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連載小説「オボステルラ」 【第二章】44話「仲間達に」(4)


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第二章の登場人物




 ……が、自宅へ戻ったはずのナイフが、10分もせずにまたすぐ、店へと戻ってきた。

「あれ、ナイフちゃん?」
「水が、出ない…」
「え?」

と、外の方が騒がしいことに気付いた。3人は店の外に出てみると、同じように自分の店から出てきた人々が、口々に何かを話している。近くの宿屋の主人が、ナイフに話しかけてきた。

「ああ、ナイフちゃん。大変だよ、水道設備が壊れてしまったらしくって、湖からの水が届かなくなったんだ」

「えっ! そうなの?」

「少し前にあった大雨の影響で設備が壊れたのではって話だが、それにしては日にちが経ちすぎている。皆は、昨日見た巨大鳥の呪いじゃないかと話してるんだよ。俺は信じねえけどな」

「……!」

リカルドとゴナンは顔を見合わせる。また、巨大鳥……。

「水、どうするの?」

ゴナンが不安げな顔で、リカルドに尋ねた。水がなくなることの怖さを、ゴナンはよく知っている。

「ああ、大丈夫だよ。この街は地下水が豊かで井戸も多くて、飲み水はそこから取っているところが多いから。生活用水を使うのが不便になるくらいだね。湖にも水はたっぷりあって、涸れたわけではないし、じきに修理されれば、元通りだよ」

「そう…」

ホッとした様子のゴナン。3人は店の中へと戻り、所在なくソファにふう、と座って、しばしの間、無言になった。




なんとも立て続けに、いろんなことが起こっている。ほぼ、巻き込まれているような形だが…。

「……巨大鳥の呪い…。やっぱり、本当に……」

ゴナンが沈黙を破った。北の村を涸らすにとどまらず、この華やかな街にさえ不幸を振りまく…。ゴナンの胸の内に、怒りにも似たどうしようもない気持ちが沸き起こる。

 そのとき、階段の方からミリアが降りてきた。

「巨大鳥じゃなくて、わたくしの不運の星だわ、きっと」

外の騒ぎを聞いていたようだ。すっかり“付き人”感が板に付いてきたエレーネも、後ろに続いている。

「…ミリア…。それこそ、迷信だよ」
「どうして巨大鳥の呪いは信じるのに、わたくしの不幸の星は迷信だとおっしゃるの? わたくしの周りで不幸が多く起こっているのは事実なのよ。迷信だと証明できることはできないでしょう?」

そう言いながら、リカルドの対面のソファに座る。

「ねえ、リカルド。この前のゴナンの話を聞いて考えたの。ゴナンの言うとおり、わたくしは、王女であることに誇りを持っているし、そうでありたいという気持ちも間違いないわ。でもやっぱり、わたくしが王女でいることは許されないの」

まっすぐにリカルドを見て話し始めるミリア。なぜ頑なに「許されない」と口にするのかは分からないままだが、リカルドはつい圧倒されて、次の句を待ってしまう。

「だからね、あなた達と旅をしながら、どうするべきか考えたいの。サリーに王女を譲るべきか、わたくしの不幸の星を外してもらうべきか、それとも、もっと他の…。そして卵を手に入れられたらその願いを…」

「……ミリア、だから…」

リカルドは頭を抱える。

「現状、世間では『願いを叶える』のはおとぎ話扱いなんだよ。そのために君を連れ回すというのは僕には荷が重いし、警備上の不安もある。君に何かあったときの責任はとても負えない。僕一人の命では何の足しにもならないくらい重いんだ、君の命はね」

「……」

「それにね、僕もゴナンも、卵で叶えたい願いがあるんだよ。万が一、卵を手に入れたとしたら、奪い合いになってしまうじゃないか」

と、その話を聞いたエレーネが横から口を挟む。

「そういえば、以前から不思議に思っていたのだけど、……巨大鳥は、卵って、1つしか産まないのかしら」

「……えっ?」

「いえ、もし巨大鳥がつがいでいて、私達が知っているような鳥と同じ生態を持っていて繁殖を続けているのなら、卵を何個も産むことだってあり得るのではないかしら。全世界に卵の伝承が広まっていることを考えても、過去にいろんな場所で、何度も幸せをもたらしてきたようにも感じるし…」

「……」

リカルドの論文に興味を持つだけのことはある。エレーネなりの巨大鳥の分析に、リカルドは少しだけ瞳を輝かせたが、すぐにまた困った表情になる。

「……エレーネ…、それはとても興味深い考えで、僕はそのことについて君とあれこれ議論を交わしたい気持ちがとてもあるんだけど、今この場では、言ってほしくなかったな……」

「あら、ごめんなさい」

肩をすくめるエレーネ。

「……それはともかく、僕は君を連れてはいけない。君が城に戻る方法は、一緒に考えるから」

リカルドはそう、きっぱりとミリアに告げた。ゴナンは横で何か言いたげにしているが、リカルドの強い目線に押されて口には出せない。ナイフは、もう何もかもどうでもいいような表情でソファにもたれかかって動向を見ている。

「……そう……」

ミリアは目を伏せ、哀しそうな表情をした。

「……それは、とても残念だわ」

「僕に、君をきちんと守れるほどの力と甲斐性があれば良かったんだけどね。頼ってくれたのに、申し訳ないよ」

ミリアがようやく諦めてくれそうな雰囲気で、リカルドの微笑みが少し柔らかくなった。ミリアは、哀しそうな表情をリカルドに向ける。

「……リカルド、あなたが旅に連れて行ってくれないというのなら、わたくしは軍に言ってあなたを拘束して、王城まで連行してもらわないといけないわ」

「はい?」

また、ミリアが突拍子もないことを言い始めた、とリカルドは身を乗り出した。

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