マガジンのカバー画像

30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

77
古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
運営しているクリエイター

#愛

古今東西の「愛してる」:小学生

古今東西の「愛してる」:小学生

小学生の頃は、
足が速いだとか、
勉強ができるだとか、
おもしろいってだけで、
その人の事を好きになれたのに。

一体いつから、こんなに難しいものに変わっちゃったんだろう。

近所迷惑になるぐらいの口論を終えた部屋には、彼が倒したグラスの破片が光っている。

「愛してる。」が欲しかっただけなのに。

===後記===

恋愛はいつから、難しくなっていくのだろう。

古今東西の「愛してる」:対極

古今東西の「愛してる」:対極

「何だ起きてたの」

深夜2時、妻が帰ってきた。

「うん。」
「シャワー入ってくるね」

お湯が出る音を聞きながら、
気づいたときには妻の携帯を握りしめていた。

「今日はありがとう。」
「愛してる。」
「僕も。」

画面に映る知らない男とのやり取り。
こんなにも苦しくなる、愛の交換があるんだな。

===後記===

愛をささやきあうのは、とても美しいものだと思えたりするけど、真逆に位置する意

もっとみる
古今東西の「愛してる」:光景

古今東西の「愛してる」:光景

息を飲むような夕焼けの下。

石のように固まった表情から、とろけるような視線を送りつつ、男が口を開く。

「愛してる」

緊張のせいか、砂漠のように乾ききった喉から出たその音は、潤いを求めて彷徨ったまま、日没とともに暗闇に溶けていった。

===後記===

レトリックは、人間の想像力を試す。

☆このシリーズの詳細はこちら

古今東西の「愛してる」:アナログ派

古今東西の「愛してる」:アナログ派

私の本棚には昔の手帳が並んでいる。

カバーには、当時の趣味が色濃く出ていて、JKの時のは今見ると酷いセンスだ。
酷いと感じる今が、何かを失ったのかもしれないが。

そのピンクの、ヒョウ柄の手帳を開くと蛍光色で慎ましい文字が現れる。

「愛してる」

この頃、ってどんなんだっけ。

===後記===
年齢を重ねるにつれて、いろいろな経験を経ていく。
それは、ある種人生に新しい刺激を与えているような

もっとみる
古今東西の「愛してる」:行末

古今東西の「愛してる」:行末

こんな深夜に、高い人口密度を保てるのもここぐらいだろう。
怪しげなライトと、胸に響くノイズに包まれたフロアには、同じような人種が集まっている。

「名前は?」「どこから来たの?」「ひとり?」

浅はかな質問を浴びながら、昨日別れた男の事を思い出す。

「愛してる」

今、ここにいる私も浅はかだ。

===後記===

人が本当に孤独になった時、どこへ行くのが一番良いのか。

家に一人で閉じこもるか

もっとみる
古今東西の「愛してる」:瞳

古今東西の「愛してる」:瞳

「ブレーキランプを5回点滅させると、愛してるのサインなんだって!お母さん知ってた?」

後部座席で娘が妻と話している。

「もちろん。ね、お父さん?」

不敵な笑みがバックミラーに映る。

何しろ、私は点滅させて告白した張本人なのだから。

鏡越しの瞳は、下手な告白に笑っていたあの頃と同じだった。

===後記===

こんな雨の日には、いつもより車のブレーキランプが目立つ。あれも愛を伝える媒体の

もっとみる
古今東西の「愛してる」:鬱憤

古今東西の「愛してる」:鬱憤

朝はいつも起きてこないし、帰りだって毎晩遅い。
たまの休みの日だって、PCとにらめっこで全然かまってくれないじゃん。

私のこと、見えてますかー?

お前なんかな、「愛してる」って言わせてやるからな。

今に見てろ。

===後記===

明らかに不穏な、恨みつらみが立ち込めるシチュエーションでも、セリフに「愛してる」を据えるだけで、なんだかホッとできる物語になる説。

☆このシリーズの詳細はこち

もっとみる
古今東西の「愛してる」:レジ

古今東西の「愛してる」:レジ

こんなことある?

この春、私は生活を変えた。

新しい職場、新しい家に、胸が勝手に踊っている。

そして今、最寄りのコンビニに行ったら、レジに元カレが立っていた。

私だけが気付いている、一方通行の戸惑い。

「愛してる」

と言ってくれた時の、朱く染まる波の音と、

私の晩ご飯を読み取る音が交錯する。

===後記===

人と人は、いつどこで会うかがわからない。

いい出会いもあれば、思いが

もっとみる
古今東西の「愛してる」:流れてくる前か後

古今東西の「愛してる」:流れてくる前か後

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。

二人は日が暮れるまで働き、夜は仲良く鍋を囲みます。

「ばあさんや」
「なんですか」
「愛してる」
「もうおじいさんたら 知ってますよそんなこと」

めでたしめでたし。

===後記===

時代は違えど、愛は不変。

みんなが知っているあの物語、描かれていなかったとしても、きっ

もっとみる
古今東西の「愛してる」:20人の子供

古今東西の「愛してる」:20人の子供

叔母は毎年、20人いる子供たちから誕生日を祝われる。

が、その中に血がつながった子はいない。

みな元は戦争孤児なのだ。

似顔絵や手編みのセーターなど、子供たちの趣向を凝らしたプレゼントに、叔母は目を赤くする。

「愛してる」

この光景を見る度に、親子の愛に血縁関係は必要ないのだと、強く思う。

===後記===

親子の絆に、血縁関係は必要なのか?というテーマで膨らませてみました。

日本

もっとみる