連載小説「オボステルラ」 【第二章】37話「鳥か、卵か」(3)
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「え、巨大鳥、が…いる…?」
リカルドは足を止め、エレーネに向き合った。エレーネは強く頷く。
「湖の水を飲んでる風だった。そして、鳥の背中に人影も見えたわ。ミリアが言っていたのと同じような状況だったから、もう少しあの水辺に滞在するかもしれないと思って、急いであなたを呼びに来たのだけれど…」
湖は店から西側の方角、ヒマワリが駆けて行ったのと正反対だ。
(なぜ、今、このタイミングで……)
リカルドの後を追ってゴナンとミリアも店から出てきた。ナイフは、騒ぎに驚いて寮から出てきたローズ達に、店の片付けなどを手早く指示している。
「リカルド! 鳥が今来ているのなら、鳥を追わないと!」
ゴナンがリカルドをそう急かす。
(鳥が先か、卵が先か……)
リカルドは脳内で激しく葛藤した。
ずっと、何年も、追い続けていた巨大鳥。しかし、自身の最後の目的は鳥に会うことだったか、卵を得ることだったか。鳥を押さえれば、その鳥が卵を産むかもしれない。いや、でも、鳥がオスという可能性もある。そもそも、産むのを待たずとも、卵がもうすでにある……。
「…ゴナン、僕は卵を追う! 君は…。任せるよ。無理はしないで!」
そう言って、リカルドは剣を持って東に向く。
ナイフはローズに、「あの帝国男どもが来たら、店を荒らされる前に、卵は東の方だって素直に教えなさい」と指示し、店から出てリカルドに同行しようとした。その様子に気づき、エレーネはヒマワリに蹴り飛ばされていた自身のレイピアを拾い、ナイフに渡す。
「状況がよく分からないけど、武器があった方が良いのでは?」
「エレーネ、ありがとう。でも私は、武器の類の扱いは一切ダメなの。この拳と蹴りと体術だけ」
「えっ、『ナイフ』って名前なのに、刃物で戦わないなんて…」
思わずエレーネが漏らした言葉に、ナイフはなぜか嬉しそうに反応した。東に駆け出そうとしていたリカルドも一瞬足を止め、エレーネに微笑みかける。
「さすがエレーネ! 彼女はその一ネタのために、自分の通り名を『ナイフ』にしてるんだよ!」
「……あ、ああ、そう……」
この場では全く重要ではないその情報をエレーネに伝えて、リカルドはナイフと共に駆け出した。ミリアは2人の背中に声をかける。
「わたくしはエレーネと湖に行ってみるわ!」
「ありがとう、よろしく」
リカルドの返事に頷いて、エレーネと共に西へと走っていくミリア。
ゴナンはどちらに行こうかと、迷った。
(鳥か、卵か……)
どちらに行くべきか、ゴナンには判断が付かない。
そうして、ゴナンはただ、リカルドの背中を追うことに決め、東へと走り始めた。
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