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RM:Right People,Wrong Place

公開を楽しみにしていた本作。
今年早々、1月3日に日本では封切りとなった。

BTSのリーダーとして知られるRM、本名キム・ナムジュン。
彼の発言は、国連でのスピーチを始め、多くの人に勇気を与えてきた。

その一方、活動を休止をする直前、10周年を迎えるアイドル活動で感じてきたジレンマを率直に吐露した。休みたいというのに罪悪感を感じていた、という思いや、KOPOアイドルの在り方への疑問、アウトプットばかりしていて、インプットする時間がないなど。
それはなかなかの衝撃を世間に与えたが、私は率直に話してくれたことが素直にうれしかった。もちろん、アイドルを追うことの意味を深く考えさせられたが。

最年長のJINの入隊が2022年12月に入隊。
その後も、メンバーが順次兵役に就くことが発表された。
同時に、それぞれのソロ活動も始まった。

初のソロアルバム『Indigo』を発表したRM。
それまでにしたためてきた自分の気持ちを楽曲に込め、一枚のアルバムとして仕上げた。
そして今回の映画は、昨年5月に発表された二枚目のソロアルバム『Right People, Wrong Place』の制作の様子を記録したドキュメンタリーだ。
このアルバムの制作過程は、ナムジュンにとって、自分自身をあるべき姿に再生していく過程であったことが、本人と、プロデューサーやディレクターから語られている。

ナムジュンが繰り返し話していたのは、これまでグループでの音楽制作は、自分自身が担当するパートの歌詞を書いたら、ほとんど細かいところまで関わることがなく、レコーディングも一人で行い、誰かから指示をしてもらうこともなかったという。

今回のアルバム制作では、先輩ミュージシャンやディレクターとともに、音をどうするか、歌詞をどうするか、歌い方はどんな風にするかを相談し、試しながら撮っていったのだそう。

曲の録音と同時に、写真撮影やPV撮影も進められていく。
東京の郊外でも撮影。
BTSで着るような高級スーツやキラキラの衣装とは対照的に、
アディダスのジャージ、ナイキのTシャツ、ニットキャップなど、かなりカジュアルな姿で撮影に臨むナム。
表情は自然体で、ほとんど笑うこともない。

イギリスでの野外撮影では、友だちの結婚式の付添人という設定で、他の被写体の中に紛れ、その様子を見守る聴衆はだれもRMだと気づかない。
ナムジュンは、終始リラックスしているように見えた。

TeamRMと名付けられたこのプロジェクトで、ナムジュンにずっと付添い支えていたヤン・サウン氏は、感情が行ったり来たりするナムジュンを、最初どのように扱えばいいか悩んだという。
最終的に、どんな時も離れずにいようと決めたと話す。

ナムジュン自身、本来自分は極端な人間なのに、グループ活動ではバランスの取れた人間であろうと必死だったと吐露する。

10年、KPOPアイドルの先頭でパフォーマンスをし、常に最高のものを求められてきたBTS。
そのリーダーとして、英語も堪能なナムジュンは、いつも通訳として、スピーカーとして、7人を引っ張る役割を果たしてきた。
その重みがどれだけのものだったのか、改めて考えさせられる。

10年、ずっと抱えてきたアイドルである自分と本来の自分の姿との間でのジレンマを、このアルバム制作を通し音楽作品にすることができたのは、何よりRMの音楽的力量による。
アルバム制作を通し、ナムジュンは自分自身を見つけたと語った。
その術を持つ彼は、本当のアーティストだと思う。

さて、2025年。
グループ活動を休止すると発表があり、休止前最後の7人そろったパフォーマンスとなった、釜山でのコンサートから、早2年と3ヶ月が経つ。
JINが入隊したときは、頭をまるめた姿に号泣し、無事に戻ってきてくれることを切に願ったが、そんなJINも去年の6月に戻ってきて、今年の6月には7人全員が転役となる。
既に、グループでのアルバム制作、コンサートツアーが予定されているという。

この2年間、7人それぞれが実に個性豊かなソロ活動を展開した。
一人ひとりの音楽性、表現したいことや目指すものがあって、質の高い作品を発表してきたし、パフォーマンスも素晴らしかった。
そしてこのドキュメンタリーで見せたナムジュンを含め、7人が揃ったとき、どんな姿を、どんな音楽を見せてくれるのか…。

こうなったら、7人そろって生きててくれればそれでいいとさえ思ってしまう。もちろんグループでのパフォーマンスは見たい。
ずっと7人でいてほしい。
でも、何よりも、彼らが一人残らず元気で生きててほしいと、ばかみたいなようだけど、切実な願いを抱いている。

ナムジュンがこの映画で見せてくれた飾らない姿が、BTSの活動の中でもみられるといい。
この制作活動を通して得た自分の姿を、できるだけ保っていられますように。

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