断層の向こう側で迷子になりかける
地質学で断層とは、地層がある面を境に食い違っているような構造のことをさします。また、その食い違いの境界面を断層面と言います。
断層にはいろいろなずれ方が考えられ、ずれ方によって下図のような呼び方をしています。
私たちが開発している南国の地下の油層でも断層が見られます。「見られます」というのは実際にこの目で見ているのではなくて、人工地震波を使った地震探査で断層の存在が確認されているという意味です。
比較的大きな縦ずれの断層であれば、下図のように地震探査断面でもある程度はっきり断層を認定できます。
しかし、私たちが南国で相手にしている油層に見られる断層は、地震探査でもわかるかわからないかの限界に近い、最大でも30ft(約10m)以下のずれしかないので、断層の位置もずれの大きさも、地震探査からではそれほど正確にはわかりません。
現在、石油生産井は、できるだけ油層の中を長く掘って、そこから効率よく油を生産するために、油層の中を油層と平行に掘っていく水平井が主流となっています。
地層の物理情報を測定しながら、井戸の傾斜や向きをコントロールしてターゲットの油層を掘り続けることをジオ・ステアリング (Geo-steering) と呼んでいます。
通常、私たちは油層の中でも特に孔隙率がよく、石油を多く含んでいる部分を狙って掘っています。そのターゲットの厚さは10 ft (3 m) 程度です。
この薄いターゲットを掘り進んでいくうちに、断層面にぶつかり、その向こう側のブロックに掘り込んだらどうなるのでしょうか?
もちろんあらかじめ大きそうな断層を避けるように掘削計画を立てていることもありますが、幸い、今まで私は断層を掘り抜いて完全に迷子になった経験はありません。掘り抜いている断層が小規模であることも、また、地震探査断面で1本に見える断層も、実はいくつもの小さい断層の集まりで、階段状に少しずつずれているために、なんとなくターゲットを追跡できてしまうというのも理由の一つとして考えられています。
迷子になりかけても、地震探査から予想されるずれの方向へ少し掘り進んでいくと、ターゲット戻ることができています。
さて、私がジオ・ステアリングを行っていたころ、一度だけ掘削中に、確かに断層を抜けて、しかも断層の縦方向のずれの大きさまでかなり正確に推定できた例があります。
下図のように、緻密な地層を抜けて油層に入ったと思ったら、突然緻密な地層に戻り、しばらく掘り続けると油層に戻ったのです。油層はほぼ水平なところでしたので、井戸の傾斜と、1度目に油層に入ってから2度目に油層に入るまでの井戸に沿った掘削長とその間の井戸の平均傾斜から、三角関数でずれが計算できました。
井戸がまだ完全に水平になっていなかったのと、比較的短距離で地層が繰り返したことにより、かなり正確に断層のずれが求められました。この時の断層の縦方向のずれは約 7 ft (2m) でした。地震探査では検出できない規模の断層でした。
もう少し断層のずれが大きかったら、油層に上手く入れなかったかもしれません(油層内で井戸を水平にすることをランディングと呼びます。「着陸」みたいな感じですね)。地下の小さな断層のずれを明確に確認した貴重な例として話題にしてもらいましたが、同僚には「着陸 (ランディング) に失敗しなくてよかったね」と言われたものです。
確かにもう少しずれていたら、迷子になるところでした。
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