浸透率のアップスケールに悩む
いつの間にか10月。日本は金木犀が香るさわやかな秋を迎えているのでしょうか?
ここ南国はまだまだ暑い日が続いています。
今回も油層モデルのパラメータに関しての話題です。
浸透率は多孔質媒体、つまり油層の中の流体の流れやすさを示すパラメータです。通常「浸透率」と言えば絶対浸透率のことを指します。
油と水、油とガスなどの二相流、あるいは油とガスと水の三相流などの場合、それぞれの流体に対する浸透率をその流体の有効浸透率といい、この有効浸透率と絶対浸透率の比を相対浸透率といいます。
相対浸透率については以下の記事でも触れています。
さて、浸透率 (絶対浸透率) ですが、通常、私たちが浸透率モデルのベースとしてよく使うデータは、地下から実際に採集してきた柱状の油層岩石サンプル (コア) から一定間隔で小円柱状プラグを切り出して、そのプラグで測定する浸透率データです。
私たちの会社では、通常、コアの採集区間について 1ft (30cm) ごとにプラグを抜いて浸透率を測定しています。
以前の記事で触れましたが、孔隙率や水飽和率データは、セル内を通るポイントデータを平均してセルの孔隙率や水飽和率を決めます、
浸透率データもセルに入れる値を決めるために、セル内の複数のデータポイントの数値を平均してみることにします。
ここでちょっと考えてしまうのが、浸透率という値の性質です。浸透率は孔隙率や水飽和率のようにそこにあるものの量に関連するパラメータではなく、流体の流れやすさを表すパラメータです。
ある長さ(L) と断面積 (A) をもつ多孔質媒体を流れる流体の流量 (Q) は、多孔質媒体の入口と出口での圧力差 (ΔP) と断面積と浸透率 (K) に比例し、流体の粘性 (μ)と多孔質媒体の長さに反比例します。
Q = K × A / μ × △P / L
浸透率のばらつきが非常に極端な例ですが、下図のような4つのデータが一つのセルの中にあるとします。データポイントは等間隔なので、データ1ポイントごとの重みは同じとします。
このセルを流れる二つの方向を考えます。横方向に流体が流れるときの水平浸透率と縦方向に流れるときの垂直浸透率です。
地層は下位から順に堆積していくことが普通ですので (地層累重の法則)、縦方向よりも横方向の方が浸透率の連続性が良いと考えられます。もし縦方向に浸透率のばらつきがみられる場合、そのばらつきは横方向にもある程度連続していると推定できます。
[地層類聚の法則]
平均の計算の仕方には大きく次の3つが考えられます。
相加平均:算術平均 (arithmetic mean) とも呼びます。データn個を足してデータの数nで割ります。
相乗平均:幾何平均 (geometric mean) とも呼びます。データn個を乗じてn乗根を求めます。あるいは各データの対数をとって算術平均し、真数に戻します。
調和平均 (harmonic mean):各データの逆数を算術平均して逆数をとります。
n個のデータすべてが正の時、これらの平均の関係は以下のようになります。
相加平均 ≥ 相乗平均 ≥ 調和平均
n個すべてのデータが同じ値の時、すべての平均が同じ値となりますが、データにばらつきが大きい時、上記の平均差が大きくなります。
上記の図で各平均値を求めてみると
相加平均 K= (1000+100+1+10)/4 = 277.75 mD
相乗平均 K= (1000x100x1x10)^(1/4) = 31.62 mD
調和平均 K= 4/(1/1000+1/100+1/1+1/10) = 3.60 mD
通常、セルの水平浸透率を求めるときには算術平均を用い、セルの垂直浸透率を求めるときには調和平均を使います。
感覚的には、浸透率の低いレイヤーを横切らなければならない垂直浸透率は低い浸透率の影響を強く受け、一方、高い浸透率レイヤーに沿って流れることができる水平浸透率の場合、高い浸透率の影響を強く受けるというのはわかります。垂直浸透率に調和平均を使い、水平浸透率に相加平均を使うことは何となく納得できる気がします。
ダルシーの式から考えると、水平浸透率Kは、
K=Q x μ x L / A x △P
下記の図で、各レイヤーの流量以外のすべての条件を同じ(例えば1)とすると、各レイヤーの流量 Q は K に比例して大きくなります。各レイヤーの流量を下図のように考えると、セル全体での流量は Q1+Q2+Q3+Q4=1000+100+1+10 = 1111 となり、また断面積は、各レイヤーの断面積を1とすると、セルの断面積は4となります。
セルの水平浸透率 Kh は Kh =( Q1+Q2+Q3+Q4)/4 = 1111/4 = 277.75 で相加平均の結果でよさそうです。
一方、同様に垂直浸透率を考えた場合、各レイヤーを通る流体の流量を一定と考えると、各浸透率層の入り口と出口での圧力差 △P は 1/K に比例します。各レイヤーの入り口と出口での圧力差は下図のようになり、セルの入り口と出口でのトータルの圧力差は △P=△P1+△P2+△P3+△P4 = 1/1000+1/100+1/1+1/10、また、長さは各レイヤーの長さの4倍になります。
セルの垂直浸透率 Kv は Kv=4/(△P1+△P2+△P3+△P4) = 4/(1/1000+1/100+1/1+1/10) = 3.60 で調和平均の結果でよさそうです。
理論的にはこれでもよさそうですが、実際の地質は複雑です。セルサイズで考えた場合、コアプラグでの浸透率の測定値がどのような部分を代表しているかは、地質の不均質性などによっても変わってきます。
浸透率をコントロールする地質ファクターが不均質に分布している場合、セルごとの値をばらつかせるだけではなく、セルの値を求めるときに、相加平均ではなく、相乗平均を使うことを考慮したほうが良いかもしれません。
また、コアプラグでキャプチャーできないタイプの浸透率、たとえば地層の断裂 (フラクチャー) やプラグよりも大きな孔隙など、井戸の生産テストなどとのマッチングもはかっていく必要があります。
浸透率モデルが油層モデル (地質モデル) の中でも難しいのはこのようなことも理由の一つです。