京都移住が叶うまで。暮らしと仕事、欲張りたかった私の葛藤
「来年から、京都に住もう」
恋人からそんな夢のような提案を受けてから、約7ヶ月。
これは、わたしが京都移住を最終的に決意するまでにかかった時間である。
京都旅行の帰りの新幹線で京都移住について熱く語り、翌週には会社に退職の旨を伝え、住んでいた家を解約してしまった彼とは裏腹に、わたしは移住に向けて、全く動き出すことができなかった。
まず、気持ちの整理に1ヶ月以上かかり、重い腰を上げてはじめた転職活動は想像以上に苦戦した。
もともとの性格としては、ポジティブで好奇心旺盛。新しいことや好きなこと、「やりたい」と思ったことに対しては、考える前に身体が動く。
ストレングスファインダーでも「慎重さ」は最下位だし、どちらかと言うと、わたしよりも彼の方が石橋を叩いて渡るタイプだった。
それなのに、今回は自分でも驚くほど慎重になり、「移住」に対して、なかなか前向きになれずにいた。
大好きな京都で、大好きな人と一緒に暮らすことができる。
そんな未来のチケットを手にしたのに、どうして前向きに考えることができなかったのか?
その理由は、たったひとつ。
今後のキャリアや仕事についての不安が、本来なら弾んでいるはずの心を、どんより曇らせていたのだ。
▼京都移住を決めた理由
前回のnoteでは、「京都移住を決めた理由」というポジティブなことを書いた。
今回は、移住を実現するまでに突き当たった壁や、キャリアの悩み・葛藤してきたことについて書いてみようと思う。
移住や二拠点生活に興味はあるけれど、仕事があるから難しいなあ……と感じている方や、東京から地方に移住する場合、どんな壁に突き当たるのか気になるという方にとって、参考になれば嬉しいです。
2022年時点での仕事・キャリア観
まずは、そもそもわたしが昨年の5月時点でどんな仕事をしていて、将来のキャリアや生き方について、どんな未来を描いていたのかを簡単に書いておこうと思う。
まとめると、在籍していた会社に不満はなく、むしろかなりの愛着があり、仕事も重要なポジションを任せてもらっていて、少なくとも30歳までの3年間はここで頑張ろう、と思っていた。
2023年、現在の仕事・キャリア観
仕事内容やキャリア観は、京都移住までの約10ヶ月間でこんな風に変化した。
正直、新卒の頃にイメージしていた「ビジネスパーソンとしての理想の姿」といまの自分は、だいぶかけ離れている。
だけど、ここ数年思い描いていた「自分の好きなこと・強みを活かして働く」という理想には、一歩近づいたんじゃないかなと思っている。
では、現在に至るまでに、どんな悩みや葛藤があったのか。
当時のことを振り返りながら、書いていきたい。
葛藤① 現職はフルリモート不可
愛着もあり、当時は辞める気なんて全くなかった会社から転職することを考えはじめたきっかけは、そもそも在籍していた会社が「フルリモートで働くことができない」ことだった。
社員として再び入社するくらい愛着があり、わたしにとってはこれ以上ないくらい、働く環境も自由。尊敬している上司は、これからの自分に大きな期待をしてくれている。
ここで、中途半端に辞めていいのだろうか?
それとも、京都からフルリモートで働けるよう、上司に交渉してみようか?
それらの問いに答えを出す前に、わたしはまず、この会社で仕事を続けた場合と、別の会社に入った場合、それぞれの今後のキャリアを考えてみることにした。
最終的には「移住に関係なく、自分のやりたいこと、将来なりたい姿を考えると、いまこのタイミングで転職した方がいい」という結論に至って転職を決意した。
その期間、約7ヶ月。
結論が出るまでにこんなにも時間がかかったのは、上司への愛着と信頼関係、そして転職活動の中で現職以上に「ここで働きたい」と思える会社になかなか出会えずにいたからだった。
葛藤② フルリモート×興味がある会社の少なさ
転職活動をはじめたのは、7月頃。
それまでは、自分の理想の10年計画について考えてみたり、Will Can Mustや強みと弱み、理想の働く環境など、思いつく限りの問いを自分に投げかけ、考え続けるという時間を過ごしていた。
それを通して「やりたいこと」「20代最後に磨きたいスキルや経験」が少しずつ分かってきたので、転職サービスに登録して話を聞いてみようと思った。
ところが、エージェントの人に京都移住について話してみると、つい数秒前まではにこやかだった表情が、一瞬にして曇る。
言葉では「京都移住、いいですね」と言いながら、心の中では歓迎していないことが伝わってくる。
なにより、ここで突きつけられた現実は、エージェント経由で紹介してもらえる会社が下記のどちらかしかない、ということだった。
わたしの理想が高すぎる、というのも多少はあったかもしれない。
だけど、「ワークとライフを両立するって、こんなにも難しいことなのか……」と厳しい現実に直面して、しばらく呆然とした。
求人サイトを通して、自分のハードスキルだけを評価され、持ち上げられた後に苦い顔をされる、という落差を目の当たりにするのも精神的にしんどくなってしまい、1ヶ月後にはエージェントを使うのをやめた。
葛藤③ フルリモートがボトルネックになる
そんな時、たまたま流れてきた知人のSNSで、面白そうな会社が社員を募集していることを知る。
何の気なしに「気になります!」とDMを送ったら、トントン拍子で代表の方との面談が決まった。
組織に恋をしたのは、これがはじめてだった。
代表の生き方、価値観、性格には深く共感したし、話をしていてこんなにも楽しい面談は今まで一度もなかった。
会社のHPのデザインにコピー、ビジョンやミッション、事業内容、メンバーの生き方……それらすべてに心を掴まれ、「わたしもこのチームの一員になりたい!」と強く思った。
なにより共感したのが、代表はキャリアと夫婦移住の両方を叶えていて、わたしの理想の生き方を、一歩先で体現している人だった。
こんな女性になりたい。この人がつくったチームで、働いてみたい。
これ以上の会社、ないかもしれない。仕事もプライベートも、すべての理想を叶えられる環境が、ここにある。
代表やメンバーの方とも意気投合して、「もう、ここしかない!」と浮かれていた矢先に、届いたのは不採用通知だった。
メールだけでなく、その後個人的にメッセージももらった。それらからは、直接的ではないものの、フルリモートがネックになっていることが遠回しに伝わってきた。
こういうことが何度か続き、心が挫けそうだった。
もしかして、暮らしと仕事、どちらも理想を叶えたいというのは、高望みなのだろうか……?
いっそのこと、フリーランスになろうかな……。そう思いはじめた時、ある会社からスカウトが届いた。
それが、最終的に入社を決めた会社だった。
葛藤④ 自分以外、全員出社が当たり前
この春から入社を決めた会社は、東京の会社。それも、前職から目と鼻の先にオフィスがある会社だった。
面談を通して何度か対話し、最終的に京都からリモートでの勤務を特別に許可してもらったものの、わたし以外は社員全員、毎日出社。
リモートで働けるのは本当にありがたいけれど、わたしはチームで働くのが好きだし、得意分野でもある。
こんなにメンバー同士仲が良い組織のなかで、「例外」のわたしは、ちゃんと馴染んで、自分の価値を発揮できるのだろうか……?
最初は不安で、「やっぱり、京都で働ける会社を探したほうがいいのかな……」と悩んでいた。
けれど、わたしがそんな状況のなかでも入社を決めたのは、人事の方がわたしの感性や価値観、生き方そのものを評価してくれたからだった。
内定をもらった後、受諾するかどうか迷っていたとき。「フルリモートという異例の契約をしてまで、わたしを採用する理由を教えてください」と、思い切って聞いてみた。
わたしが送ったのはなかなかの長文メールだったのだけれど、返事はすぐにきた。
「京都移住という夢に向かいながらも、しっかり相手とコミュニケーションをとり、周囲と調整のうえ、難しいことを実現しようとしている姿勢が信頼できると思いました。」
転職活動を通して、これでもかというほど、京都移住という「暮らしの理想」と、自分の強みや感性を磨けるような仕事がしたいという「自己実現の理想」の両立の難しさを痛感してきた。
だけど今回の会社は、そのどちらも叶えられるよう、「僕たちにとってもはじめてのことですが、一緒にやってみましょう」と言ってくれたのだ。
遠隔で働くなかで、ちゃんと組織の一員としてメンバーに良い影響を与えられるのか。ゆたかな暮らしを実現しながら、新しい職場できちんと成果を出せるのか。
わたしにとってはそのすべてがチャレンジであり、大きな責任が伴う。
今後、フルリモートや二拠点生活をしたいと思っている人にとって、わたしのふるまいや残した結果が、会社の判断に大きく影響してしまうから。
だけど、だからこそ、「どちらも欲張っていい」という考え方や生き方を定着させられるように、人一倍、頑張りたい。
自分の存在が、ほんの少しでも、誰かの希望になれたらいいなあと願う。
移住に至る、10ヶ月間で得たもの。
京都移住を実現するまでの10ヶ月間は、わたしにとって「ゼロから自分で人生をつくっていく」練習期間だったなあと思う。
次から次へと目の前に突きつけられる、答えのない問い。それらに対してどれだけ時間をかけて向き合い、本気で考え続け、自分なりの答えを出すか。
思い返すと、この10ヶ月間は取捨選択の連続だった。
信頼している上司とメンバーがいる、愛着のある会社で働き続けるのか。キャリアアップのために、新しい会社で挑戦するのか。
東京を離れて、自分らしい働き方や仕事を実現する道を模索するのか。都会のマーケターとして、この先もスキルを磨くのか。
20代の残り2年間、「大好きな京都に移住する」という未知の経験をしてみるのか。未経験だけれど今なら最後の転職ができる、憧れの職業に挑戦するのか。
などなど……
どの問いにも答えはなくて、「本当にこれでいいのかな?」「後悔しないかな?」と悩みながらも、納得のできる答えをみつけてここまできた。
これが万人にとっての正解だとは思わないけれど、わたしにとっては最善の選択をしてきたと、いまでは自信を持って言える。
これから先も、きっと答えのない問いに直面し続けるのだろうけど……
その一つひとつに向き合って、自分が心地よいと感じるほうへ、生き方や働き方を近づけていきたい。
▼京都暮らしや移住にまつわる文章を書いています。ぜひふらっと覗いていただけると嬉しいです ◯
岡崎菜波 / Nanami Okazaki
Instagram: @nanami_okazaki_
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