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バリュー・オブ・インフォメーションの評価に悩む

南国の歴史のある油田は、すでに開発を開始してから50年以上経っていて、油田の中に掘られた井戸数も1000本を超えるものもあります。

開発当初は増産のために井戸をどんどん掘っていきます。ある程度増産が進んで、プラトー (安定した生産レート) に達すると、今度は生産レートを維持するために、生産量の減った井戸を掘りなおしたり、開発の進んでいないエリア、回収率の悪いエリアに井戸を増やしたりします。

再開発計画を立てて、新たな生産スキームを適用してもう一段高い新たなプラトー・レートを目指して、たくさんの井戸を掘削する場合もあります。

油田の開発計画に必要な油層モデルを作るために、あるいは掘削した井戸の生産性の評価のために、井戸ではいろいろなデータの収集を行います。

特に地質の評価のためにはコストはかかりますが、地下から実際に円柱状の油層の岩石サンプルを掘り出すコアリングは非常に価値のある情報をもたらしてくれます。

ある油田の長い歴史の中で、どの時期にコアがたくさん採られているのかを調べてみると興味深いことがわかります。

例えば私がかかわったことのある油田では、最初の頃はかなりの割合でコアが採られていました。最初はデータも少なく油層の性状や、埋蔵量などの不確実性が高く、多くのデータを取りたいという気持ちが働くので、コアが多いのも良くわかります。

ところが例えば井戸番号が200番台当たりに来ると、ほとんどコアが採られていません。安定生産が始まり、特に生産でも大きなトラブルも無く、お金をかけてコアをとる意欲がわかなかったものと思われます。

ところがある時期からコアの採集が増え始めます。生産する油の中に圧入井から来たと思われる水が混じり始めた時期と一致します。予想よりも早く圧入井から圧入した水が生産井に到達し始め、油田の性状分布が当初予想したよりも不均質で、水の動きも不規則であると考えられたことから、もっと詳細なモデルが必要だというモチベーションが働いたのです。

ところが、200番台の井戸を掘っていたころコアをあまりとっていなかったために、200番台の井戸が多いエリアのコアデータが不足するという事態が生じてしまいました。

油田の歴史が浅く、ほとんど油だけが生産できていた時代にはわからなかった油層の不均質性が明るみになり、油層から極力余すことなく石油を採取しようと詳細なモデルが必要なときになって、初めて更なるコアデータの必要性に気がついたわけです。

油層の不均質性の影響は、油田の開発初期よりも後になるほど明瞭に出てきます。その時に必要なデータが無ければ、必要な精度でのモデルが作れないということになりかねません。

このように将来を見越して、あまり生産に問題のない時期に、お金をかけてデータをとることを提案し、それを承認してもらうのはなかなか難儀します。

一般にデータ収集を提案する場合、やみくもにお金を使うことは許されず、バリュー・オブ・インフォメーションというものを評価する必要があります。このデータをとることによってどのぐらいの価値を生み出すのか、あるいは、どのぐらいの損失を避けることができるのか、その価値とコストを比較します。

ただ、直近のリスクを避けたり、油の残るスポットを探したりするのとは違い、例えば油層の不均質性が将来どの程度開発計画にインパクトを与えるのか、特に油田開発の初期に予測し、お金を節約したい人々を説得するのはなかなか大変です。

さまざまな油田や油層の事例を集めたり、さまざまな開発スキームと油層性状の不確実性が生産予測に及ぼす影響をシミュレートしたりすることによって、今のうちにデータとって将来に備えることの大切さを説得力を持って説明することが必要なのです。

バリュー・オブ・インフォメーションを説得力をもって示すために、私はこれまでずいぶん苦労してきました。普段からケーススタディー、つまり事例収集・分析をしておくことも大切だと思います。

将来、「なんでこの時無理してでもデータを取っておいてくれなかったんですか」と石油開発の後輩たちに言われたくはないですから、頑張っています。


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