クリスマスショートストーリー:『仕事と恋の交差点』
「5年間の片想い、そしてクリスマスの夜に訪れた予想外の瞬間」
すべてが交差する特別な夜、切なくも美しい大人の恋愛ストーリー。
渡邉翔は、美咲と出会ったその日から、静かな片想いを続けてきた。
広告代理店に新卒で入社した彼女は、初日から彼を魅了してやまなかった。
彼女の鋭い洞察力と繊細な感性、そして真摯な仕事への姿勢。
そのすべてが、渡邉の心を引きつけていた。
広告キャンペーンの会議室。
美咲が次々と提案するクリエイティブなアイデアは、いつもプロジェクトの方向性を決定づけた。
「翔さん、このキャンペーンのコンセプト、もう一度見直してもらえますか?」
美咲が資料を手渡すとき、彼女の指先がほんの一瞬彼の手に触れる。
その温もりに、渡邉の胸がわずかに震えた。
二人は同じプロジェクトチームで働き、深夜まで一緒に仕事をすることも多かった。
コーヒーを淹れ直しながら笑い合い、真剣な顔でアイデアを出し合う時間は、渡邉にとってかけがえのないものだった。
だが、美咲には婚約者がいた。
彼女がそのことを打ち明けたとき、渡邉は静かにその恋を諦めた。
彼女の幸せを願いながら、同僚として自分を貫くことを選んだのだ。
クリスマスパーティーの夜、会議室の片隅に古びたクリスマスオルゴールが置かれていた。
その小さな音色が静かに響き、美咲がふいに彼の隣に立った。
目に涙を浮かべた彼女が告げる。
「翔くん、実は婚約者と別れることになったの」
彼女の声は、喪失と解放の入り混じった響きを持っていた。
「私、不幸を選んでしまったのかもしれない」
その言葉に、渡邉の心は大きく揺れた。
長年抑え込んできた感情が、一瞬で押し寄せる。
「俺が幸せにする」と言いたかった。
けれど、美咲は続ける。
「今は、誰にも頼りたくないの」
その言葉は、渡邉の心に深く突き刺さった。
長年、美咲を想いながらも同僚として支えてきた自分の矜持が、彼を止めた。
オルゴールの音色が二人の沈黙を包む。
渡邉は穏やかな声で言った。
「大丈夫ですか?」
美咲はかすかに微笑んだ。その微笑みの裏にある感情を、渡邉は言葉にすることができなかった。
パーティーの喧騒が遠くで聞こえる中、渡邉は静かに彼女を見送る決意をした。
オルゴールの音色が、未告白の想いを優しく包み込むように響いている。
白いLEDライトに照らされた会議室は冷たく静まり返っていた。
それでも、その夜二人の間に交わされた感情は確かにそこにあった。
オルゴールが奏でるメロディは、誰にも聞こえない。
それでも、過去と現在、そして抑え込んだ想いが交差する音が、渡邉の胸の奥で静かに響き続けていた。
クリスマスの夜。
オフィスに広がる可能性は、まだ宙に浮いたままだった。