連載小説「オボステルラ」 【第二章】27話「道、拓ける」(5)
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3人が地図を囲んであれやこれやと話していると、
「ただーいま」
と、買い出しに出ていたヒマワリとロベリアが帰ってきた。
「あれー、なにしてんの? 地図?」
「ああ、うん…。巨大鳥がどのあたりを飛ぶのか予想できないかと話してたんだ」
「え? どうやって? 実在するかもわからない鳥なのに?」
ヒマワリにそう聞かれて、リカルドはあっ、という表情をする。ミリアが巨大鳥に乗ってこの街に来た王女様だなんて話はとてもできない。気分が高揚しすぎて、口が滑った。
「…まあ、僕のこれまでの研究の集大成とかね、その、いろいろ、ね」
「へー…」
ジロジロと地図を見るヒマワリ。博士の失態にエレーネは笑いをこらえているようだ。ロベリアは興味がないのか、奥のソファに「ふう」っと座っている。
「……で、巨大鳥ってオス? メス?」
「……え?」
そのヒマワリの何気ない疑問に、リカルドはもちろんエレーネもミリアも固まった。
「オス、メス……」
「え、だって卵が大事なんでしょ? メスじゃないと、卵産まないじゃん」
「そ、そうだね……」
そう言われてみればその通りだ。巨大鳥を半ば神格化してしまっていて忘れていたが、そもそも鳥は、オスとメスが両方いなければ卵を宿すこともない。
(巨大鳥は最低、つがいで2羽いないと、卵は産まれない。いや、でも、各地には鳥と卵の伝承が同時に残っているのだから、つがいがいないということはないのか…。鳥が2羽、という伝承は聞いたことがない……)
ミリアがチラリ、とリカルドを見る。
「見た目でオスかメスか、分かるものなのかしら?」
「うーん、そうだね。鳥はそもそも、見た目での性別の判別が難しい生き物だからね。種類によっては、鼻の色とか羽の色や大きさで見分けられるけど、巨大鳥自体の生態が不明だからなあ…。僕たちが知っている鳥類と同じ生き物なのかすら、断言はできないんだよ。恐竜に似ている、という伝承が残る地域もあるくらいだしね。我々の理解の範疇を超える生態である可能性も…」
「……」
ミリアが少しでも記憶を辿ろうとしてくれているようだが、ヒントはなさそうだ。
リカルドの長話に飽きたヒマワリが、買い出しの袋をザッと差し出す。
「それより! カーユの材料買ってきたから。早く作ってあげなよ」
「あ、ああ、そうだね。エレーネ、お願いできるかな?」
「ええ、なんとかやってみるわ」
とにかく頼もしい女性である。
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「……」
良い香りがして、ゴナンは目を覚ました。
「あ、起きた? ゴナン」
「……何か、匂いがした」
そう言って、体をゆっくり起こす。まだ熱は下がっておらず、頭も痛い。
「体調が悪いときにオススメのカーユという料理があるって教えてもらって、作ってもらったんだよ」
そう言って、薬草が入った白い流動食のような料理を指す。
材料が届いたのは昼頃だったが、結局カーユを完成させられたのは夕方だった。
まずエレーネが記憶を頼りに作ってみるも、なぜか固形の団子状に固まってしまう。仮眠から起きてきたナイフに頼るも、今度は穀物が粒のままで、うまくペースト状にならない。困り果て、街の食堂や宿を回って作り方を知っている人を捜し回って…、ようやく1人だけ見つかった。ミリアが宿泊を断られ、その翌日に爆発事故が起こっていた宿の親父だった。
そうしてようやく完成したものの、もう日も傾き、「フローラ」の営業も始まるところである。
「食べられそうかな? 無理はしなくてもいいけど…」
「……食べてみる」
ゴナンはリカルドから器を受け取り、スプーンで一口食べてみた。ほのかに甘い穀物のファイアグラムに少し塩を利かせてある。ウィンドリーフの香味が程よく、胃にするっと入っていく。
「…おいしい……」
そう言って、もう一口、もう一口と食べるゴナン。じきに、一杯平らげてしまった。リカルドは嬉しそうに見守る。
「……たくさん食べたね! おかわりは要らない?」
「さすがにもう入らないよ」
「じゃ、薬を飲もう。きっと良くなるよ」
ゴナンはうん、と頷き、薬を飲んで、また横になる。リカルドは氷嚢を乗せてあげると、ニコニコしながら階下に器を下げに降りてきた。ちょうど、着替えと化粧と胸への詰め物を済ませたヒマワリがカウンターの所に来ている。
「ゴナン、全部食べたよ! ヒマワリちゃん、ありがとう!」
「へえ、よかったね」
そうあっさり答えるヒマワリの手をとり、ブンブン振るリカルド。勢いが強すぎて、ヒマワリの白銀の髪が揺れる。「ほんと、この人、何なの?」という表情でヒマワリはナイフの方の方を見た。ナイフは肩をすくめて笑っていた。
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