過去の1場面物語『夢物語』
「少女は夢を見る。少女は夢を見続ける。
醒めない夢。
『それが世界の正体なのよ。』
魔女はそう言いました。」
枕元でアルコールランプがゆらゆらと揺れた。
春の嵐が真っ暗な世界を吠えながら駆け抜けてゆく。
窓がガタガタと鳴る音が、酷く恐ろしく布団を目の隠れないギリギリまで持ち上げながら絵本を読む母の顔を見る。
仄かな灯りに照らされる母の顔は陶磁器のように滑らかで、何時もの温かな安心する人とは違うように感じる。
「ねぇ、もし、おんなのこが…ゆめからさめたら、せかいはどうなるの?」
読まれる物語の『世界の正体』という、良くわからない言葉がとても怖かった。
それに、魔女は大抵悪い人なのだ。悪い人の言葉には悪い気がこもるのだ。
そう祖母に教わった。よくわからないけれど、恐ろしいことだけはわかった。
母の顔を見つめると、優しい笑みを向けてくれた。
「大丈夫よ。女の子は目覚めないわ。それに、もし、目覚めてしまっても新しい世界が始まるだけ。」
優しく頭を撫でられた。
何時もなら、それでとても安心するはずなのに何故だかとても不安になった。
どうして目覚めないのだろう?新しい世界ってなんだろう?そもそも、わたしは誰だろう?このひとは、ほんとうにおかあさん………?
「さぁ、もう夜も遅いから。目を閉じて。良い夢を。」
混乱した頭におやすみのキスが降る。
考えるのは明日にして、今日はもう寝てしまおう。
そんな風に思って少女は目を閉じた。
『新しい世界が始まるわ。』
少女が寝静まった頃、ハハオヤは部屋の隅に話しかけた。すると、何も無かった床から黒い煙が立ち上りみるみる老婆に姿を変えた。
『今度はどうかね?』
老婆は酷くしゃがれた声で椅子に座る女にたずねながら眠る少女を見つめる。
『さぁ?どうかしら…この子の見る夢は世界を救うのかしら…今度こそ救ってくれるといい。良いお母さん役は疲れちゃうもの。』
女はそう言って微笑みながら少女を優しく撫でた。老婆は隅から女の元へスルスルと移動した。足音は不思議としなかった。
そして女と同じように少女を優しく撫でた。しばらくの間、二人は黙っていたが
『世界からの贈り物よ。神の申し子よ。我らが世界を救う夢を。』
そう祈りを捧げると、老婆の体は黒い煙にかわり消えて居なくなった。
1人になった女は変わらず少女を見つめ続けた。
『貴女の夢に幸あれ。』
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽『夢物語』
これは過去に別媒体に書いたお話です。
転載ってやつですね。
1場面。
私が見えるのは何時も1場面。
すべてを書き切る人って凄い。
そんなふうに思います。