テーマは死生観と●●?子どもも大人も楽しめる絵本『がいこつさん』
五味太郎さんの絵本にしては、ちょっぴりミステリアスな雰囲気。がいこつに「さん」なんてつけちゃうんだから、きっとお茶目なお話に違いない。
と思って読んでみたら、とんでもない。コミカルながいこつさんの言動に「ふふっ」となりつつも、ほんのり物悲しい気持ちももれなくついてくる。死生観のようなものを感じる作品だった。
2023年に出会った絵本ナンバーワンに決定、手元に置いておきたい。
タイトル『がいこつさん』
作・絵 五味太郎
出版 文化出版局
発行 1982年5月
がいこつさん。
おそらく火葬が終わり、骨になったのだろう。絵本の中ではバラバラのそれではなく、私たちにはわかりやすい形「がいこつさん」の姿で登場する。
「目ではなく、あなです」という表現には、読んだ瞬間「ナイスツッコミ!」とおかしみを感じる。けれども、なんとも言えない悲しさが後からずるずると押し寄せてくる・・・。
「人間は、命が消えてしまうと、いとも簡単に“モノ”になってしまうのか」
ブラックユーモアに富んだ「目ではなく、あなです」。このフレーズを植え付けられた読者は事実をいったん受け入れたという前提で、その先を読み進めることになる。
命が尽きたら、かつての欲や感情まで死んでしまう?
がいこつさんは、なにか忘れていることがあるといい、それを思い出すために部屋の外へ繰り出す。
民家へてくてく、町へてくてく。病院、郵便局、デパート、生きていた自分が行ったことのある場所を歩き回る。
まるで、なつかしい場所をたどっているような感じがする。がいこつさん、突然亡くなったことに理解できていないのかも。
人としての本体が消え、骨だけになり、「モノ」となった。もうがいこつなんだから、何もできない。
うーん、本当にそうなのかな。がいこつさんは「モノ」になってしまったのかな。死んでしまったからって欲や感情は持ってはいけないのかな。この世をさまよってはいけないのかな。
がいこつさんが、町中をカチャカチャと歩き回る姿。どうしても異質なものに見えてしまうのだけど、同じ人間だとしたらごく自然な風貌だ。
死んだあとも、欲や感情が現世にまだ残っていたら。心のままに自由に動き回ったっていいよね。
ただ、見えるか見えないかだけ。
常識で決めつける、その怖さ
がいこつなんだから、洗濯なんてしないだろ。服着ないし汚れないし。
がいこつなんだから、手紙なんて書く必要ないだろ。生きていたときにポストに出しただろ?
がいこつなんだから、食べるわけないだろ。ま、カルシウムだけ摂取しとけばいいよ。
なにか忘れていることがあるからと、お出かけしながら思い出そうとするがいこつさん。可能性をただ提示しているだけなのに、こんなひどい言われよう。でも自分ががいこつだと指摘されると「そうか」と納得してしまう。あきらめてしまう。
なんだろう、このモヤモヤは。
絵本のやわらかな表現でさえ、どうにも暴力的なものとして聞こえてくる。
●●だから、▲▲したらダメ。
そうか、決めつけられているからだ。常識や誰かの先入観で。
あなたはこうと決めつけられて、何もできなくなる。言い返せなくなる。胸の奥をぎゅっと掴まるような痛みを覚える。
男なんだから、強くあるべき。弱いのはダメ。
女なんだから、主張して場を乱すのはダメ。
こどもなんだから、先生の言うことに逆らうのはダメ。
年寄りなんだから、若者に意見したらダメ。
あなたは真面目で聡明なんだから、こんな低俗な場所に行ったらダメ。
「それも、そうだな」と無意識下であきらめている人が、いる。せめて一般水準に届くようにと、努力したり我慢したりしていたりする。
がいこつさんが発刊されたのは1982年。もう41年も経った。時代が変われば世の価値観も変わる。かつての常識や価値観をベースに空気を読んだり、まわりに合わせるのは、もう終わりにしよう。
ただ、ひとりひとりの違いを認めて、理解しあえばいい。折り合いをつけて共存していけたらいい。ただそれだけなのにな。
YouTubeでは、動く『がいこつさん』も
いやあ、壮大なオチになってしまった。おれ、まじめか。
『がいこつさん』は、キャラクターとしてはコミカルでかわいらしいし、五味太郎さんならではの柔らかなタッチと色合いが魅力だ。
YouTubeでは、なんとアニメーションで誰でも楽しめるようになっている。動くがいこつさん、とってもキュート。ムーディーなBGMと原田伸郎さんの穏やかな語り口が創り上げるシュールな世界観に没入したくなる。
定期的に会いたくなること間違いなし。
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