連載小説「オボステルラ」 【第二章】56話「その旅路の向こうには」(3)
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とにかく言動からボロが出やすい上に、ただ立っているだけでも隠しきれない王女の品格が溢れ出てしまうミリア。
せめて、“貴族”感を少しでも薄めて王女であるとバレる可能性を減らすために、もっと一般的な仕立てで安い生地の洋服を着て欲しいと、リカルドはミリアに要望した。
もちろん本人がイヤでなければだったが、「影武者の装いをするのね」とミリアはかなり乗り気だ。それはそれで少し、話がずれているような気はするが…。
ともかく、そこでリカルドがミリアに選んだのが……。
「今、ア王国のオシャレっ子の間で流行っている、コビナ衆国のポー部族の民族衣装の柄をフィーチャーした洋服にしてみた。王女様が隣の国の柄の服を身につけるとは思わないだろうし、とはいえ流行の服だから街には馴染むし、トレンドを押さえたオシャレ感もアピールできる。何より似合っているし、ね」
コビナ衆国とは、帝国とは反対側、東側に接する隣国のことだ。20の部族が集まった国で、部族ごとに装いに伝統の色柄を持ち、そのテキスタイルがア王国で流行っている。
「お城から着てきたお出かけ着よりも軽くて動きやすいわ。このようなお洋服、初めて着るけど、着心地もなかなか良いわね。こういう服装が巷では今、人気なのね。勉強になるわ」
またしてもリカルドがコーディネートについてあれこれと語っている。ミリアはデザインよりも機能性を気にしているようだが…。
ミリアが纏っているのは、民族の柄が首元に入ったオレンジベージュのチュニックに巻きスカート、その下にもズボンを重ねており、動きやすさも兼ね備えている。今まで着ていたジャケット、スカートのスタイルと全く印象が違う。それでも品の良さはにじみ出ているが、確かに“王女感”は薄まったかもしれない。
「それにしても…」
リカルドの横で、ナイフがミリアの顔をまじまじと見ている。
「あのキレイな髪を切ってしまってよかったの?」
「ええ、やっぱり旅をするには、長いままだとお手入れがとても面倒なんですもの。後ろでまとめられる程度の長さは残してもらっているし、髪は伸びるものだから、問題ないわ」
ミリアは服装を変えるのに合わせて、腰まであった髪を、肩より少し長い程度に切ってしまった。城では盛装にも映えるように大切にケアしながら伸ばしてきたであろう髪を、躊躇なく切ってしまう気っぷの良さは、流石である。
「あの髪が売れるのであれば、売ってしまってもよかったのだけれど…」
ミリアはそう惜しそうに言うが、リカルドはとんでもない、と止める。美しく長い髪は重宝されるため、比較的高価で売れるものではあるが、とはいえ王女の髪である。うっかり呪術師などの手に渡ってしまったりしては、それこそ国を傾けかねない結果にもなりうるのだ。
「ロベリアさんがウィッグ作りが得意だそうだから、彼に託そう。お金に困っているわけではないんだから。外には出さない方がいいよ」
「そう…。少しもったいない気がするわね」
そう残念そうにするミリア。不思議なところで、庶民的な感覚を持っている。
「短いのもよく似合ってるよ、その服も似合ってる」
そう言ってミリアの髪を櫛ですいているのは、ゴナン。
実は、ミリアの髪を切ったのもゴナンだ。よくミィや母親の髪をこうやって切ってあげていたからと買って出た。とはいえ、最初はナイフで髪をちぎり切ろうとしていたものだから、慌ててハサミの使い方を教えるという顛末もあったのだが。
「ゴナンは器用だねえ。初めてのハサミもすぐに使いこなしたし、街の床屋さんに行く必要も全然なかったね。とってもキレイに切れているよ」
リカルドがニコニコしてゴナンを褒めている。ミリアの“引きの悪さ”を考えると、ハサミとはいえ刃物を扱うような市中の店にあまり行かせたくないという事情もあった。
「あなたもゴナンに切ってもらえばいいじゃない? 目にかかる前髪とか、うっとうしいのではない?」
「いや、僕はいいよ。この絶妙な無造作ヘアは、流石のゴナンでも難しいと思うから」
「……。それ、ボサボサ放置ヘアではなかったの……?」
ナイフとリカルドがそう無駄口を叩く横で、ゴナンは無表情だが、ミリアの頬に残っている髪を落とすなど、相変わらず甲斐甲斐しく世話を焼いている。なんとも微笑ましい。
「よし、これで最大の懸念事項は、少しは解決したかな…」
「わたくし、影武者に見える?」
ミリアは目を輝かせて、リカルドに尋ねる。
「影武者どころか、そこらにいる普通のミリアさん、だよ。うまく化けられているよ」
にっこり答えるリカルドだが…。
(とはいえ、“異国の王女感”はどうしてもあるんだよなあ)
ぶっきらぼうな言動なども教えるべきかと、リカルドは少し迷っていた。
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