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2014年11月の記事一覧
世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員⑤
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永遠とも思える夜が続き、時間の感覚を麻痺させていく。医務室にいる誰もが正確な時間を知らなかったが、尖塔の炎は静かに時間を語っている。それは、赤い火が三本灯った午前三時。深く沈みきった夜が、目覚める準備を始めるぐらいの頃合いだ。 ジョイナーが自身の事を話す覚悟を決めてから、医務室の中は緊張に包まれていた。
誰も口を開かず、ジョイナーが話し始めるのを待ち続け
世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員④
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チュイは体が分解されるような苦痛の中、限界に達して意識を失った。
おそらく、呪いに命まで飲み込まれないように、体が意識をカットしたのだろう。
自我が途切れる瞬間は、脳の中を吸い取られるように、もう一人の自分がスルッと引き抜かれたようだった。
チュイに呪いが襲いかかったのは、彼女がグラウンドから北の丘を目指して間もない頃だった。
足を踏み外すと簡単にケガ
世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員③
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北の丘には柔らかい風が吹いていた。
ケンブリーの髪がふわりと流され、髪の毛が一本だけ眼鏡の隙間に入り込む。それでも彼は表情を変えないまま、落ち着いた様子でそれを手で払いのけた。その目は夜空の先を見つめていた。
魔法を学ぶ者であれば、ケンブリーを見ただけで厳重であることが分かるだろう。彼が纏っているのは、かなり分厚い対呪詛用のローブだ。あまりの厚さに布が
世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員②
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暗い石造りの部屋の中を見れば、そこには巨大な何かが住んでいることがよく分かる。衣類、勉強道具、食べカス、ホコリの塊、色々なものが散かっている室内に、巨大なベッドと、女性が二人は入りそうなパンツと半ズボンがドンとある。
この部屋の主は布団に入ったまま動かない。
夜更かしをしても何も良いことがない尖塔は、就寝時間になると完全に静かになる。
そんな
世界樹の魔法使い もくじ
▽もくじ
・プロローグ
・1章:天刺す尖塔と不良教師 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
・2章:争う尖塔の学生たち ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
・3章:三年前と元研究員 ① ② ③ ④ ⑤
▽あらすじ
世界には『人間と獣人』がいて、それぞれから『魔法を使える者と使えない者』が生まれた。魔法を使える人間と使えない人間。魔法を使える獣人と使えない獣人。大まかに四つの部類に別れている人類は、姿形に特
世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員①
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ケンブリーの居ない校長室。
その窓辺に佇むワンは、深い藍色の夜空に煌めく星を見あげて、時間を確認した。特別教育部の中からは、頂上にある火の時計は見えず、こうして星の位置で判断するしかない。
星の配列は、昨晩から一周巡って、再び夜の時間を示していた。
ワンはそれを見て溜め息をつくと、口元のマスクをなびかせた。
それは、フレイソルたちに対するリズィの対応に疑問が