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油層ダイナミック・モデルのイニシャリゼーション

対象油田・油層の3次元油層地質モデル (スタティック・モデル) が完成すると、いよいよ油層内の流体の移動をモデル化するダイナミック・モデリングが始まります。

つまり入れ物と入れ物の中の生産開始前のガス、油、水の分布状態をモデル化 (スタティック・モデリング) を行った後、流体の性状 (比重や粘性、圧縮率等) や相対浸透率 (油と水の二相流、油と水とガスの三相流などにおけるそれぞれの流体の流れやすさ)、毛管圧など、流体の動きに関わるパラメータを入れて、流体の移動や圧力など動的な変化をモデル化しようとするものです。

ダイナミック・モデルで通常まずやられることは、イニシャリゼーションと呼ばれる作業です。

地質モデルで作った油層の形 (構造や厚さなど) と油層性状 (孔隙率や浸透率など)、そして生産開始前のガス・油・水などの分布状態をダイナミック・モデル内でも再現して、なにも生産を開始しない状態でシミュレーションを流し (時間を動かし)、モデル内のガス、油、水がかってに動き出さないかチェックするのです。

通常、生産開始前の油層の中の流体は、長い地質年代を経て、安定した状態にあると考えられます。シミュレーションをランさせて、時間を動かし始めた途端モデル内で流体が動き出してしまうようであれば、現実の初期状態の流体分布の安定性が再現されていないということになります。

流体が安定せずにすぐに流動してしまう場合にはその原因を考えます。

通常、地質モデルにおける流体の分布は、何本かの井戸を掘って得られたデータをもとにモデル化されますが、その分布が不自然ではないか?

与えた流体の性状が適切か?

油層が分断されていたり、反対に分断されていると考えていた油層がつながったりしていないか?

ダイナミック・モデルで再現しようとした初期流体分布モデルの概念が間違っていないか?

特に最後の点は、現在油層内に存在している油が、もともとあった地層水の中に初めて油が入ってきたDrainage (排水) 過程を経て存在する油なのか、あるいは、一度油が貯まった後、さらに地層水が侵入して来て、水によって置換され損ねた油 (Imbibition: 吸水過程でとり残された油) なのか等、地質時代における油層内の流体移動履歴も関係あるため、非常に頭を悩ませる問題です。

油層内に油が水を置換しながら入ってくる過程と、その油がまた水によって置換されていく過程では、二度ともとには戻らないヒステリシスという現象が見られます。

現在私たちが扱っている油層は、かなり複雑な地質的な変遷を経て、現在の流体分布を形成したと考えられていて、同僚の油層エンジニアとともに頭を悩ませながらイニシャリゼーションに取り組んでいます。

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