「NPT」と聞くと心がざわざわします
石油開発業界で「NPT」と聞くと、”Non-Productive Time” を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。
NPT (Non-Productive Time) とは日本語で言えば「非生産時間」ということになるかと思いますが、文字通り石油の生産ができない時間ばかりでなく、石油井の掘削などにおいて、ツールが壊れて掘削ができなくなったり、天候不順のため資材がリグまで届かず、資材待ちのために掘削が止まってしまったりして、オペレーションが止まったり、遅れたりした時間なども指します。
ですので、私は毎朝現場から送られてくる日報などを読んでいて、「NPTが発生した」などの文字を見ると、心がざわざわします。
NPTにも様々な原因があります。NPTが発生したら、原因を究明し、NPTによって生じる損失や追加コストなどの割り振りを話し合い、再発防止策を立てなければなりません。
もちろん天候不順など、だれが悪いとは言えないケースもあります。NPTを100% なくすことは不可能なので、あらかじめ計画の中でも、コストや時間読みの中にある程度のNPTは考慮しています。
しかし、いずれにしろNPTと認定されれば、例えばツールのトラブルなどの場合、使用条件通りに使用されていたかとか、トラブルの予兆はなかったかとか、機器が現場に到着したときにちゃんと点検がなされていたかとか、様々な点を考慮して、NPTを処理する必要があります。
時には利害関係者の間での白熱した議論や、調整、ネゴなどが行われます。心が擦り切れそうになる時もあります。
私も「NPT」には深くかかわった経験があるので、当事者の苦労もよくわかるだけに、「NPT」という文字を日報で見つけると、「ああ、また苦労している人がいるのだな」と、心がざわざわしてしまうのです。
Productive Time (生産的な時間、生産に寄与する時間) をロスしないために、私たちは様々な努力をしています。
例えば、井戸に付けたポンプが故障してしまうと、その井戸からの生産が止まってしまいます。ポンプの交換には通常、リグを持ってくる必要がありますが、リグの数には限りがあり、すぐには持ってこられない場合があります。
そのような場合でも生産を長期間止めないように、あらかじめポンプを2台井戸に取り付けて置き、一台が壊れてもすぐにもう一台に切りかえて生産を続け、その間にリグを要請して、リグが来たら壊れたポンプをさっと交換するようにすれば、生産を止める時間を短縮化できるはずです。
ポンプ2台を付けて井戸を仕上げるコストと、生産を止める時間を短縮するメリットのトレードオフを考えるわけです。また、ポンプを設置して長い時間使わないでいると、劣化が進んで、いざという時に使えないかもしれません。そんなリスクも考えて、一気にすべての井戸のポンプ2台化するのではなく、ポンプの故障率、リグを要請してからリグが到着するまでの平均所要日数など、いろいろ考慮しながらNPTを最小限にし、コストを減らし、生産量を増やす工夫を日々行っています。
過去の実績をデータベース化しておくことも重要ですね。
これはほんの一例ですが、大規模な油田になると「ちりも積もれば (ちりつも)」で、小さなロスが積み重なると大きなロスにつながります。オペレーションはNPTとの戦いでもあります。
「NPT」といえば世間では核兵器不拡散条約 (Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons : NPT) のほうが有名でしょうか。いずれにしろ、私にとっては心のざわつく言葉ではあります。
核兵器に関しては「TPNW」(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons: 核兵器禁止条約) が世界の大勢となってほしいですし、石油開発でもNPTより「Trouble-free Production: TP (うまいこと言おうと思いましたが、TPに続く"NW"と略せる良い言葉が思いつきませんでしたー)」のほうが良いですね。