見出し画像

贈りものって、愛なんだ。「図書係」から届いた一冊の本に心救われた夜



2ヶ月前。心が弱っていたわたしの元に、ある人たちからの贈りものが届いた。


それは昨年参加していたオンライン講座「企画メシ」から生まれた「図書係 山と川」の2人から届いた、一冊の本だった。


これは、そんな一冊の本の贈りものに心を救われた、ある夜のお話。



「図書係 山と川」とは、80名近い同期一人ひとりに向けておすすめの本を紹介したという伝説を持つ片山さんと、初対面でもなぜかするすると心の内をさらけ出してしまいたくなる、聞き上手な藤川さんという、2人が結成したユニットのこと。


彼らの企画は、「お客さんからじっくりと話を聞いて、その人のための一冊を選書する」という内容だった。


本好きなわたしはそれを噂で聞きつけて、「これは何としてでも連絡を取らねば…!」と思い、勢いで連絡。すると、2人は忙しい中わたしのお願いを快く引き受けてくれた。


1時間〜2時間という長い時間をかけて、いくつかの質問に答えたり雑談したりしながら、わたしはどんな価値観の持ち主で、今までどんな経験をしてきて、何が好きで、これからどんなことがしたいか…など、いろんなことを話した。


藤川さんの穏やかな口調は、初対面であることを忘れてしまうくらい相手を安心させ、自然体な質問は、過去の記憶やずっと奥の方に眠っていた感情をノックされるような感覚で、つい次から次へと自分のことを話してしまった。


一方、片山さんはその間うんうん、とかへえ、とか顔の表情でわずかなリアクションをとるのみで、わたしたちの会話にはほとんど口を挟まず、ただ横で静かに話を聞いていた。


その「聞く姿勢」には、言葉にならない相手への敬意や、わたしという人間への興味がきちんと伝わってきて、「この人、何者なんだ…!」と思ったのを覚えている。


初対面でこんなにも安心できる空気をつくってしまう藤川さんと片山さんは、わたしの何倍も器の大きな人なんだろうなあと思った。







その夜から数ヶ月後、わたしの手元には、彼らが選んでくれた一冊の本が届いた。

(初めは選んでもらうだけだと思っていたので、現物が家に届くと聞いたときは驚いて、なんて懐の深い人たちなんだ…!と感動した。)


ところが、その頃のわたしは日々に忙殺されすぎていて「好きな本を読む」時間がほとんど取れずにいた。


せっかく贈ってもらったこの本を、わたしはちゃんと読めるのだろうか…と、少し後ろめたい気持ちを抱えながらゆうパックの厚紙を破る。


中から出てきたそれが目に入った瞬間、心臓がどくんと波打った。


袋から姿を現したのは、薄く小さな一冊の本。


薄縹色の紙が、彼らお手製のブックカバーであることに、表紙や側面に書かれた文字を読んではじめて気づく。


「手づくりだ」と気づいたのと、心臓の鼓動が速くなったのは、ほとんど同じタイミングだった。


わたしはそのブックカバーに見惚れてしまって、しばらくその場から動けなくなった。


その日から、わたしは毎日少しずつ、仕事を終えた夜、ひとり静かにその本を味わうための時間をつくることにした。


1日目
すぐに全部を見てしまいたくなくて、初日は外側だけを眺める。

ブックカバーの背表紙や裏表紙に書かれている「生きのびるために、生きる言葉を。」という言葉の意味に想いを馳せたり、紙の質感をたしかめたり。わたしはこの本にどんなタイトルをつけるんだろうなあ、と想像してみたりした。


2日目
ブックカバーを外して、中身の本の表紙と裏表紙を眺める。

彼らがわたしに選んでくれた一冊は、僕のマリさんの『まばゆい』というエッセイ集だった。


知らない作家さんだったけれど、表紙と帯に書かれた言葉で、きっとこれはわたしの心を救ってくれる本だとすぐに分かる。


3日目
最終日は、本と一緒に同封されていた茶封筒のシールを剥がした。シールもお手製で、「図書係 山と川」のロゴが書かれている。

山と川のビジュアルがかわいい。


その中からは、懐かしい「貸出カード」と、それを入れるための小さな袋、そしてわたし宛の手紙が出てきた。

貸出カード、10年ぶりくらいの再会。


手紙の内容はここには載せないけれど、2人ともいかに選書をする相手のことを考え、想像して、言葉を選んで届けてくれたのかということがひしひしと伝わってくるような内容だった。


「企画メシ」から始まったユニットが、ここまで細部にこだわりを持って一つのものを作りあげているということ、一人ひとりに真摯に向き合って贈りものを届けているということ。


そんな彼らの「届ける」ことへの姿勢に胸を打たれたのは、きっとわたしだけじゃなかったと思う。







贈りものって、愛だなあ。


彼らから受け取ったのは、一冊の本の形をした愛だと思った。


ブックカバーの手触りを指先で感じ、散りばめられた言葉の一つひとつの意味を噛み締め、彼らはどんな想いでこの本を選んでくれたのだろうと考えを巡らせている時間は、あまりにも幸福に包まれていた。


贈りものって、「一方通行の片想い」みたいだなとずっと思っていたけれど、実際は違うのかもしれない。


わたしはこの本を受け取ってから、贈り主の彼らの想いや、本を選ぶまでの過程、その中に凝縮された想いや葛藤について、知りたくてたまらなくなったのだから。


受け取った瞬間、贈り主の想いは相手に届く。届いてからは、受け取った側が、相手に想いを馳せる。


誰かの心に届く贈りものって、本来は「両想いになれる」ものなのかもしれないなあと思った。

わたしの本棚のいちばんお気に入りの一角に、仲間入り。







自分のために、選んでもらった一冊。
自分のためだけに、使ってもらった時間。


それが何よりもうれしくて、尊くて。
だから一生、忘れられない贈りものになる。


わたしはこうして言葉で気持ちを伝えることしかできないけれど、少しでもこの心のきらめきが、彼らに届いたらいいなあと思う。



***


片山さん、藤川さんへ

この度は、飛び込みでお二人の企画を体験させていただき、本当にありがとうございました。

わたしが想像していた以上に貴重な体験で、忘れられない贈りものをいただきました。

ありのままに言葉を紡ぐことで、誰かを傷つけること、自分が傷つくことが、怖くなることもたくさんある。だけどわたしは、明日も生きるために、文章を書き続けたい。そう強く思いました。

今後また、本を通して、何かの形で関われたらうれしいです。

感謝を込めて。



岡崎菜波より


いただいたサポートは、もっと色々な感情に出会うための、本や旅に使わせていただきます *