「Turnkey:ターンキー」で掘削する?
石油開発では石油を生産するための井戸を、正しい場所に、安全に、効率よく掘削し、必要な油層データを収集して、予想どおりのパフォーマンスで生産できることが求められています。
私が働いている南国の石油会社では、古くから油井を計画し掘削する部門を持ち、掘削中の地質データ収集やデータ処理のQCなどを行う専門の地質技術者のチームもあり、伝統的に日本人の出向者がその中でノウハウを蓄積し、その技術を南国国民や他のエキスパットに伝え、掘削の信頼性、安全性、精度などの向上に努めてきました。
ところが、かなり前のことになりますが、掘削計画が立て込み、掘削リグをはじめとして掘削のための様々なリソースがなかなか調達できない時期がありました。この時、株主やトップマネージメントの一部から聞こえてきたのが、掘削作業全般を一つのコントラクターに請け負わせる「Turnkey: ターンキー」契約のアイディアです。
「Turnkey」とはもともと車のエンジンをかけるときのようにキーを回して機械やシステムをスタートさせることです。
プラントなどの建設では施設やシステムを完成させて、あとはキーを回して始動させるだけの状態にして納入する一括請負契約として馴染みのある契約形態かもしれません。しかし、南国の伝統ある石油会社で、しかもそれまで掘削に関する契約をさまざまなコントラクターと結んできているのに、掘削の一括請負契約であるTurnkey契約で進めてはどうかというアイディアが出てきたのには正直驚きました。
そもそも掘削におけるTurnkey契約が南国石油会社ではほとんどなじみがなかったため、それがどんなものなのかから調べることになりました。
もちろん 一般にTurnkey契約にも利点はありそうでした。一つのコントラクターにまかせておけばいいので、発注者側にとってはいくつもの契約管理が不要で、高度な技術力や知識が無くてもなんとかなってしまう可能性もあります。
一方で、Turnkey契約で掘削を請け負えるコントラクターは南国周辺ではそう多くはなかったため大手掘削コントラクターを使わざるを得ず、コストも割高になる可能性がありました。また、問題が起きても原因究明が進まない可能性や、南国石油会社内に技術や経験が蓄積されにくく、品質管理がしにくくなるなどの危惧もありました。
結局、さまざまな可能性を検討してみたものの、私たちのプロジェクトでの Turnkey契約による掘削は実現しませんでした。
石油生産井がどのようなパフォーマンスを示すかは石油会社にとっては死活問題です。そして生産井のパフォーマンスは、井戸の適正な計画、掘削精度、仕上技術ももちろんですが、油層の事前評価やパフォーマンス予想の精度もかかわってきます。すべてをできるだけ把握したうえで、掘削後もきっちりと評価を行い次に生かしていく必要があるので、その一部分でもブラックボックス化することは避けたいと思っていました。
そういう意味で、私は当時、掘削のTurnkey契約のアイディアがそのまま先に進まなくて良かったと内心ほっとしていました。
それにしても「Turnkey」なんて英語、うまいこと言いますね。
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