一場面物語《境界線》
俺はもう駄目だ。
けれど、この手榴弾でここを爆発すれば…
仲間達は……たぶん助かる。
こんな傷ついた身体では、仲間に迷惑をかけるだけだろう。
「なぁ…」
「却下」
「パス」
「愚問」
「まって、まって、俺まだ何も言ってないよ?」
仲間達は深いため息をつく。
怒号と銃声は響き続けている。
無駄な時間など1秒もないぞと
そう言ってくるなかで、そのため息は
生きた日常の音がした。
「あんたね、どれだけ一緒にいたと思う?」
「思考の癖ぐらいわかるよな」
「そして大半は思い上がり…」
まるで、平和な教室の朝のようだと思った。
机は座る場所じゃありませんって、先生に何度叱られたって、机に腰掛けてしまう癖は抜けない。
風に少し黄ばんだカーテンが揺れて、窓の外から運動部の声が聴こえる。
慣れ親しんだ仲間から、辛辣な言葉をきくのも何故だが嬉しい。
そういう空気が一瞬生まれた気がした。
けれど、意識を現実に戻せば硝煙と血の匂いが濃い瓦礫まみれの戦場であった。
随分好き勝手言ってくれるじゃねーか。
俺だって、色々考えたんだぞ。
でも、どう考えても最善策じゃないか。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。
俺の苛立ちに対して、仲間達は更に強めの口調で口々に言う。
「あんたは、私達にあんたの物語の結末を背負わして気持ちよくなりたいだけじゃない」
「どう考えたって、足掻いて生きるほうが苦しいもんね」
「見れもしない想像でしかないものを『たぶん』なんて不確かなものに任せるなんて愚の骨頂」
俺は息が詰まった。
何故かはわからない。
自分の考えは正しいじゃないか。
損切りって、そんなケチョンケチョンにいわれるもんでもないだろ。
それでも仲間たちの言葉にたじろぐ自分がいた。
わかっているのに、わかりたくはないと踏ん張っている気がした。
「なんでだよっ、俺がいなくたって、」
仲間の一人と目があった。
真っ直ぐに目があった。
「確かに、あんたなんかいなくても世界はまわるし、どーにでもなるわ。だからってあんたがあんたを蔑ろにしていい理由にはなんねーし、それを私達の世界に侵食させて、背負ってもらおうなんて虫がよすぎるんだよ」
あまりの言い草に、言葉が出なかった。
教室の、自分が腰掛けていたはずの机が倒れて、全身を打った時みたいに痛かった。
思わずぎゅっと体を自分で抱きしめた。
「いいか、足掻け。息しろ。最期まで自分に自分で責任もて。そうしてはじめて、周りが生きていくんだよ。周りの為に?くそくらえ。自分の為だって胸張って死ぬなら死ね」
すでにスコープに目をやった仲間の背中だけが見える。
ここは戦場。優しく抱き起こしてくれる手はない。誰かの為にというエゴも許してくれない。
そうやって、何かにしがみつく事を許してくれない。
たった1つの命を護りながら、ひたすらに生き抜いたモノにしか与えられない。
「言葉はきついけど、そうだと思うよ。」
「うむ」
俺にはわからない。
ただ、こわい。
何者でもないということが、ただこわい。
誰かの何かになって、この世から消えられたらそれでいいと願うことは悪なのか?
クラスの中でそれなりに楽しくやっていて、先生との関係もまぁ良好で、彼女は可愛くて、勉強もそこそこ出来て、俺は、ただ、そんな世界に、ただ、なんで生きているのかがわからない。
ここは戦場で、非日常で、だから、その非日常ならばきっと命は輝くはずだと、その時に散れば綺麗なはずだと、誰かの心に残るはずだと、そう思ったのに。
「あんたはあんたの為に、他人を言い訳に死にたがってるだけだよ。何故なのかなんてことは、あとからついてくるんだから、四の五の言わず、やることやれ。それが生き切るってことで、それこそ誰かの為になるかもしれないってことだよ」
俺は…
さて、俺はどっちを選ぶんですかね。
私はどっちもいいと思うんですよ。
俺がそうしたいからそうする。ってだけ。
マゴマゴしてるうちは、適度に楽しく適度に苦しんでろ。と思う。
他人の為に
も立派な動機ですが
それは動機でしたかないよね。
自分が選ぶということを
他人の世界に押し付けたりはできない。
他人がどう思うかの想像なんて
ただの願望でしかない。
いつだって最後は自分に帰結する。
他人任せにして、自分を蔑ろにして、なんとなく生きるのを全力でなんとなく生きることも出来ないなんて、私は嫌だなぁ。というのが私であって、他人の為にを動機以上に、本気でそれをすれば他人の世界を侵食できると思って、無意識に必要以上を背負わせようとしてくるものもいる。ってだけの話。
それに気がついたからって救われるわけでもないし、まぁ、他人の為にという大義名分に救われとけば?と思ったりする。
私が誰かの為に頑張るとしたら、何かをやり遂げるとしたら、それは結局自分の為だよ。
それだけはハッキリ言い切れる私で在ろうと思うよ。