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ナナタ-10秒で読める散文
2019年6月19日 19:38
小学生の頃は、足が速いだとか、勉強ができるだとか、おもしろいってだけで、その人の事を好きになれたのに。一体いつから、こんなに難しいものに変わっちゃったんだろう。近所迷惑になるぐらいの口論を終えた部屋には、彼が倒したグラスの破片が光っている。「愛してる。」が欲しかっただけなのに。===後記===恋愛はいつから、難しくなっていくのだろう。
2019年6月15日 13:20
「何だ起きてたの」深夜2時、妻が帰ってきた。「うん。」「シャワー入ってくるね」お湯が出る音を聞きながら、気づいたときには妻の携帯を握りしめていた。「今日はありがとう。」「愛してる。」「僕も。」画面に映る知らない男とのやり取り。こんなにも苦しくなる、愛の交換があるんだな。===後記===愛をささやきあうのは、とても美しいものだと思えたりするけど、真逆に位置する意
2019年6月13日 09:57
息を飲むような夕焼けの下。石のように固まった表情から、とろけるような視線を送りつつ、男が口を開く。「愛してる」緊張のせいか、砂漠のように乾ききった喉から出たその音は、潤いを求めて彷徨ったまま、日没とともに暗闇に溶けていった。===後記===レトリックは、人間の想像力を試す。☆このシリーズの詳細はこちら
2019年6月12日 10:03
私の本棚には昔の手帳が並んでいる。カバーには、当時の趣味が色濃く出ていて、JKの時のは今見ると酷いセンスだ。酷いと感じる今が、何かを失ったのかもしれないが。そのピンクの、ヒョウ柄の手帳を開くと蛍光色で慎ましい文字が現れる。「愛してる」この頃、ってどんなんだっけ。===後記===年齢を重ねるにつれて、いろいろな経験を経ていく。それは、ある種人生に新しい刺激を与えているような
2019年6月11日 23:33
こんな深夜に、高い人口密度を保てるのもここぐらいだろう。怪しげなライトと、胸に響くノイズに包まれたフロアには、同じような人種が集まっている。「名前は?」「どこから来たの?」「ひとり?」浅はかな質問を浴びながら、昨日別れた男の事を思い出す。「愛してる」今、ここにいる私も浅はかだ。===後記===人が本当に孤独になった時、どこへ行くのが一番良いのか。家に一人で閉じこもるか
2019年6月10日 13:07
「ブレーキランプを5回点滅させると、愛してるのサインなんだって!お母さん知ってた?」後部座席で娘が妻と話している。「もちろん。ね、お父さん?」不敵な笑みがバックミラーに映る。何しろ、私は点滅させて告白した張本人なのだから。鏡越しの瞳は、下手な告白に笑っていたあの頃と同じだった。===後記===こんな雨の日には、いつもより車のブレーキランプが目立つ。あれも愛を伝える媒体の
2019年6月9日 10:13
朝はいつも起きてこないし、帰りだって毎晩遅い。たまの休みの日だって、PCとにらめっこで全然かまってくれないじゃん。私のこと、見えてますかー?お前なんかな、「愛してる」って言わせてやるからな。今に見てろ。===後記===明らかに不穏な、恨みつらみが立ち込めるシチュエーションでも、セリフに「愛してる」を据えるだけで、なんだかホッとできる物語になる説。☆このシリーズの詳細はこち
2019年3月14日 19:12
こんなことある?この春、私は生活を変えた。新しい職場、新しい家に、胸が勝手に踊っている。そして今、最寄りのコンビニに行ったら、レジに元カレが立っていた。私だけが気付いている、一方通行の戸惑い。「愛してる」と言ってくれた時の、朱く染まる波の音と、私の晩ご飯を読み取る音が交錯する。===後記===人と人は、いつどこで会うかがわからない。いい出会いもあれば、思いが
2019年3月9日 15:40
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。二人は日が暮れるまで働き、夜は仲良く鍋を囲みます。「ばあさんや」「なんですか」「愛してる」「もうおじいさんたら 知ってますよそんなこと」めでたしめでたし。===後記===時代は違えど、愛は不変。みんなが知っているあの物語、描かれていなかったとしても、きっ
2018年6月23日 16:15
叔母は毎年、20人いる子供たちから誕生日を祝われる。が、その中に血がつながった子はいない。みな元は戦争孤児なのだ。似顔絵や手編みのセーターなど、子供たちの趣向を凝らしたプレゼントに、叔母は目を赤くする。「愛してる」この光景を見る度に、親子の愛に血縁関係は必要ないのだと、強く思う。===後記===親子の絆に、血縁関係は必要なのか?というテーマで膨らませてみました。日本