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油層孔隙内の水飽和率を知る苦労

油田にどのくらいの埋蔵量があるか推定するために重要なパラメータとして水飽和率があります。水飽和率は貯留岩の隙間 (孔隙) 中の水が占める割合を表します。孔隙がすべて水で満たされていれば、水飽和率は 1 (100%) となります。孔隙内に水と油がある場合は、油の量の割合 (油飽和率: So) は So=1-Sw となります。

[埋蔵量の推定方法について]

[水飽和率データのモデルでの取り扱い、平均の求め方]

水飽和率は井戸を掘った時に、坑内に降ろした検層 (ロギング) ツールと呼ばれる機器で測定した孔隙率と電気物性である比抵抗から推定することができます。

孔隙率は貯留岩に占める孔隙の割合を表します。孔隙率を測定する検層ツールには下記のようにいくつか種類がありますが、詳しくはまた別の機会に触れたいと思います。

密度検層:地層へ照射したガンマ線の拡散を利用して地層密度を測定する検層
中性子検層:放射線源より放射された中性子が地層内を通過して検出器に到達するまでの減衰率から地層の孔隙率を求める検層
音波検層:音波を発信し、坑壁近傍の地層の一定区間を伝播する音波の走行時間を連続測定し、震探解析用のデータ、岩相、孔隙率の情報を取得する検層
核磁気共鳴検層:原子核のジャイロ磁気的性質を利用して孔隙中の自由に移動ができる水分子量を測定し、孔隙率や浸透率の推定、不動飽和率の区間の把握、残留飽和率の算定をするための検層

比抵抗検層は地層の電気物性である比抵抗を測定する検層の総称です。比抵抗検層にはノルマル検層、ラテラル検層、インダクション検層、ラテロ検層、マイクロ比抵抗検層などがあります。これらは測定方式、坑壁からの探査深度が異なり、地層の真の比抵抗、泥水の影響を受けた地層の比抵抗、薄層の検出など、それぞれの目的に応じて使い分けています。

井戸を掘るときには泥水を循環させています。この泥水は坑壁から徐々に油層内に染み出していきます。あまり坑壁に近いとしみ込んだ泥水の影響で、もともとの油層内の水飽和率がわかりません。したがって、もともとの油層内の水飽和率を測定するためには、泥水の影響をあまり受けていない、坑壁から少し離れたところの地層比抵抗を測定するか、掘削直後のまだ泥水が地層内に染み出していない状態での地層比抵抗を測定する必要があります。

孔隙率と比抵抗から水飽和率を求める基本となる関係式としてアーチーの式 (Archie’s formulas) があります。

G. E. Archie (1942) が岩石のコアサンプルを用いて、その地層比抵抗値 Rt、地層水により100% 飽和している場合の地層比抵抗値 Ro を使用し、地層比抵抗係数 F、地層水の比抵抗値 Rw、水飽和率 Sw、孔隙率 Φ の間に以下の経験式を導き出しました。

m は膠結係数(通常は2に近い値)、n は飽和率指数(通常は2あるいは2に近い値)と呼びます。

Rt は比抵抗検層で測定される、なるべく掘削泥水の影響を受けていないところの地層の真の比抵抗です。

Rwは地層水の比抵抗値ですが、意外にこの値を正確に知るのが難しいのです。油層から地層水のサンプルが採取できれば良いのですが、掘削するときに使用した泥水が混ざってしまうと正確な地層水の比抵抗がわかりません。また非常に油飽和率の高い良い油層ではそもそも地層水のサンプルもなかなか採取できません。

地層の比抵抗Rtを対数で横軸に、孔隙率Φを対数で縦軸にとったプロットをピケットプロット (Pickett Plot) と呼びます。

いろいろな孔隙率 (Φ) の場所で100% 水飽和率 (Sw) のRtが測定できれば、その点群を結ぶ線が 100% Sw のラインとなります。このラインが100% 孔隙率の軸と交差する点の Rt の読み値が、孔隙率が 100%、つまり 100% 地層水ということになりますので、地層温度での地層水そのものの比抵抗 Rw になります。

100% Sw のラインがピケットプロット上で決まれば、このラインの傾きから m が読み取れ、またこのラインに平行に さまざまな Sw のラインを引くことができます。

地層水の比抵抗 Rw が直接測定できるか、さまざまな孔隙率の場所で Sw 100% の地層の比抵抗が測定できれば Sw 100% のラインが決まるので、Rwも決まるのですが、実際には測定した場所が 100% Sw かわからない事が多いのです。

孔隙率と地層の比抵抗を数多く測定し、ピケットプロット上でポイントの集まり (クラウド) の左下のきわの点群を通るように 100% Sw のラインをえいやっ!と引くしかない場合もあります。

特に、その地域や油層で初めてデータをとるときにはその解釈には不確実性が伴います。不確実性を認識したうえで今後のデータ収集計画を立てていくことになります。

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