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品川区のオーガニック給食は税金の無駄遣いなのか?

品川区の森澤恭子区長は、2025年2月5日の記者会見で、令和7年度予算について説明し、その中で、品川区立学校給食食材(野菜)に、有機農産物・特別栽培農産物を導入するために、約2,800万円を計上すると説明しました。

品川区当初予算案プレス発表資料(令和7年2月5日)

タウンミーティングにて、中学生から、給食無償化によって質が落ちた、おいしい給食が食べたいとの意見があったことを踏まえた、とのことです。

それだけではなく、品川区では昨年9月に映画「夢みる給食」の上映会が開催されており、その後、映画をきっかけとして品川区のママたちが区長、区役所に対して、給食をオーガニックにしてほしいという声を伝えてきたとのこと。市民の地道な働きかけが具体的な予算・政策につながり、素晴らしいと思います。

予算説明の項目は、「社会全体で子どもと子育てを支える」というもので、他には、制服や修学旅行の無償化などの予算もありました。オーガニックを、一部のセレブだけではなく、給食として子どもたちがみんな平等に食べられる、まさに子育て応援予算ですね。

一方で、Xなどでは毒舌で発信力が高い人が「税金の無駄遣い」だと呟き、それがyahooやgooのニュースになったりして、物議を醸しています。さて、品川区のオーガニック給食は、税金の無駄遣いなのでしょうか?

今、有機農業の推進は世界・国の流れです。
EUでは、持続可能な食料システムのための戦略であるFarm to Fork戦略において、2030年までにEUの有機農業面積を25%にする目標を掲げており、行動計画において、公共機関の食堂や学校給食の食材等での有機食品の利用を推進することとしています。
公共調達における有機食材導入率の国家目標について、
・デンマークでは2030年までに60%(首都コペンハーゲンでは90%)、
・スウェーデンでは2030年までに60%、
・フランスではエガリム法で20%
を掲げています。

お隣の韓国でも、有機と無農薬を含めた概念である親環境無償給食が全国的に広まっています。

日本では、「みどりの食料システム戦略」において、2050年までに有機農業面積を25%とする目標が掲げられており、「持続可能な地場産物や国産有機農産物等を学校給食に導入する取組の推進」をするとしていますが、公共調達における数値目標までは設定されていないところです。

有機農業推進にとって、オーガニックの消費拡大は重要であり、中でも都市部における公共調達はとても重要な政策です! デンマークの首都コペンハーゲンでは、学校給食などを含めた公共調達の90%を有機食品にするという目標を掲げ、有機農業推進を牽引しています。

有機農業が気候変動対策になることや、生物多様性保全につながることは、すでに世界的にも行政にも認知されており、それだけでも、自分たち・子どもたちの未来への投資として十分必要であることは明らかです。異常気象が続き、生きものが減っていく環境を未来に手渡してよいわけなく、少しでも良い環境を次世代に渡していくのは、現代に生きる人の責任だと思います。

オーガニックは美味しいかどうか、は議論が分かれるものと思います。「美味しい」は人の主観ですし、慣行農家のものでも美味しいものもありますし、有機農家のものでも美味しいと言えないものもあることは事実です。

ただ、一般社団法人有機農業普及協会が毎年実施している「身体に美味しい農産物コンテスト」では、有機農業技術を磨いた方々が切磋琢磨していますが、平均値よりも「糖度」が高く、苦味やえぐみの元になる「硝酸イオン」が少ない、「ビタミンC」や「抗酸化力」が圧倒的に高い、という数値が一目瞭然です。

有機農産物は抗酸化物質が多いことが知られています。抗酸化物質は、植物が紫外線や外敵から身を守るためのもので、「ポリフェノール」とか「カテキン」などが知られているかと思います。エネルギーにならないので、軽視されがちですが、人の健康にとって、抗酸化作用、免疫力アップ作用、抗がん作用などがあり、なくてはならないものです。

https://kyukan.repo.nii.ac.jp/record/69/files/The_Journal_of_KNS-V12_N01_2011-125-130.pdf

そして、土の健康と人の健康はつながっています。土壌と人の腸内の微生物の関係、豊かな土壌で育った農産物が豊かな腸内細菌と人の健康を育むことは、桐村里紗先生の著書でよくわかるので、多くの方に読んでもらえたらと思います。菌ちゃん先生として知られる吉田俊道さんも、有機野菜と元気な腸内細菌の関係について説明してくれています。

農業は草と虫との闘いであり、農薬の必要性は理解しますが、それでも、ネオニコチノイド系農薬については、木村黒田純子先生や、星信彦先生など科学者が警鐘を鳴らしており、できる限り子どもには摂取してもらいたくないし、早く国の基準が厳しくなってもらいたいと思っています。有機リン系などのように、数年後に、疫学的調査結果でやっぱり危険でした、とわかってからでは遅いのです。

近年、学校給食に有機農産物を導入する自治体は増えていますが、給食現場の負担が課題の一つとなっています。野菜については、安定供給の課題や、規格が合わないなど。そのような課題について、例えば長野県松川町や、埼玉県所沢市、東京都武蔵野市などは、栄養士さんや調理員さんと農家さんとのコミュニケーションを密にすることなどで乗り越えられています。
品川区では、これから様々な課題が出てくるかと思いますが、他の先進自治体を参考にしながら、生産者との関係構築に取り組み、現場の負担感や反発が出ないように、うまく乗り越えてもらいたいなと思っています。

品川区のオーガニック給食は、決して税金の無駄ではないと思います。様々な批判にどうか負けないでほしいと思いますし、これから野菜だけではなく、米や調味料(米と調味料なら調理現場の負担は増えません)にも広げて、学校だけではなく、保育園、病院や介護施設などの公共調達にもぜひ広げてもらいたいと思います。
日本全体のオーガニックリテラシーがもっと上がるといいなと思います。「なぜオーガニックなのか」、その勉強会や有機生産者さんと栄養士さんたちとの交流会提案したいな。給食を食べる子どもたちにもきちんと伝えてもらいたいですし。
品川区は、コペンハーゲンのような都市部のオーガニック給食のモデルになり得るはずです。成功することを心から願っています。




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