「コンビニから読む商売の原則 利益と在庫とコンサルタント」ショートショート
「はじめまして! スーパーバイザー兼コンサルタントです」
「よろしくお願いします!」
「Aさんですね。今回は脱サラして、コンビニ経営をされるということですね」
「はい。そうなんです。いまさらですが、いままでサラリーマンとして勤めてきたのですが、コンビニでやっていけるでしょうか」
「もちろんですよ! 顧客のことを考え、成功を目指せば、だれでもやっていけます。私もそのための助言をしにきたのです」
「ありがとうございます。SV兼コンサルタントというのは珍しいですね」
「はい。本業はコンサルタントなんですが、この地域の売り上げ底上げにSVを特別に本部から任されたのです。こういってはなんですが、自分がついた店舗はどこも売り上げ増加をしています」
「それは心強い!」
「まずは、在庫が切れないようにすること、これを守ってください」
「はい!」
「いま、はい。とおっしゃられましたが、何を基本的な、、、とおもいませんでしたか?」
「い、、、いえ、、、、いや、すみません。そう思いました」
「いいんですよ。基本ですから。でも、これを守るだけで売り上げが伸びます。少なくとも近隣のライバル店よりも売り上げを上げることができます」
「え!? そんなことでですか?」
「はい。この辺りは保守的な土地柄からか、シビアな品数でやっているところが多いのです」
「はぁ。。。」
「よく、完売御礼 とか出ているとすごいな、と思いませんか?」
「はい。思います」
「まず、その考えを捨ててください」
「え!?」
「完売しているということは逆を言えば、もう品がない、買いたいと思っている人がいたとしても買えない、ということじゃないですか?」
「あ、そうか・・・なるほど」
「そう。10個入荷して、10個売り切る。それでよろこんでいるかげで、もしかしたら20、30と買いたい人がいたかもしれませんよね。在庫があれば、2倍、3倍と売れたかもしれません」
「なるほど!! たしかに」
「これを 機会ロス といいまず。在庫ロスなどは目に見えてわかりやすいですが、機会ロスは目に見えない分、意識を変えないといけません」
「機会ロス!!!」
「消費者を第一に考えてみたら、行ってみたら売り切れていた、というのはイヤじゃないですか? お腹を空かせて店にいったら、スカスカの陳列棚、なんて、買う気もなくなってしまいます」
「たしかに・・・・・言われてみれば」
「お店として在庫を持て余さずにいいことでも、消費者にとっていいこととは限りません。そして、顧客の目線を大切にすることこそ、商売成功の秘訣なのです」
「なるほど!! そういわれると、最初の 在庫を切らさない という言葉も重みが違ってきますね!」
「わかってもらえたらなによりです。在庫を切らすくらいなら余らせる! 成功者は商機を逃さないものなのですから!」
「わかりました! やってみます!」
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「いや! 君が入ってくれたお店はどこも売り上げが増加しているよ、さすがだ!」
「いえいえ、自分は商売の基本を教えているだけですよ」
「いやー、新しくオーナーになったところも、バンバン仕入れをしてくれて助かるよ」
「いえいえ、本当に自分は商売の基本を教えてるだけですよ」
本部の人間が喜ぶのは、オーナーが在庫を持つために発注をふやしているからだ。
コンビニの仕入れはほとんどフランチャイズ本部が行う。
そのため、各店舗の仕入れがそのまま売り上げになる。仕入れが増えれば単純に売り上げが伸びるという寸法だ。
「しかもきちんと売れてくれている。いやはやすごい!」
それも当人にしたら当たり前の帰結だ。いままで売り切れていた分が在庫があるだけ売れているのだ。売り上げのうち数割がチャージ料として本部に入る。それもまた本部にとっての利益だ。
「商売がわかっていたら、こんなに仕入れるなんてしないだろうに」
そう本部の人間がこぼす。
商売の基本は 仕入れて売る その差額が利益となり、自分の儲けになる。
1個90円の原価のものを、10個仕入れて100円で売るとする。
その場合は、10円の利益×10個分で 100円の利益だ。
しかし1個あまったらどうだろうか。
売れて出る利益は
10円×9個=90円 となる。
しかし、ごく普通に考えて、1個を捨てる、90円分が無駄になってしまうので、
90円だった利益が 利益90円−破棄分原価90円=0円と、になってしまう。
さらにもし2個あまったら、180円分が無駄になり、利益は80円
100円の赤字だ。
そのため、在庫ロスは非常に痛い。
しかし、コンビニ本部の利益の考え方は違う。
コンビニがオーナーから差し引くときの利益は総利益ではなく、個別に発生する利益のことを指す
2個余っても、売れた8個分の利益から、チャージ料が取られる。つまり、80円の利益からさっ引かれるのだ。
そのため、過剰に在庫をもって、廃棄ロスでオーナーが赤字になったとしても、本部は絶対に利益を徴収できるのだった。
そのため、在庫を持ち、売れるだけ売ってくれた方が都合がいいのだ。
「いやいや、自分はただ、商売の基本を教えているだけですから」
そういってコンサルタントは本部の人間に告げながら、担当するSVの地域変更を願いでる。
「いやしかし、いいのかい? この地域はまだもっと伸びしろがありそうじゃないか。もっと売り上げを上げてくれたらそれだけ報酬を出すというのに」
「いえいえ、そろそろ次の地域をお願いします」
コンサルタントは無碍もない。
「なにごともほどほどに。足りないくらいがちょうどいい」
そしてコンサルタントはいう
「商売の基本ですよ」