韓国から見る、国民の国民による国民のための危機対応
韓国の戒厳令は、日本にも衝撃を与えている。
ネット上では、韓国国民の行動を称賛するとともに、日本で同様の事態が発生した際に、国民にできることはあるだろうかと嘆く声も見られる。
そこで、本記事では「日本で首相と自衛隊が暴走した」ときに想定されるシナリオを検討していきたい。
大前提
まず、大前提として「現代日本には戒厳令を正当化しうる明確な法規定は存在しない」ということを理解しておきましょう。
ネット上でも、左派ユーザーが「日本でも同様のことが」と騒いでおりますが、現状が維持できていればそもそも韓国のような事態には陥りません。
日本人は、もっと自分たちの憲法と法律に自信を持つべきでしょう。
現在の日本には明確な「戒厳令」の規定はありませんが、以下のような法律が「戒厳令的な状況」を生む可能性が指摘されています。
戒厳令的状況を生み出す可能性のある法律
(1) 自衛隊法
自衛隊法第76条(防衛出動)では、「武力攻撃事態」などの場合に首相が自衛隊に出動命令を出せます。自衛隊が出動すると、警察権を超える形で治安維持に関与する可能性があります。ただし、あくまで「防衛」の目的に限定され、「戦時統制や市民生活の完全な統制」には至りません。
(2) 国家安全保障関連法
集団的自衛権や武力攻撃事態への対応を定める法体系ですが、戒厳令のように国民の権利を制限する直接的な規定はありません。
上記の法律は、日本国内の規制ではなく、日本国外における「対応」を目的としたものです。
(3) 災害対策基本法
大規模な自然災害やテロが発生した場合、都道府県知事や国が強制的に避難を命じたり、交通を制限したりする権限を持っています。これらは戒厳令とは異なりますが、ある程度の市民生活の制約が生じる場合があります。
こちらは国内の「統制・規制」を目的としているニュアンスも含まれていますが、現状、災害発生時にしか適用事例がありません。ただし、「テロを演出して災害対策基本法を適用し、国民生活を統制する」ことはできるでしょう。今回の伊大統領のような暴論を適用することもできるという点に注意しましょう。
(4) 緊急事態条項(議論中)
日本国憲法には、非常事態における政府の権限強化を認める「緊急事態条項」がありません。自民党など一部の政党が憲法改正案として緊急事態条項の導入を提案しています。この条項が導入されれば、首相が緊急事態を宣言し、戒厳令に近い権限を行使できる可能性があります。
戒厳令の実施可能性
戒厳令そのものを現行法の下で導入することは憲法に反するため、事実上不可能です。ただし、大規模な武力攻撃やテロ、内乱が発生した場合、法解釈や法律の緊急的な運用により、自衛隊や警察が市民生活に強い影響を与える事態はあり得ます。
憲法第9条に基づき、軍事的な力で市民を統制することは困難です。
憲法第13条(幸福追求権)や第21条(表現の自由)に基づき、国民の自由や権利を制限することも厳しく制約されています。
上記の通り、憲法によって軍事的な統制や規制を盛り込む法律を作ることは基本的に難しいです。緊急事態条項ではなく、憲法に則った範囲で、国民生活を統制しない「国外のテロ・武装勢力への攻撃」を目的とした法律を通すことが重要になるでしょう。
軍事力の暴走が発生した場合
それでも万が一(一兆以上の確率だと思われますが)、
「もし日本の首相や自衛隊が憲法や法を逸脱し、独裁的あるいは違法な行動を取る「暴走」が起きた場合」、
日本国民が取れる行動は以下のように考えられます。
1. 「司法」を防衛するー法的手段による抵抗権を守るー
憲法や法律を基にした異議申し立て
日本国憲法は民主主義と法治主義を基盤としています。首相や自衛隊が憲法を逸脱した行動を取った場合、その違憲性を訴える法的手段を取ることができます。
弁護士や法曹団体と連携し、違憲訴訟を提起する。
地方自治体の議会や首長に働きかけ、法的異議を唱えてもらう。
司法制度を利用
司法が独立して機能している場合、裁判所に提訴して行為の違法性を争う。
日本の最高裁判所は「憲法の番人」として、権力の違憲行為を制約する役割があります。
韓国の最高裁判所の性質はわかりませんが、日本ではこのような暴走が発生した場合、何よりも威力を持つのが三権分立の一角である「司法」です。
軽視されがちですが、国民はまず最高裁判所に集結して自衛隊の侵入を防ぐ必要があるでしょう。司法機関が制圧されれば、暴走した政治権力が憲法と法律を掌握する可能性があります。
2. 世論形成と国際社会への訴え
国内の世論形成
マスコミやSNSを通じて違法行為を広く周知する。
抗議デモや集会を開催して、国民の意思を示す。
議会や地方自治体に働きかけ、議会制民主主義を守るための行動を促す。
国際社会へのアピール
国際連合や人権団体に事態を報告し、圧力をかけてもらう。
海外メディアを活用して、日本国内の状況を国際社会に伝える。
今回の韓国の戒厳令騒乱で何よりも威力を持ったのは、国会議事堂や大統領官邸前にデモ隊が集結したことでしょう。
世界各国の報道陣も詰め掛け、デモ参加者がその現状を訴えました。
アメリカからの圧力も当然あったでしょうし、こうした国際世論の形成は非常に効果があることを覚えておきましょう。
3. 抗議活動や不服従
平和的抗議活動
暴力に頼らず、平和的な抗議活動を展開する。
ストライキやボイコットなどを通じて、権力への不服従を示す。
非暴力の市民的不服従
国民が一丸となって違法な命令に従わないことで、権力を抑制する。
歴史的にはガンディーやキング牧師の運動が非暴力による抵抗の成功例として知られています。
ここで重要なのは「引き金を引かせる行動」をとらないことです。じっとしていて射殺されるのであればそれはただの「虐殺行為」であり、国内外問わず、政権の正当性は失われるでしょう。
韓国では女性リポーターが韓国軍の持つ銃を掴む描写がありました。これに対して一部の人は「危険だった」とリスクを訴えましたが、韓国人は「光州の歴史も知らない日本人は黙ってろと」と非難しました。
この手の議論は民主主義の本質を見誤らせます。軍事規定などで発砲許可のルールを無視し、単なる女性嫌悪でこの女性を批判するのは偏見がすぎます。そして、この女性嫌悪を「日本人は黙ってろ」と韓国固有の民族主義対立のフレームで罵倒するのも危険です。公共圏においては、民族が制約になることはあり得ません。
4. 地方自治体や議会の活用
地方自治体の抵抗
首相や中央政府が暴走しても、地方自治体の首長や議会が異議を唱えることで一定の抑制効果が期待できます。
地方自治体を通じて国会議員に働きかけ、憲法に基づいた制約を求める。
議会制民主主義の防波堤
与党議員や野党議員を通じて、暴走を国会で追及させる。
内閣不信任案を可決することで首相を辞任させる動きを促進。
日本の国会議員は「地元の支持や支援」が重視されます。そのため、次の選挙に影響を及ぼしかねない暴走は、後援会や支持者が許さないでしょう。そして地元を支える知事や地方議会も同様に、自身に近しい国会議員に働きかけるはずです。
韓国では、保守派政党のソウル市長が戒厳令に強く反発しました。こうした地方議会の動きも、暴走する権力にとって圧力になります。
5. 自衛隊内部の自浄作用
自衛隊は日本国憲法や自衛隊法に基づく存在であり、暴走が起きた場合でも内部の士官や兵士が法律遵守を求めて抵抗する可能性があります。
自衛隊員個人に対し、法的義務や倫理観を訴えかけることで、命令の拒否を促す。
現状、災害派遣やPKOなど「利他的な精神」を持っているのが我が国の自衛隊です。
自衛隊員の中には「武力を行使したい」という欲求のある人物もいるでしょうが、多くの場合は「国民に資するため」の精神が備わっているはずです。
今回の韓国戒厳令においても銃弾を装填しなかった、議事堂への侵入が緩慢だったなど、軍に対して一定の評価ができることも事実でしょう。
6. 国民の武力
最後の手段として、「国民が暴力的手段で抵抗する可能性」も議論されることがありますが、これは民主主義国家では極力避けるべき選択肢です。武力行使はさらなる混乱や犠牲を生み出す可能性が高く、国民の正当性を失うリスクがあります。
韓国の戒厳令では、暴力による騒動は確認されていません。
ただし、国民の抵抗力の源泉が「徴兵制度」にあったこともかなり皮肉に機能しています。議員や職員、デモ隊の中には徴兵経験のある元軍人が多く、韓国軍が動くならどこかということを予想でき、体力面でも現役の軍人に引けを取らない人もいるでしょう。
徴兵制が民主主義を守るために機能した稀有な例です。
アメリカの銃社会も類似した例です。連邦政府が暴走した際、アメリカ国民は銃を持って立ち上がることができます。
こうしてみると、日本には国民が持つ「武力」が存在しないこともまた事実です。無論、テロの準備などに悪用されるケースがあり、こうした皮肉な事例は、秩序と混乱の二重性を持っているでしょう。
以上のように、日本においても、取れる手段は多く存在します。韓国の戒厳令のような事態が近い将来起こらないよう祈るばかりです。