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俳優とばったり遭遇する街、パリ

マレ地区を散歩していた時のこと。ギャラリーの入り口に貼られたポスターを見ていると、中から出てきたムッシューが「ここ、よかったよ」とニコッと教えてくれた。

後からパートナーに「さっきのムッシュー誰だかわかった?」と聞かれ、驚きました。なんと俳優のダニエル・オートゥイユだったと言うのです!全然分かりませんでした!


ダニエル・オートゥイユといえば、『メルシィ!人生』

コンドーム会社に勤める主人公が突然解雇を言い渡され、思い詰まってベランダから飛び降りようとするところを隣人に止められます。事情を聞いた隣人は「君がゲイだと思われるように写真を加工して会社に無記名で送ろう。そうしたらゲイが理由の不当解雇だと人権団体に訴えられるのを恐れ解雇を見送るはずだ」と提案されます。2人の企みはうまくいくのですが…

と言うザ・フレンチコメディ。

懐かしくなって久しぶりに見返しました。当時は日本語字幕で観ていた作品が今はフランス語で観れることに嬉しくなります。


性差別や人種差別発言あるあるを突いたブラックジョークは今見返しても冴えていて、人って変わらないなあと感じます。

差別的な発言を注意されるや「今のは意地悪な意味で言ったんじゃない!俺は差別なんかしない!」と憤慨する様子なんかまさにあるあるで爆笑。
フランスのサッカー選手が日本人のホテルスタッフを馬鹿にした様子のビデオが流出し差別発言だと炎上したときも謝罪の言葉はなく、「あれは差別なんかじゃない!差別は自分が最も嫌う行為。差別主義者だなんて自分とは程遠いレッテルを貼ろうとしてくる人たちに憤慨している!」みたいな発言をしていたことを思い出しました。

差別的な発言をする人ほど自分こそ正義と勘違いしているのは古今東西変わらないもの。フランスのコメディは面白くないで有名(?)ですが、『メルシィ!人生』の笑いは古今東西伝わるのではと思います。ちなみにダニエル・オートュイユだと『ぼくの大切なともだち』も大好きな一本。自分には友だちがいないと思ったことのある人は、ぜひ。星の王子様を読み返したくなる作品です。


街でばったり役者と遭遇すると、なんだか不思議な気持ちになります。思い入れのある作品に出演していた役者さんだとなおさらです。
映画の中でしか見たことのない人たちがカフェでお茶を飲んだりお散歩しているのが、すごく不思議で、映画の世界が現実の世界と重なるような驚きがあります。


ファッションウィークや撮影現場で役者や有名人と遭遇することはあるのですが、そう言うときには特に感動はありません。撮影現場では私は仕事をしている私を演じ、役者たちは役者である自分を演じる延長線上にいるので驚きがないのかも知れません。


ところが街中で思いがけない瞬間にすれ違うと、予期していなかった分すごく新鮮です。それに役者の役者じゃない普通の人間である瞬間と自分の日常がすれ違うことになにか特別感を感じます。


昔マレ地区のギャラリーでロマン・デュリスが個展をやっていると聞いて見に行くと、すぐ側のカフェのテラスでロマン・デュリス本人がお茶を飲んでいるのに遭遇し、心の中で歓声をあげました。

そもそも外国に住もう!留学しよう!と決めたのは中学生のときにロマン・デュリス主演の『スパニッシュ・アパートメント』を観たから。私がいまこの街にいるきっかけになったその人が目の前に不意に現れるというのは、人生からのYESが突然降って来たようでした。
サインを求める訳でも話しかける訳でもなく、道の反対側から見つめただけなのですが、中学生のとき外国に憧れた自分と今の自分が一瞬繋がって、ここに来たのは良い選択だったと言われたような気持ちになりました。



もう一つ嬉しかったのは、友人カップルとパートナーと4人で流行りのレストランに行った時のこと。カウンター席の隣りの2人組と友人カップルが話し始めて驚きました。なんと、ヴァンサン・マケーニュではありませんか!友人の彼女は舞台女優で、ヴァンサン・マケーニュと知り合いだったのです。

映画では禿げ散らかした感じを強調されているけれど、実物の本人はとても魅力的な雰囲気です。想像よりずっと素敵。

ヴァンサン・マケーニュと言えば『女っ気なし』『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』が好き。全く男前じゃないし、ボサボサ気味なのだけど、一度見たら忘れられない雰囲気があり、彼が出ていると他の作品も見てみたいなと思わせる独特の存在感があります。顔がよくてツルツルした人よりも、存在感があってチャーミングな人に魅力を感じます。



でも何より母から聞いて羨ましかったのが、母と友人がパリの居酒屋的バーで呑んでいるとドニ・ラヴァンに声をかけられた話。
もしもドニ・ラヴァンに遭遇なんてしちゃったら恥ずかしくて声なんてかけられないだろうけど、間違いなく会ってみたい俳優No.1。
いつかModern Loveを聴きながら、一緒にパリの街を走りたいです。

そしてこの街には、そんなことも起こるかも知れないと思わせる、夢見る空気が流れているのです。


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