マガジンのカバー画像

30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

77
古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
運営しているクリエイター

#30秒少説

古今東西の「愛してる」:真剣勝負

古今東西の「愛してる」:真剣勝負

恋愛とは常に1対1である。

相手との真剣勝負、油断は許されない。

気を抜けばそっぽを向かれる。

外野、ギャラリーはもちろんいる。

野次も飛び交うだろう。

でもそれはあくまでリングの外での出来事。

勝負はここで起きているのだ。

渾身の「愛してる」が、空を切ること無く、相手の心を掴み続けるまで。

古今東西の「愛してる」:ビサイド

古今東西の「愛してる」:ビサイド

僕が言葉を喋れたら。

何度そう思ったことだろう。

生まれたばかりの頃、泣き止まないキミのために呼ばれたんだ。

初めて1人で寝る夜も、友達と喧嘩した日も、お母さんに怒られた時も。

キミは僕を隣において、話をしてくれたね。

僕が言葉を喋れたら

「愛してる」

って言うのに。

人形のくせして欲張りかな。

===後記===

「八百万の神」じゃないけど、生き物じゃないものにも感情があるので

もっとみる
古今東西の「愛してる」:遠恋

古今東西の「愛してる」:遠恋

こないだは本当に楽しかった。

きれいな夜景を見ながら、振る舞ってくれたごちそうの数々。

いつもこんな作ってるって、さては女ができたか?

そんなこと気にしちゃう。

わたし、意外と乙女だからさ。

でも別れ際の「愛してる」は反則だと思うな、彦星。

また一年我慢するの、大変じゃんか。

待ち遠しいなあ。

===後記===

究極の遠距離恋愛実践者、織姫と彦星。

彼女らのことを思えば、人類の

もっとみる
古今東西の「愛してる」:昼過ぎの教室で

古今東西の「愛してる」:昼過ぎの教室で

小太りの男性教師が、黒板に数式を書いている。

男しかいないのこの教室で、何人が真面目に見ているんだろう。

そんなことを思いながら、前方に座る彼氏に視線が行く。

「愛してる」

昨夜の、デートと言うにはお粗末な時に彼は言った。

僕らは、紙切れ一枚で認められる関係よりも、強い何かで結ばれている。

===後記===

自分の学生時代を思い返すと、こういった感情を抱いている子はいなかったように思

もっとみる
古今東西の「愛してる」:ひさしぶり

古今東西の「愛してる」:ひさしぶり

夫は昔、声を失った。

豪快という言葉が似合う人だったが、癌で声帯を摘出。

以来笑うことの減った夫との夫婦生活は、決して簡単ではなかった。

ある日、名前を呼ばれた気がして振り返ると、そこには夫の姿が。

「愛してる」

小さくて聞き取りづらい音。

夫の照れた顔なんていつぶりだろう。

ひさしぶり。

===後記===

つんくさんは、食道発声で、声を出せるようになったらしい。

伝えられる時

もっとみる
古今東西の「愛してる」:季節

古今東西の「愛してる」:季節

久しぶりの晴れ間は、夏の始まりの合図だった。

空は青く、浮かぶ雲は重厚感のあるフォルムをしている。

木々の緑も活き活きした色で、さっき見かけたワイシャツは、真っ白に強く輝いていた。

この炎天の空の下、僕は今年も君の墓前で手を合わせる。

「愛してる」

声が届いてるといいんだけれど。

===後記===

夏が近づいてくるのを、肌と汗で感じるここ数日。

電車に乗っていたら、この暑さにそぐわ

もっとみる
古今東西の「愛してる」:向こう側

古今東西の「愛してる」:向こう側

私の言葉に対して、彼女が喜んだり、怒ったり、気味悪がることは一切ない。

「愛してる」

という告白にも、大きな瞳で見つめ返してくれる。

それだけ。

私はそれで満足なのだ。

だがこの想いは周囲に理解されることはない。

ディスプレイの向こうにいる彼女に愛を捧ぐ私は、人間としておかしいんだろうか。

===後記===

想いの対象は、一般的に人間と考えられている。

中には、動物だったり、何か

もっとみる
古今東西の「愛してる」:学校では教えてくれない

古今東西の「愛してる」:学校では教えてくれない

動物はどこで求愛行動を覚えるんだろう。

クジャクが羽を広げるアレは、男子高校生で言ったら、ワックスで髪をツンツンさせるとかだろうか。

分かりづらい。

そんな話を妻にしたら

「最初っから心が知ってんのよ、心が」

「そういうもんかなあ」

「そう。で、私のことは?」

「愛してる」

ストレートで助かる。 

===後記===

気になる子に気になってもらいたいとき、どうすれば良いんだろうか

もっとみる
古今東西の「愛してる」:誘拐

古今東西の「愛してる」:誘拐

幼いころ、誘拐にあった。

塾の帰りに連れ去られたらしい。

らしいというのは、その記憶が欠けてるからだ。

今も覚えているのは、犯人の低い声と、母の抱擁の感触だけ。

「愛してる」私を抱きしめながら、私以上に泣きながら、母は耳元で叫んでいた。

子は親を選べないと言うが、母が母でよかった、と思う。

===後記===

親という存在は特別であり、不思議で不完全だ。

完璧なものなど無いのだけど。

もっとみる
古今東西の「愛してる」:報告

古今東西の「愛してる」:報告

聞いてよ

こないだご飯食べ行ったのね

そうあのファミマの向かいのとこ

したら突然指輪出してきてさ

「愛してる」

だって

そんなの急にされたらびっくりするじゃん

私泣いちゃってさ

そしたらあいつも泣いてやんの

ウケるよね

いやノロケとかじゃないよ

そんなわけでお母さん

今度わたし結婚するよ

天国から見ててね

===後記===

仏壇に向かって手を合わせて思いを伝える、とい

もっとみる
古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

31歳という繊細な時期に催された高校の同窓会。

みんな久しぶり過ぎて、初対面と知り合いの中間ぐらいだ。

そんな中見つけた昔の彼氏。

「久しぶり」

と話しかけてくるその表情には、一流商社マンの矜持が滲み出ている。\

上質なスーツと光る指輪。

「愛してる」

と言う彼をフッた当時の私、殴り飛ばしたい。

===後記===

あの時ああしておけば...といったタラレバな話は、何歳になってもつ

もっとみる
古今東西の「愛してる」:20人の子供

古今東西の「愛してる」:20人の子供

叔母は毎年、20人いる子供たちから誕生日を祝われる。

が、その中に血がつながった子はいない。

みな元は戦争孤児なのだ。

似顔絵や手編みのセーターなど、子供たちの趣向を凝らしたプレゼントに、叔母は目を赤くする。

「愛してる」

この光景を見る度に、親子の愛に血縁関係は必要ないのだと、強く思う。

===後記===

親子の絆に、血縁関係は必要なのか?というテーマで膨らませてみました。

日本

もっとみる
古今東西の「愛してる」:漫画

古今東西の「愛してる」:漫画

最初に思ったのは

「こんな漫画みたいなのあるわけない」

だ。

朝学校へ向かう時、曲がり角で女子高生とぶつかった。

「気をつけてよ!」

その勝ち気な子は転校生で、隣の席で、

いつしか「彼女になったげる」と言われ、

いま目の前で白いドレスを纏っている。

「愛してる」

こんな漫画みたいなのあるわけない。

===後記===

こんな漫画みたいなの、経験してみたかった...

経験したこ

もっとみる
古今東西の「愛してる」:しとしと雨

古今東西の「愛してる」:しとしと雨

幼い頃、いつも公園で遊んでいた僕には、隣町に住む友達がいた。

ある日2人で遊んでいると、急な雨に襲われ、急いで土管で逃げ込む。

しとしと雨を眺めながら、彼女は言う。

「ねえ」

「なに?」

「愛してる。」

「え」

当時の僕は、この言葉の意味を知らなかった。

毎年、この季節になるとほのめく後悔の念。

===後記===

鬱陶しいこんな雨も、どこかでは、誰かに近づくための口実になってい

もっとみる