マガジンのカバー画像

小説: 世界樹の魔法使い

21
前に書いていたファンタジー小説。自信はないけどチマチマ更新。
運営しているクリエイター

2014年11月の記事一覧

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員⑤

前へ≪ [もくじ] ≫次へ

***

 永遠とも思える夜が続き、時間の感覚を麻痺させていく。医務室にいる誰もが正確な時間を知らなかったが、尖塔の炎は静かに時間を語っている。それは、赤い火が三本灯った午前三時。深く沈みきった夜が、目覚める準備を始めるぐらいの頃合いだ。 ジョイナーが自身の事を話す覚悟を決めてから、医務室の中は緊張に包まれていた。
 誰も口を開かず、ジョイナーが話し始めるのを待ち続け

もっとみる

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員④

前へ≪ [もくじ] ≫次へ

***

 チュイは体が分解されるような苦痛の中、限界に達して意識を失った。
おそらく、呪いに命まで飲み込まれないように、体が意識をカットしたのだろう。
 自我が途切れる瞬間は、脳の中を吸い取られるように、もう一人の自分がスルッと引き抜かれたようだった。
チュイに呪いが襲いかかったのは、彼女がグラウンドから北の丘を目指して間もない頃だった。
 足を踏み外すと簡単にケガ

もっとみる

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員③

前へ≪ [もくじ] ≫次へ

***

 北の丘には柔らかい風が吹いていた。
 ケンブリーの髪がふわりと流され、髪の毛が一本だけ眼鏡の隙間に入り込む。それでも彼は表情を変えないまま、落ち着いた様子でそれを手で払いのけた。その目は夜空の先を見つめていた。
 魔法を学ぶ者であれば、ケンブリーを見ただけで厳重であることが分かるだろう。彼が纏っているのは、かなり分厚い対呪詛用のローブだ。あまりの厚さに布が

もっとみる

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員②

前へ≪ [もくじ] ≫次へ

    ***

 暗い石造りの部屋の中を見れば、そこには巨大な何かが住んでいることがよく分かる。衣類、勉強道具、食べカス、ホコリの塊、色々なものが散かっている室内に、巨大なベッドと、女性が二人は入りそうなパンツと半ズボンがドンとある。
 この部屋の主は布団に入ったまま動かない。
 夜更かしをしても何も良いことがない尖塔は、就寝時間になると完全に静かになる。
 そんな

もっとみる

世界樹の魔法使い もくじ

▽もくじ
・プロローグ
・1章:天刺す尖塔と不良教師 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
・2章:争う尖塔の学生たち  ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ 
・3章:三年前と元研究員   ① ② ③ ④ ⑤

▽あらすじ
世界には『人間と獣人』がいて、それぞれから『魔法を使える者と使えない者』が生まれた。魔法を使える人間と使えない人間。魔法を使える獣人と使えない獣人。大まかに四つの部類に別れている人類は、姿形に特

もっとみる

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員①

前へ≪ [もくじ] ≫次へ

 ケンブリーの居ない校長室。
 その窓辺に佇むワンは、深い藍色の夜空に煌めく星を見あげて、時間を確認した。特別教育部の中からは、頂上にある火の時計は見えず、こうして星の位置で判断するしかない。
 星の配列は、昨晩から一周巡って、再び夜の時間を示していた。
 ワンはそれを見て溜め息をつくと、口元のマスクをなびかせた。
 それは、フレイソルたちに対するリズィの対応に疑問が

もっとみる