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連載小説「オボステルラ」 【第二章】26話「道、拓ける」(4)


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第二章の登場人物



「ねえ、リカルド。王家の話もいいのだけど、私はミリアに巨大鳥の話をもっと聞きたいのだけれど。巨大鳥に乗っていた人がいるって、研究者にとってはかなりの大事件なんじゃないの?」

ふと、エレーネがそう切り出した。リカルドははっと顔を上げる。

「そうだった! なんだかんだで後回しになっていたけど、巨大鳥の生態について、とても話をききたいんだよ、僕は」

「……え、ええ。構わないけど、何を話せばいいのかしら…」

「そうだね…。第一に、僕は巨大鳥をもう一度みたい。叶うならば、触れたり乗ってみたりしたい。そして、僕にどのように不幸が起こるかも、できれば確認したいんだ。巨大鳥の行動パターンのようなものは、あったのかな? それで、次に現れそうな場所を予測できればと思うんだけど」

「行動パターン…」

ミリアは上を向いて、思い出す仕草をする。

「前に言ったように、1日数回、不思議と食べ物や水がある場所に降り立って、わたくしが食事や休憩や、水浴びをする間はじっと見守ってくれるの。もともと鞍が付けてあったし、普段から人を乗せている『飼われている動物』という印象だったわ。それで、大体、水場がある場所を周回することが多くて…」

「周回?」

「そう、同じエリアの水場を何度も回るの。水を飲む順番が決まっているかのような周り方だった」

「北の村……、あのゴナンと僕に会った村の泉にも、もしかして何回も来たのかな?」

「いいえ、あの村の周辺は例外だったわ。あそこの泉へ降りたはあの1回だけだし、すぐに南へと飛び立ってしまったから…。降りたときに誰か人と会ったのも、あのときだけよ」

「そうか…」

と、話を聞いていたエレーネが、「ちょっと待ってて」と2階の部屋から地図を取り出してきた。ア王国全体と、隣国のエルラン帝国の一部までフォローされている。

「どういうルートを回ったか、分かるかしら?」

「……ええと…。はっきりとは分からないのだけど…」

鳥からの目線と地図とを照らし合わせるのは、なかなかに難しそうだが、ミリアは自身の記憶を呼び覚ます。

「……城を出て、最初にこことここの池は回った記憶があるわ。この街の鉄塔が目印だったから…。そのあとは…、この村周辺に行ったような気がする。このあとは、夕方に太陽を背にしていたから、東の方に向かって…。帝国の領内はほとんど感覚でしかわからないけど…」

「……」

 普段からお城で、王国の地理について深く広く学んでいるのだろうか。訪れたこともないはずの街や土地の特徴をよく把握している。想像よりもかなり具体的に、鳥が訪れた地域を記憶していた。リカルドは驚いてミリアを見つめていた。

「正確かどうかは分からないけど、体感だとこのような感じだと思うわ」

王都を出て、概ね1週間~10日の周期で、一定の地域の周回と移動を繰り返している。そして確かに、規則的に湖や泉などの水場を回っているような印象を受ける。




「…ミリアが鳥に『落とされた』のは、この街の近く? 何かきっかけがあったの?」

「街から歩いて1時間くらいの場所よ。帝国側からこちらに戻ってきた後で、何かの音を聞いて、はっとしたような感じで急に地面へ降りて、わたくしを振り落としたの」

うーん…、と地図を眺めるリカルド。

「この感じだと、この街付近でもう少し周回していそうだね…」

「そうね。私、外で空を見ていましょうか? この街の周辺に、普段人が立ち寄らないような水場があるかも、聞いてみるわね」

「そうだね。午後から頼むよ。無理しない程度にね」

エレーネのありがたい申し出に甘えて、そう声をかけながら、リカルドはゾクリ、と背筋に震えを走らせていた。

(あれ、なんだか……。急に目の前が開けてきた…?)

 これまでは、地域性や民俗、文化や宗教と巨大鳥信仰のつながりなど、外堀のさらに外堀をなぞる程度のことしか調べられなかったのだ。それはそれで有意義な学問ではあったが、霞のようなあやふやな存在だった巨大鳥が、急に現実のものになってきた。

(鳥は本当に、いた…。だったら鳥の不幸も、卵の願いも、本当に……?)

少し高揚を表情に宿したリカルドを、ミリアが見ていた。視線に気付き目を合わせると、緑黒の髪を揺らし「ほら、わたくしがいれば役に立つのよ」と言わんばかりの深緑の視線を向けて来る。

リカルドは、少し複雑な面持ちになった。

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