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彼の思い出の地を巡ったら、生まれた場所を少し愛せた。〜茨城・3泊4日の旅〜



彼の「思い出の地」を案内してもらうというのが目的の、3泊4日の旅をした。

行き先は、わたしが生まれてから3年間を過ごした土地でもある、茨城県。




旅に出るまで、正直わたしは不安だった。

彼が大好きな、思い出のたくさん詰まったその土地を、わたしも同じくらい好きになれるのか。

生まれた場所とはいえ、彼ほどの思い入れもないわたしが、今更まっさらな心で何かを感じることは、難しいんじゃないか。

あまりにもきらきらした顔で話す、彼の思い出がそこらじゅうに溢れる場所を訪れて、自分だけ取り残されたような気持ちになるんじゃないか……。

そんな不安が芽生えたのは、実は今回がはじめてじゃない。きっかけは、彼と付き合いたての頃、はじめて一緒に旅をした時のこと。

あの時、立ち寄ったカフェで向かいに座る彼が、あまりにもその頃の思い出を愛おしそうに話すものだから、わたしはこの先、彼の人生の中でその時代の思い出を越えられるのだろうか?と、心細くなったのを覚えている。

今回「思い出の地を巡る旅をしよう」という話になった時、わたしの中で眠っていた不安がちらりと顔を出した。




ところが、旅を終えたいま、わたしにとってもその土地が思い入れのある場所になったことに、正直驚いている。

実際に、彼の思い出の地を巡る旅を通してわたしの中に芽生えたのは、不安でも寂しさでもなく、彼とこの土地に対する愛だった。




彼と一緒に向かった先は、茨城県。

わたしが生まれてから3年間を過ごした場所であり、祖父母がまだ生きていた頃は、毎年帰省していた場所でもある。

とはいえわたしには正直そこまでの愛着がなかったし、茨城県についての知識もかなり少ない。

自分が生まれた水戸市が県内でどこに位置するのかも知らなかったし、どんな電車が通っているのかも、今回の旅ではじめて知った。

父と母が出会った土地でもあるのだけれど、旅行で行くような場所ではなかったから、いつも帰省のときは車でまっすぐ行って、帰ってくるだけ。

観光スポットも、魅力も、何も知らずに27年間生きてきた。





とくべつ好きでも、嫌いでもない。
ただ、自分が生まれた場所という事実があるだけ。


わたしにとっては記号のようで、それ以上でも以下でもなかった。

だから、彼の目で見てきた景色や、彼の足で何度も歩いてきた道は、わたしの目には新鮮に映った。

東京から、車でしか行ったことのなかった土地に、電車で向かう。駅で降りて、町を歩く。

立派な銀杏並木が黄金色に輝いていることも、その隙間からみえる青空が澄んでいることも、アクセスは少し悪いけれど、落ち着いて過ごせるカフェがいくつもあることも、今回の旅ではじめて知った。

新しい発見ばかりで、わたしはこの土地のことを、本当に何も知らずに生きてきたんだなあと思った。

まっすぐ続く、銀杏並木。




わたしは何より、彼が旅を通してずっとご機嫌だったのが嬉しかった。

電車に乗った瞬間から、ぱっちり開いた目がいつも以上にきらきら輝き出して、電車が駅に止まるごとに、「ここはこんな町なんだよ」「ここはすごくいいところでね」と、嬉しそうに教えてくれる。

地上に出て町を歩き始めると、「この道を、よくランニングしてたんだよ」とか「ここでよく、友達とご飯を食べてたんだ」とか、次から次へと思い出が飛び出してきて、なんだかテーマパークにいるみたいな気持ちになった。

そんな彼の隣を歩きながら、うんうん、そうなんだ、と相槌を打つのは案外悪いものじゃなくて、それどころか、いいものだなあと素直に思った。

学生の頃に住んでいた家、通っていた学校、バイト先、自転車を走らせていた道、何度も通ったラーメン屋さん。

それらに案内してくれた彼は、とても楽しそうで、幸せそうだった。

思い出話を聞きながら、当時の彼の生活や心の内を想像していると、彼のこともこの町のことも、なんだかとても愛おしく思えた。

2日目に泊まった古民家宿。
毎日食べたい、やさしい朝ごはん。
古さと新しさが溶け合う空間。窓からの眺めも最高。




「今回は、付いてきてくれてありがとう。自分が好きな場所を、ななみにも知ってもらえて嬉しいよ。」 



旅が終盤に差し掛かり、彼にそう言われた時、わたしは心から、ここに連れてきてもらえてよかったなあと思った。



「今までは、話してきたことが伝わり切らない部分もあっただろうけど。今回ここに来てくれたから、これからは、俺が話すことを、ななみにも分かってもらえる。」



そう言って満足そうに笑う彼は、無邪気で幼い子どものようだった。

ああ、この人は、本当にわたしに好きな場所を知ってほしかったんだな。そして今回、それが実現して、心から喜んでいるんだな。

そのことが、目の前の笑顔からまっすぐ伝わってきた時、彼のことを急に抱きしめたくなった。

彼と同じ温度で、この土地を好きになれるのか。わたしの知らない、彼の思い出が詰まった場所に触れて、ひとり取り残されたような気持ちにならないか。

そんな不安が馬鹿馬鹿しく思えるくらい、彼の「この町が好き」という想い、それを「好きな人に知ってほしい」という願いは純粋だったのだ。

それに触れたわたしの心は、じんわりとあたたかくなった。

最終日に偶然みつけたカフェ。
野菜の甘みをやさしく閉じ込めたフリット。
グルテンフリーのもちもちマフィンと生姜紅茶。





今回の旅で、わたしは自分が生まれた土地に、新たな接点を持つことになった。



わたしが生まれた場所。

そして、大切な人の、大切な思い出がたくさん詰まった場所。



彼の思い出に触れたことで、今まで記号に近かった地名や町に、色や温度、手触りが生まれた。

町を歩く人の日常を眺める自分の目が、今までとは違う景色を教えてくれるようになった。

「この町が好き」と話してくれた人たちの言葉が、自分の心に意味を持って響くようになった。




誰かの記憶や感情が、そこにある。


それを知るだけで、遠くに感じていた土地も、自分にとって大切な場所になるんだなあ。




わたしには、まだまだ知らない土地がたくさんある。大切な人が、大切にしている場所。もっと、いろんな場所に足を運んでみたいなあと思う。

純度の高い愛に触れ、実際にそこを訪れてみたら、世界はもっと、色鮮やかであたたかな場所になってゆくのかもしれない。



これからは、ふたりで一緒に、そんな世界を歩いてみたい。



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旅の様子は、Instagramにまとめています。
素敵な場所がたくさんあったので、よかったら覗いてみてください ◯

@nanami_okazaki_




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