行動分析学における基礎用語に関する備忘録
行動分析学における思考フレームの特徴
一般的な原因と結果に関する考察フレームのあり方を、我々は「医療モデル型」と呼んでいる。それは、「行動には必ず原因があり、それは行動の前に存在する」という考え方である。例えば「禁煙を決意したのにタバコを吸ってしまった」という事象についてその原因を考察するとき、「その人の意志の弱さ」に原因を求めるのが医療モデル型だ。( この名前は、病気には必ずそれを誘引する原因がある考える医療における考え方からとっている。 )
対して行動分析学はそのようなアプローチを取らない。我々はそれとは逆の考え方をする。つまり、行動の前ではなく、行動の後にもたらされた結果に注目するのだ。「禁煙を決意したのにタバコを吸ってしまった」という事象の原因は、「タバコを吸うことによるメリットが大きかったからだ」「タバコを吸わないことによるデメリットが小さかったからだ」などと我々は考える。
このように、行動とそれがもたらす結果の因果関係のことを、我々は「行動随伴性」と呼ぶ。
行動とは何か
「行動」とは本来広義の意味を持っているが、行動分析学中では特にオージャン・リンズレーの定義を採用し、以下の定義を充てる。
「行動とは、死人にはできない活動のことである」
「タバコを吸う」という行為は死人にはできないので行動である。「身動きしない」という行為は死人にもできるので行動ではない。
また行動は大別して二種類、レスポンデント行動とオペラント行動に分けられる。
レスポンデント行動とは、外界の刺激に対して行われる行動のことである。梅干しを見て涎が出てしまうような反応がこれに該当する。
オペラント行動とは、行動の原因が行動の前ではなく後にあるような行動のことである。例えば「眼鏡をかける」という行動は、「眼鏡をかけると物体がよく見えるようになる」という理由のために発生する。つまり、行動要因が、行動の後ろにある。
行動分析学で主に扱うのはオペラント行動である。
強化
行動の直後に出現した結果によって行動が強まることを、強化という。結果のタイプに応じて、強化は二種に分類される。
「その結果が出現することで行動が強化される」類の結果を特に「好子」と呼び、この出現によって強化が発生することを「好子出現の強化」という。
例えば、子供が家事を手伝ったことで母親に褒められたとする。ここでは、「家事を手伝う」という行動に対して「褒められる」というポジティブな結果が発生し、今後も家事を手伝いたいと思わせるようなモチベーションが発生している。これが好子出現の強化である。
反対に、「その結果が無くなることで行動が強化される」類の結果を特に「嫌子」と呼び、この消失によって強化が発生することを「嫌子消失の強化」という。
例えば、部屋の掃除を行ったことで部屋の臭気が消え去ったとする。ここでは、「部屋の掃除を行う」という行動に対して「臭気」というネガティブな事象が消失し、そのことで今後も家事を行いたいと思わせるようなモチベーションが発生している。これが嫌子消失の強化である。
弱化
逆に行動の直後に出現した結果によって行動が弱まることを、弱化という。結果のタイプに応じて、弱化は二種に分類される。
行動により好子が消え去ってしまう場合、その行動をするモチベーションは低下してしまう。これを「好子消失の弱化」という。
例えば、兄弟と喧嘩して夜ご飯抜きの罰を受けたとする。ここでは「兄弟と喧嘩する」という行動は、「夜ご飯抜き」という結果をもたらした。夜ご飯という要素が消失したことはネガティブなことであり、喧嘩という行動を再度行うモチベーションは低下するだろう。これが好子消失の弱化のパターンである。
行動により嫌子が出現する場合もまた、その行動をするモチベーションが低下する。こちらは「嫌子出現の弱化」である。
例えば、テストで赤点をとってしまい補講が発生したとする。ここでは「テストで赤点をとる」という行動が、「補講」という結果をもたらした。補講が発生するということはネガティブなことであり、今後なるべく赤点は取りたくないと思うことだろう。これが嫌子出現の弱化のパターンである。
消去
今まで強化されていた行動が元のレベルに戻ること、つまり習慣化されたいた行動が行われなくなることを「消去」という。今までは強化や弱化は、行動に対してなんらかの結果が発生、あるいは消失すること基づいていた。しかし消去は、「行動が結果に対してなんら影響を及ぼさない」ことで発生する。
例えば、料理を作ってくれる彼女に対して毎回感謝を述べている彼氏がいたとする。彼女にとっては、「料理」という行動に対して「感謝」という結果が生まれており、好子出現の強化によりこの行動習慣は強化される。
しかしある時から彼氏が感謝を述べないようになるとどうだろうか。彼女にとっては、「料理」という行動がなんの結果ももたらさないようになる。これが継続すると、彼女は料理することにモチベーションを見出せなくなるだろう。つまり行動が消去されるのだ。
消去には興味深い特性がある。「消去抵抗」である。
今まで結果をもたらしていた行動がなんの結果ももたらさないようになると、一時的にその行動は増加する。料理の例で言えば、彼女はいつもより豪勢な料理を作ってみたり、品数を増やしてみたりすることで「感謝」という結果をもう一度手に入れようと試みることが予想される。これを「消去抵抗」という。消去が始まる前には、行動が増加するのである。
回復
今まで弱化されていた行動が元のレベルに戻る、つまり抑制されていた行動が再度行われるようになることを「回復」という。
例えば授業中に居眠りをすることで教師にいつも叱られている生徒がいるとしよう。この生徒は叱られるのは嫌であるから、授業中はなるべく居眠りをしないように努めることになる。( 嫌子出現の弱化 )
しかしその教師がいなくなったらどうであろうか。仮に育児休暇などでその教師が一定期間いなくなったとして、その他の教師はその生徒を叱らないと仮定する。するとその生徒にとって、「居眠り」という行動は「叱責」という嫌子をもたらさない行動に変化する。そうなればこの生徒が再び授業中の居眠りに勤しむようになるのは想像に難くない。これが「回復」である。
参考書籍
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