移動と疲労と疲労感
『人は、移動時間ではなく移動距離に応じて疲労する』
という話を聞いたことがある。
つまり東京と大阪を移動する場合、『のぞみ』で行こうが、『こだま』で行こうが、はたまた高速バスで行こうが、疲労度は全く同じであるということだ。
また同じ『90分』という時間で考えた場合、
東京から名古屋まで新幹線に乗るよりも、
東京から在来線に乗って熱海まで行く方が疲労しないということになる。
果たしてこれは本当なのだろうか。
2010年7月、仕事で初めて岩手へ行くこととなった。
初めて乗る東北新幹線。
スタッフの方が甘くて美味しいパンを買ってきてくださり、コーヒーと一緒に頂きながら優雅な気持ちで移動。12時台の新幹線に約2時間乗車し、あっという間に盛岡駅に着いた。
まずは、岩手めんこいTV『予想バトルDE勝ちそー』に出演。出演者の皆さんと楽しく本番を終えたら、次はラジオだ。
しかしラジオは夜の生放送のため、ポッカリと時間が空く。
「温泉でも行きます?」
スタッフさんの気の利いたアイデアで、待ち時間が幸せ時間に変わった。
『開運の湯』という、いかにも馬券が当たりそうな温泉に入り、サイコーに贅沢な時間を過ごさせて頂いた。
気づけば、20:00~21:00生放送のFM岩手『勝ちそー研究室』の本番。ここでも楽しくトークが終わり、あっという間に岩手競馬の仕事二本が終了した。
本来ならば、ここから食事会だ。
お世話になった皆さんとゆっくりお酒を飲み、美味しい焼き肉に舌鼓を打つ。
しかし私は、どうしても帰らなければならなかった。翌日土曜日は、MBSラジオ『それゆけ!メッセンジャー』の生放送があるからだ。そのためには翌朝の始発では間に合わない。かといって最終の新幹線にも、もう間に合わない。従って今回の仕事は、帰りが夜行バスになるということで私も了承していた。
レストランに着くや否や、いっせいに肉を焼き始める岩手の皆さん。
「ほら!焼けたお肉は全部六車さんにあげて!時間が無いから!」
あぁ、なんて優しい岩手の人たち。
私の前には、山積みになった肉が、そしてデカイ盛岡冷麺が並んだ。
しかしながら私は10分ほどで大量の肉と冷麺を食べ切れるようなフードファイターではない。
「もうこれくらいで大丈夫です!ありがとうございます!」
「いやいや、六車さん。せっかくなんで、うまいもん食べて帰ってください!」
ドンドン盛られる肉。
おもてなしの気持ちが嬉しいではないか。
私は柔道部の男子さながら、焼き肉と盛岡冷麺を胃袋へかき込んだ。
10分ほどでガツガツと食べたら、急いでトイレへ。洗面台でメイクを落とし、皆さんにどすっぴんを晒しながらご挨拶。慌ただしく夜行バスの乗り場へと向かった。
バス停には人が並んでいた。
夜行バスなんて、大学生以来だ。
私はワクワクしながら乗り込んだ。
うん。ゆったりしてる。
夜行バスも悪くないではないか。
仕事も終え、温泉にも入り、ビールも頂き、胃袋には焼き肉と盛岡冷麺が詰まっている。
岩手、ええとこやぁ。
岩手の人も、ええ人ばかりやぁ。
私は満たされた気持ちで、ウトウト眠りについた。
しかし。。。眠れない。
ちょっとウトウトしては、目が覚める。
浅い眠りのなか、バスの振動ですぐ起こされるため、見るのは悪夢ばかりだった。
8時間ほどかけて、ようやく東京駅に到着。
やっと着いたぁ!
家に帰ってベッドで寝直したい!
しかしこのまま大阪へ向かう新幹線に乗らなくては。私はヨロヨロしながら東海道新幹線のホームへと向かった。
ガラガラの始発新幹線。
あぁ。新幹線でよかった。
盛岡から東京まで約8時間、東京から新大阪まで約2時間半。10時間以上かけて移動するだけで、もう十分だ。これでもし東京からバスに乗って関西へ移動だったら、、、?
考えただけで目眩がする。
この時、私は思った。
『人は、移動時間ではなく移動距離に応じて疲労する』なんて大間違いだと。
そもそも東京駅から盛岡まで、どう考えても新幹線の方がラクだ。いっておくが、夜行バスを否定しているわけではない。夜行バスは、睡眠時間を利用しながら、安くで移動できるというメリットがある。
しかし、こと『疲労度』に関していうなら、距離ではなく時間に応じて疲労する。絶対だ。だって私は、身を持って証明したのだから。
仮に始発が間に合ったとして、盛岡から東京まで東北新幹線に乗り、東京駅から新大阪まで東海道新幹線に乗って帰ったとしよう。移動時間は約5時間だ。
一方、盛岡から東京まで夜行バス。そのまま東京から新大阪までも高速バスで行かなければならないとしたら?合計17時間ほどかけて移動することになる。
ほらぁ。
どう考えても前者の方がラクなはずだ。
ということで、決めた!
移動はなるべく速度が速く、移動時間の短いものを選ぶべし。
しかし世の中には急いで移動するより、鈍行でのんびり移動するのが好きな人もいる。疲れないのだろうか?
いや、、、違う。
たとえ疲れていても疲れを感じないだけだ。
乗り物好きの人なら、乗り物に乗ること自体が楽しいわけだから、たとえ疲労していても疲労感など感じないのだろう。
もしかしたら疲労度は距離や時間ではなく、人によって違うのかもしれない。いや、そもそも『疲労』と『疲労感』が違うのだ。私がもし大のバス好きだったとしたら、あの移動はたとえ疲労していても疲労感など無かっただろう。
うーむ。奥が深い疲労の話。
移動時間と移動距離と疲労と疲労感。
余計にわからなくなってしまった。
疲労したから、もうやめよう。
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