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連載小説「オボステルラ」 【第二章】40話「鳥か、卵か」(6)


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第二章の登場人物



 ヒマワリがいた催涙の煙から回復した男達は、何も言葉を発さないまま、厳しい顔でその場を去った。本国へ戻り報告するのだろうが、もしかしたら彼らの失態が何か罰せられるのかもしれない。もう、ロベリアには興味も持っていないようだった。

「はあ…、ニセモノか……。残念だったな。そんなうまい話はないか」

 リカルドは、ヒマワリが卵を割った岩に、欠片をけて腰掛ける。ゴナンもその横に座るが、顔色が悪くなっている。リカルドはゴナンの額に手を当てた。そういえば、いつものバンダナもなく、寝間着のまま飛び出してきてしまっている。

「ゴナン、また熱が上がっているよ。しんどいだろう。僕に寄りかかって」
「うん…」

ゴナンは力なく頷いて、リカルドの肩に体を預けた。
崖の方では、ナイフがロベリアに手を差し伸べている。

「さ、ロベリアちゃん、帰りましょう。ほら、結局、卵なんて関係なかったじゃない」

「……でも、私は、お店よりも卵を選ぼうとしてしまって……」

「あなたがお店にそこまで義理立てする必要は、ないと言えばないのよ。あなたの人生はあの卵にあったのでしょう? 気にしないで」

ナイフはそう微笑んで、ロベリアを立たせた。

「あなたとゴナンの傷を治療しなきゃいけないから。さっさと戻りましょう」

ナイフのその呼びかけに、リカルドも応じる。剥き身のまま持ってきた剣をナイフに預けて、ゴナンに声をかけた。

「ゴナン、帰りは僕が背負うから」
「……うん、ごめん……」

いつもなら強がって自分で歩くという所だが、よほど辛いのだろう。素直に従い、リカルドの背に乗った。体がとても熱い。そして、北の村に居た頃よりは肉がついてはいるものの、やはりまだまだ、体が軽く感じる。

「ゴナン、寝てしまっていいから。戻ったらすぐに薬を飲もうね」
「うん……」
リカルドの背中でぐったりと体重を預け、顔を肩に乗せるゴナン。そのまま、間もなく眠りに入っていった。

一気に駆けてきた道程を、帰り道はゆっくり歩きながら、4人は帰路についた。

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 「あ、お帰りなさい」

40分程歩いて『フローラ』に戻ってくると、ミリアが皆を出迎えた。中ではエレーネが他のキャスト達と一緒に、割れた酒瓶の片付けなどを手伝ってくれている。ナイフはロベリアの肩に上着をかけて、そのまま裏の寮の方へと導いていった。

「湖に着いたときには、もう鳥はいなかったの。そちらは?」

ミリアの報告に、リカルドは少し微笑みながら答える。

「ああ、結局、あの卵もニセモノだったよ。ヒマワリちゃんはドロンと消えてしまったから、詳しい話は聞けずじまい。何の収穫もなし、だね」
「ドロン?」
「後で詳しく話すよ。ミリア、首は大丈夫?」
「ええ、ちょっと強く押さえられただけだから」

 そう言うが、首には赤いアザが残っている。リカルドは痛々しくその跡を見たが、一方のミリアはリカルドに背負われているゴナンを気にしていた。全身をリカルドに預け、力なく眠っているゴナン。

「ゴナンは大丈夫なの?」

「ああ…。まだ完全に治っていないのにあれだけ走ったから、熱が上がったみたいだね。でも、ゴナンの視力がなきゃ、ヒマワリちゃん達に追いつけなかったなあ…」

「そう…」

ミリアはゴナンの額に手を当てた。想像よりも熱く、ミリアは驚く。その手のひんやりとした感触に気付いたのか、ゴナンが目を覚ました。

「……あ、……着いた? ミリア、大丈夫?」

自分の方がきつい状態なのに、ミリアを心配するゴナン。ミリアは笑顔を作った。

「首は大丈夫よ。でも、結局、鳥はもういなかったの」
「そっか……」

と、そのとき。

『フローラ』のある飲み屋街、宿屋街を歩く人々が、ざわっとざわめいたようだった。
何だろうと周りを見回してみると、皆、空を見上げている。
そこには……。

「…巨大鳥……」

 リカルドが、小さく口にした。茶色の巨大な鳥が、空を悠々と飛んでいる。異様な大きさに人々は騒ぎ、うろたえ、呪いの伝承を口にして「見たくない!」と屋内へと逃げ込む人もいるようだ。そんな下界の人々をあざ笑うかのように、地面近くの空を少し周回したあと、鳥は高度を上げていく。

と、その奥にもう一つ、大きな鳥のシルエットが見えた。巨大鳥を追いかけているように見える…。

(あれは? もしかして、つがい…?)

リカルドはハッとして、背中のゴナンに声をかけた。

「ゴナン、巨大鳥に人が乗っているか見える? それと、あの後ろに飛んでいる鳥、あれも大きい鳥に見えるんだけど……」
「……?」

ゴナンは目を凝らすが…。

「ごめん、太陽がまぶしくて、よく見えない……」
「あ、そうだよね、ごめん。無理しないで」

リカルドはそう言って、少し遠い目をした。

「こんなことなら、鳥の方を先に追うべきだったかな…。目の前の分かりやすい欲に目がくらんでしまって、この有様だ。あの巨大鳥は、僕をせせら笑っているね」

「……?」

「…そういえばゴナンは最初に、鳥を追うように言ってたね。君の言うとおりにすべきだったよ」

 そう言って、リカルドは巨大鳥を気にせず店の中に入っていった。どうせ今日はもう、追いつけない。今日は『機』ではなかった。そんな感触を、リカルドは抱いていた。






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