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30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

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古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
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2018年6月の記事一覧

古今東西の「愛してる」:向こう側

古今東西の「愛してる」:向こう側

私の言葉に対して、彼女が喜んだり、怒ったり、気味悪がることは一切ない。

「愛してる」

という告白にも、大きな瞳で見つめ返してくれる。

それだけ。

私はそれで満足なのだ。

だがこの想いは周囲に理解されることはない。

ディスプレイの向こうにいる彼女に愛を捧ぐ私は、人間としておかしいんだろうか。

===後記===

想いの対象は、一般的に人間と考えられている。

中には、動物だったり、何か

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古今東西の「愛してる」:学校では教えてくれない

古今東西の「愛してる」:学校では教えてくれない

動物はどこで求愛行動を覚えるんだろう。

クジャクが羽を広げるアレは、男子高校生で言ったら、ワックスで髪をツンツンさせるとかだろうか。

分かりづらい。

そんな話を妻にしたら

「最初っから心が知ってんのよ、心が」

「そういうもんかなあ」

「そう。で、私のことは?」

「愛してる」

ストレートで助かる。 

===後記===

気になる子に気になってもらいたいとき、どうすれば良いんだろうか

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古今東西の「愛してる」:誘拐

古今東西の「愛してる」:誘拐

幼いころ、誘拐にあった。

塾の帰りに連れ去られたらしい。

らしいというのは、その記憶が欠けてるからだ。

今も覚えているのは、犯人の低い声と、母の抱擁の感触だけ。

「愛してる」私を抱きしめながら、私以上に泣きながら、母は耳元で叫んでいた。

子は親を選べないと言うが、母が母でよかった、と思う。

===後記===

親という存在は特別であり、不思議で不完全だ。

完璧なものなど無いのだけど。

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古今東西の「愛してる」:報告

古今東西の「愛してる」:報告

聞いてよ

こないだご飯食べ行ったのね

そうあのファミマの向かいのとこ

したら突然指輪出してきてさ

「愛してる」

だって

そんなの急にされたらびっくりするじゃん

私泣いちゃってさ

そしたらあいつも泣いてやんの

ウケるよね

いやノロケとかじゃないよ

そんなわけでお母さん

今度わたし結婚するよ

天国から見ててね

===後記===

仏壇に向かって手を合わせて思いを伝える、とい

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古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

31歳という繊細な時期に催された高校の同窓会。

みんな久しぶり過ぎて、初対面と知り合いの中間ぐらいだ。

そんな中見つけた昔の彼氏。

「久しぶり」

と話しかけてくるその表情には、一流商社マンの矜持が滲み出ている。\

上質なスーツと光る指輪。

「愛してる」

と言う彼をフッた当時の私、殴り飛ばしたい。

===後記===

あの時ああしておけば...といったタラレバな話は、何歳になってもつ

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古今東西の「愛してる」:20人の子供

古今東西の「愛してる」:20人の子供

叔母は毎年、20人いる子供たちから誕生日を祝われる。

が、その中に血がつながった子はいない。

みな元は戦争孤児なのだ。

似顔絵や手編みのセーターなど、子供たちの趣向を凝らしたプレゼントに、叔母は目を赤くする。

「愛してる」

この光景を見る度に、親子の愛に血縁関係は必要ないのだと、強く思う。

===後記===

親子の絆に、血縁関係は必要なのか?というテーマで膨らませてみました。

日本

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古今東西の「愛してる」:ヒーローインタビュー

古今東西の「愛してる」:ヒーローインタビュー

「それはもちろん、ファンの皆さんのおかげです」

試合後のスタジアムは異様なムードだ。

「それでは、ファンの方々へ一言」

こんな緊張は初めてする。

「愛してる」

「え?」

「あ、いや、ファンの皆さんに向けてです」

「なんだか愛の告白みたいですね」

「いえ...」

公共の電波、キミのために使ってみた。

===後記===

がんばれ、日本代表!

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古今東西の「愛してる」:漫画

古今東西の「愛してる」:漫画

最初に思ったのは

「こんな漫画みたいなのあるわけない」

だ。

朝学校へ向かう時、曲がり角で女子高生とぶつかった。

「気をつけてよ!」

その勝ち気な子は転校生で、隣の席で、

いつしか「彼女になったげる」と言われ、

いま目の前で白いドレスを纏っている。

「愛してる」

こんな漫画みたいなのあるわけない。

===後記===

こんな漫画みたいなの、経験してみたかった...

経験したこ

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古今東西の「愛してる」:しとしと雨

古今東西の「愛してる」:しとしと雨

幼い頃、いつも公園で遊んでいた僕には、隣町に住む友達がいた。

ある日2人で遊んでいると、急な雨に襲われ、急いで土管で逃げ込む。

しとしと雨を眺めながら、彼女は言う。

「ねえ」

「なに?」

「愛してる。」

「え」

当時の僕は、この言葉の意味を知らなかった。

毎年、この季節になるとほのめく後悔の念。

===後記===

鬱陶しいこんな雨も、どこかでは、誰かに近づくための口実になってい

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古今東西の「愛してる」:パパ

古今東西の「愛してる」:パパ

「パパー!」

モニターの向こうから、娘が手を振る。

誕生日、お祝いできなくてごめん。

ダメなパパだよな。

ううん、いいの、パパ頑張って!

娘のエールが心に響く。

その横で、妻も笑う。

2人の顔を見たのは1ヶ月振りくらいだろうか。

「愛してる」

数秒遅れで、届け、この声。

地球へ愛を込めて、宇宙から。

===後記===

様々な難関を乗り越えた一握りの人でも、「パパ」としての一

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古今東西の「愛してる」:車窓

古今東西の「愛してる」:車窓

東京に来て2ヶ月が経った。

実家から数百km離れたここでは、5月病になる余裕すらない。

クタクタになって乗る電車から外を眺むと、上京の日を思い出す。

2両編成の電車に、遠くの方で並走する自転車。

「愛してる」

声は聞こえずとも、想いは見える。

あの光景が心にある限り、頑張ろうと思えるのだ。

===後記===

新しく社会人になった人の中には、精神的にきつくなってきた人も出始めるころだ

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古今東西の「愛してる」:イジワル

古今東西の「愛してる」:イジワル

あんなに一緒にいたのに、別れなんてものは一瞬だ。

国籍も違えば肌の色も違う。

そんな些細な違いも乗り越えてきたのに。

彼は仕事を選ぶらしい。

大バカヤロウだ。

とりあえず見送りには来てやったけど。

何その表情。

私のが悲しいわ。

最後にイジワルしてやる。

「愛してる」

やーい、日本語わからないだろ。

===後記===

空港の別れのシーンって、非常にドラマチック。

あの2人

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古今東西の「愛してる」:探しもの

古今東西の「愛してる」:探しもの

由緒ある家庭に生まれ、幼い頃から茶道や馬術など幅広い分野に精通。

アメリカの大学に飛び級で進学し、在学中に作ったサービスは今も世界中で愛されている。

サービスを売ったお金で小さなカフェを開店。

朝はサーフィン、夜は枕元で
「愛してる」
と言ってくれる。

そんな私の王子様。

どっかいないかなぁ。

===後記===

こんなスーパーマンの中でも最高クラス、みたいな人、どこかにいるんだろうか

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古今東西の「愛してる」:酔っぱらい

古今東西の「愛してる」:酔っぱらい

酔っぱらいが苦手だ。

酒が飲めないからではなく、あの強引なノリが苦手だ。

昔、私以外がベロベロに酔ってる飲み会で、一緒に飲んでた彼女に愛の告白をさせられた。

「愛してる」

「それだけ?」

彼女の冷静さに驚く。

「...ので、結婚してください」

あの時本当に酔ってたのか、今も妻に聞けずにいる。

===後記===

「酒の失敗談」は、巷に数多くある。

が、実はそれと同じくらい「酒の成

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