鹿の鳴き声
鹿なけば 落ち葉ふむ足 止めりけり
鹿の鳴き声を、近くで聞いたことがあります。
私は深い眠りについていました。
あれは真夜中だったのか夜明け頃だったのか、時間は定かではないのですが、けたたましい鳴き声で目を覚ましました。
まるで枕元で鳴いているかのような息づかいで、
私の体は一気にこわばりました。
ベッドサイドにある窓の外に、おそらく彼はいたのだと思います。
肺を思い切り絞り出すように鳴く音から、息を吸い込む際に出る喉をならす音まで、驚くほどクリアに聞き取れました。
彼は確かに呼んでいるんだと感じました。
誰か、命を繋いでいける相手を。
私は息をするのを忘れるほど感動していました。
彼の息は白く漂って、踏みしめる落ち葉は湿っていて、足を濡らしたのでしょうか。
私には見えませんでしたが、私の心には彼はそんな姿をしていました。
今でも鹿の鳴き声を聞くと、思い出します。