連載小説「オボステルラ」 【第二章】28話「道、拓ける」(6)
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と……。
「4人だ、ラウンジの席は空いてるかな」
と入口から声がした。聞いたことのある重苦しい声。リカルドはピリッと警戒する。
(こいつら、また来た……!?)
ナイフが赤い髪をさっと整え、エメラルドの瞳に笑顔を作る。
「あら、いらっしゃい。また来てくれたのね、嬉しいわ」
件の、帝国人らしき4人連れの男達だ。彼らが市中で起こしたミリアとの騒動はナイフにも伝えている。ミリアとエレーネがもう部屋に戻っている時間帯でよかった、リカルドはほっとする。
ナイフはリカルドに目配せをして、ラウンジの方へと4人を導いた。ヒマワリも営業スマイルで話しかける。
「はーい、武器は預かりまーす。こっちにくださいな。入口の棚に保管しておきまーす」
「……あれ?」
と、例のデイジー指名男がリカルドに目を留めた。
「なんだよ、お前、今日もいるのかよ。今日はデイジーちゃんは指名できないのかなあ」
「…あの子は今、2階で寝てるよ」
少し挑発的な微笑みでそう答えるリカルド。状況的にその表現で間違ってはいないのだが、ここは酒場で2階は貸部屋。事情を知らない者には違うニュアンスに聞こえてしまう。
「…へーへー、まだ早い時間なのに、相当入れ込んでるんだね。あの子も素朴そうな感じで、中々やるなあ」
「……どうぞ、ごゆっくり……」
リカルドは笑顔のままそう伝えて、カウンター席についた。ナイフはラウンジに案内しながら、4人に尋ねる。
「今日もヒマワリちゃんをつけましょうか?」
「ああ、ヒマワリちゃんも楽しいんだけどな。もう1人、落ち着いた人も着けて欲しいな。年齢がいっている人がいいんだけど。一番、年長の人は?」
(……!)
キャストで最年長はロベリアである。が、前回のことを思い出したナイフは、ヒマワリにこう依頼した。
「……そうねえ…。じゃ、ローズちゃんを呼んで来てくれる? 裏でスタンバってるはずだから。ヒマワリちゃん」
「はーい」
そそくさと裏へと行くヒマワリに、ナイフは耳打ちする。
(ロベリアちゃんに、この人たちが帰るまでは出てこないように伝えて)
(? りょーかい)
事情がよく分かっていないヒマワリは、首をひねりながらも小声で了承した。
リカルドもカウンターから、男達の様子を厳しい目で見ていた。
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「……で、また1時間で帰っていったわね…」
男達が店を去った後、ナイフは席を片付けながら、またため息をついた。
「あの人達、全然楽しそうじゃないのねえ」
そうふんわり話すのは、ローズだ。年齢は30代後半の、見た目は女性にしか見えないゆるふわ癒やし系のキャストだ。ナイフと同じように、体は男性でも女性の心の持ち主で、キャストの中では最古参、リカルドとも旧知の仲である。
「ローズちゃん、何か嫌な目にあったりしなかった?」
リカルドが心配してローズに尋ねる。ピンク色に染めてゆるく巻いた長髪を、色っぽくかきあげるローズ。
「なんにもお。だってあの人達、お店をきょろきょろ見回すだけで、全然しゃべんないんだもん」
ヒマワリも首をひねる。
「ローズちゃんのこの色気にほだされないなんて、どうかしてるよね、リカルドさん」
「…ん? ああ、そうだね」
「……」
リカルドの薄い反応に、また眉をひそめるヒマワリ。ローズがくすくす笑う。
「だめよお、リカルドさんはそういう感性が、死んでるのよ」
「……あはっ、その情報はキャスト間でも共有されてるんだね、覚えとく」
そう言って笑い、食器を片付けにカウンターの奥へと行くヒマワリ。
「これはいよいよ、誰かを探してるか、何かを探してるかのどっちかだね…」
「その両方って感じもするわよ……」
リカルドとナイフはカウンターの方へ戻ると、小声で話し合う。
「ナイフちゃん…。キャストちゃんの過去にこだわらない姿勢は立派だけどさ、ロベリアちゃんにはちゃんと聞いた方がいいんじゃない? お店が危ない目に遭うかもよ」
「そうね…。時間を見つけて話してみるわ」
と、「こんばんは」と新たに客が来店した。キャスト達はまた、接客に追われ始めた。
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