社会人になる前に見たい映画『七つの会議』
映画『七つの会議』は、私の大好きな作品の1つだ。自社が取り扱っているネジの強度偽装を知ってしまったサラリーマンが主人公である。主人公を演じるのは狂言師の野村萬斎さん。(和装のイメージが強い萬斎さんがスーツを身にまとって気だるそうな表情を見せているのが、何とも新鮮だ。)
本作を見ていると、社会を支えているのは名もなき誠実な労働者たちなのだと感じる。彼らが作った多種多様な品物が、文字通り社会を「支えて」いるのである。本作は、社会の一員として日々働くことが決して虚しいものではないのだと教えてくれる。「有名は無名に勝る」と言わんばかりに炎上まがいの下品な手法で世間の注目を集め、一攫千金を狙うような生き方とは対照的な道をゆくサラリーマンの姿に、心揺さぶられる。サラリーマンって格好良いなと思えてくる。
同時に、スーツに身を包んだ大人の男たちがエゴ剥き出しで互いに足を引っ張り合い、社会規範さえ軽んじてしまう姿に失望する。行動の動機が幼稚で醜く、冷たい。会社のネームバリューや学歴で崇められ、熾烈な出世競争に晒される中で、人間として持ち合わせるべき優しさや理性が削られた結果なのかもしれない。
本作が描き出している誠実に働くことの格好良さ、幼稚で短絡的な大人のたちの醜さは、どちらも真実だと私は思う。誠実に働くことの尊さや責任を感じつつ、大人(人間)を信用しすぎない。このバランス感覚を失わずに生きることが、社会人として必要なのだろうと痛感する。これをたやすくできたなら、どんなに良いことか・・・・!これが難しいがゆえに、不正に手を染めたり、心身を病む人が後を絶たないのだと思わずにはいられない。
ちなみに、私が最も共感する登場人物は、香川照之さん演じる北川という社員だ。サラリーマンとしての葛藤や悲哀が滲み出る男で、見ていて本当に、言葉にならない。主人公が格好良いのはもちろんだが、北川の生き方にも愚直さや必死さが見て取れて、嫌いになれない。
こんなふうに書くといかにもお堅い作品だと思われそうだが、実際はエンタメ要素も多分に含んでいる楽しい映画なので、少しでも興味が湧いたら見ていただきたい。
特に、高校生や大学生におすすめしたい。働くことの意義と責任、大人に対する敬意と失望、色々なものを感じられるはずだ。時空を操れるのなら、私も高校生くらいの時に本作を見ておきたかった!私が社会科担当教師なら、本作を授業2コマくらい使って学生たちに見せたいものである。
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