからこその、4人の演技ではあることは大前提だ。
しかし、彼らも膨大な時間と労力をかけ、藤井監督、現場のスタッフたちと観せ方を相談し、ブラッシュアップ重ねていったに違いない。
彼らの挙動は、どこを切り取っても「そうはならないだろ」が一つもない。
瞬きのタイミング、口角、背中、呼吸、全てが徹底的に作り込まれていた。
それ故に、本作は5人のうち全員が主役になり得るほどの最高のクオリティであった。

プロたちが魅せ方にこだわり抜いた絵画のような映画

前述の通り、本作の見どころを作っているのは主人公だけではない。
主人公と、彼に影響を受けた人物たち全員が点と点で繋がることによって、
一つの大きな絵になるような、そんな映画であったと思う。
それを実現させた染井為人による同名原作、監督、キャストたちそれぞれの情熱と実力が光る、素晴らしい傑作映画だ。


1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。

映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。

MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
ENFPらしい性格であると他者からもよく言われるが、文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。
(明るい文章もお任せあれ!)

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Nanochi
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