『貴方の恋人になりたいのです』
あの日、あの時、見つけた曲名。
私が私にも『恋愛ができる』と思い込んでいたあの頃。しっかり着込んだ曲達の中に、彼女の歌もあったのだ。
少し懐かしい歌。
それが最近、有線で流れ出した。
どうやらセルフカバーしたようだ。
出した当時のものより、ゆったりとしたテンポで、なんだか当時に感じたハッキリした心をぼやけさせたような、セピア色にしたような、そういう感じに聴こえて、少し笑う。
『貴方の恋人になりたいのです』
この言葉が空気を震わす事はないのだろう。
だけれど、歌詞の中の彼女からは、その気持ちが溢れ出す。きっと、周囲にはバレている。なんなら、想い人にもバレている。
妄想を出ないデートも、弾む会話も、彼女の心を占めていく。ただ、真っ直ぐに。
何も知らない、知らないからこそ知りたい、きっと素敵だと信じている、そんな彼を見つめて胸をドキドキさせている。そっと。
浴衣を着て、花火を見上げて、実は見ているのは光に照らされる彼の横顔で、この瞬間をずっと記憶しようと思ったり、この瞬間に想いを伝えてしまおうとか、でも断られたら悲しいな、せっかく仲良くなったのにとか。
そんな、幻のデートを一人ベッドの上で考えては、ありもしない、始まってもいない事に悩む。
夏の熱に背中を押されたい。
寒い季節ではなく、この、熱くて浮かされるような、夏の合間に。
当時の私はそんな曲の中の『彼女の気持ち』を、『着る』ことを選んだ。
ちょうど季節も夏だったし。
物理的な状況も似通っていた。
そして、きっちり、その年の夏の終わりとともに終わったのだ。これは、なんというか、すごいタイミングだったなーと思う。
ダダ漏れさせておいて。
もちろん、叶わぬままに。
私はしっかり着込んでいた歌を脱いで、瞬間、自分が演じていた事に何処かで気がついていた。
それは、諦めと孤独の交じる感覚だ。
この時だけではなく、私はきっと、今だって、恋を着たらそういう気持ちを最後、味わうのだろう。
自分の気持ちの先読みをしていたのだ。
私の作り上げた『彼女』はこう想うって。
そのアテが外れた。
私が私の気持ちを今回こそ本物だと期待して、けれど、私はその時からアロマンティック傾向だったのだろう。
何も着ていない私は、恋愛の心が極端に薄い。
恋心を抱かない。
私の恋の心は、たくさん他から感じ取ったもののストックでしかない。
いつも何処かフィルター越しだ。
「きみが優しいから、俺はその優しさに甘えていたんだよ。でも、それはずっとは続けられないね」
と最後の方に言われた。
そんなことない。私のほうが甘えていたのだ。
わがままだったのかもしれない。彼女になれるかもなんて、厚かましい願いだったのだ。彼を傷つけただけだったな。
と、当時の私は可愛い事を思っていた気がするが、なんの事はない。
ただ都合がいいだけだ。
それを「優しさ」と言うには打算的すぎる。まぁ、攻略レベルで言えば私なんて、1だろうから超簡単、相手は遊び放題。それに漬け込むやつは多いと思う。
だって、楽で甘いのだから。
それでも、恋人には成らなかった彼は、恋人に成った人達より、ずっと私に気が付きそうだった。
私と「恋人」として付き合う人が、初手で勘違いをするのは、私が念入りに相手好みの彼女を着込んで、たまに混ぜている素の私を「こちらが偽物」と思わせているからだ。と、今思う。いや、当時も何処かで知っていた。知らないふりをしていた。
気がつくかな。
この人は気がついてくれるかな。
そう思い隣を歩く。
それがどれほど、愚かな願いか
私は毎度、思い知ることになるのだ。
恋人に成らなかった彼だって、恋人になったら同じ結末を迎えていたことだろう。
そもそも、何かに少しでも気が付く人は、私の恋人にはならない。だって、相手は私なのだから。
たくさんの人が私に気が付かなくてもいい。
たった一人、気が付いてくれたらいい。
貴方が私を知っていてくれたらそれでいい。
当時の私はそう、願って、行動していた。
けれど、言っちゃ悪いが、私のが上手なのだ。
人の心を感じ取ることも、それに合わせた心を引っ張りだすのも。
先回りしてしまうから、何時だって、結末まで先に見えてしまう。
相手は、本気で私と向き合っているつもりだ。
その気持ちはわかるの。
ありがとう。
でも…解っていない。
貴方が向き合いたい、その私は、ホログラムだ。
そして、わかる。
そんなのわからないなんて、わかるのだ。
君は私に気がつかない。
そんなのばっかりだったなぁと、歌を聴きつつ思い出す。
着た曲ごとに、苦いというか、なんというか、幼いねぇみたいな、思い出がある。笑
そういや、noteで私は私をダンジョンと言っているのだが、じっくり楽しむ人向けなんだろうな。
と、自分で自分を分析している。
隠しギミックの探索とか、モンスター図鑑の完成とか、オリジナルの遊び方の開発とか。
そういうの。話の大筋と関係ない遊びを遊べる人でもないと、私の事はわからないままだろう。
恋人には向かない傾向だなと、笑う。
当時からレベルは低いくせに、面倒くさいダンジョンだったのだろう。
そりゃ、攻略されないわけだ。笑
私が電子の海が好きなのは、長い年月のダンジョンっぷりを記録でき、知りたいと思ってくれる人は知れるところもある。
文字の世界の私は、ふんだんに、私を盛り込んであるのだ。
たまのフェイクも可愛いものだ。
noteはあまり、フェイクも混ぜてないと思う。
当時みたいに、恋を着込んでないからね。
巣穴である夫は、本当の私なんてものは知らない。てんで、興味がないのだ。と、日々の彼の行動や言動から、思う。
逆にそれがいい。干渉されず、それでいて、巣穴でいてくれる。
夫の為に使う私は、そこまで消耗もしない。
心の安定具合的には、この人で落とし所だろう。
だから結婚したのだろう。
私は大切にしたいものほど、名前をつけたくないのかもしれない。
だから
「貴方の恋人になりたいのです」
の言葉は私の嘘なのだ。
貴方の
貴方は…
???
が私の正解かもね。
名前が見つからない。
大切にしたいことだけが、わかる。
言葉にした途端、違う意味になってしまうから
言葉にしないでとっておく。
とっても臆病で、何処か狡い。
そんな私をそっと許してくれている。
そういう人達に感謝。
懐かしい曲から、懐かしい事思いだして
苦笑いするような歳になったのか。
当時のズタボロの私に教えてあげたいけど、まぁ、彼女も私だからわかってはいるんでしょ。
でも、まだ、頑張ってみようってしてるだろうから、せいぜい頑張って、ここまでおいで。
ただ、もう少し早く気がついたら違ってたかもね。
なんて、そんな、思い出みたいな話でしたとさ。