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天国にちがいない/エリア・スレイマン
まず、タイトルが大好き。うまく説明できないけど、「天国」と「ちがいない」、「It must be」と「heaven」を組み合わせようと思ったその感覚に、感服する。私が思いついたら、間違いなくそり返るくらい胸張って、鼻高々だろう。そもそもこの映画に出会ったのは、カンヌの「それぞれのシネマ」を観て、エリア・スレイマン監督のが面白かったなあ、他に何を撮っているのかなあ、と思ったところからだった。そこで調べていくうちに、この映画があり、タイトルに惹かれて絶対観よう!からの、わりとすぐ観ていいね、だったのでした。
しかし1回目に観た時は、正直「なんかいいな」という感想で、また、パレスチナのことについては、あまりに学がなくて、あまり読み取れなかった、というのが本音だ。でも、なんか気になる。なんか気になるから、やっぱり調べる。そしたらいろんな感想や考察が出てきて、また監督のインタビューなども見て、読んで、シーンごとの意味や役割を考えるようになった。そこからどんどん、沼にハマっていく。
流し見も含めれば、もう4〜5回は観ているけれど、今回これを書くにあたって、せっかくだからとまた観直してる。毎回こんなことはできないだろうけど、今日は金曜。何度観ても面白いし。
冒頭のシーン。やっぱり暴力しか勝たん。神父様ががっつり暴力していて、その人間味が良いと思った。
次に、何度かある、部屋の観葉植物に水やりをするところ。その整えられた画面に、初めてこの映画を見た時、早くも胸が高鳴ったのを思い出す。
ぜんぜん誤った解釈かもしれないが、「ワインに浸した鶏肉を…」の時にESが手元の白ワイン?を見たのは、「まさかこれに浸したんじゃないよね…?」という心配のようで面白い。
レモン泥棒にESは、ふつふつと怒っている。あの怒り方を、わたしは知っているような気がする。わたしもよく、ふつふつと怒る。
急に差し込まれる、ニーナ・シモンの曲のシーンも、1度目に観た時から最高だと思った。あれはどんな気持ちなんだろう。スカート、短いな。フランス人はこんなファッションなのか、いいね。とかかな。私だったらどんなこと考えるかな。
変なセグウェイみたいなのに乗った警察も笑える。まず、画としてかなり美しいし、気持ちいい。
救急車のシーンも大好きだ。コントじゃないか、こんなの。道端の老人にフルコースの料理を。パンナコッタ、ティラミス、ショコラ?ボナペティ!って…!
老人と救急車の距離も絶妙で、シネマスコープがよく生かされていると思う。
何かのインタビューで見たけど、ブリジットさんのシーンは、監督が実際に経験したか何かで、これは入れなきゃ!となったらしい。わたしの日常にも、これは入れなきゃ!なシーンがよくある。なのに、入れる映画がない。虚しい。
何度見てもわからないシーンもある。ホテルの向かいの洋服屋の画面に映し出される、ファッションショーを眺めるシーン。あれはどんな意味、意味はなくとも、どんな気持ちなんだろう。スレイマン監督の映画は、たくさん想像させてくれるから楽しい。たくさん想像させてくれるものは、それを私だけのものにさせてくれる。よくスピッツの歌詞は解釈がさまざまで盛り上がると言うが、それに近い。逆に、こう思わせようとしてるなとか、ここで泣かせようとしてるなとか、そういうことがわかるものは苦手だ。時にそういうものを欲する時もあるが、ほとんどはおもしろくない。
椅子取りゲームのシーンも、馬鹿馬鹿しくて笑える。人間の浅ましさがよく描かれている。椅子取りゲームといえば、わたしは電車で何としても座ろうとして、時に乗った瞬間に走り出したりする人がいることを知っている。あれは、どんなに好きな人でも冷めてしまった。あの行動をするくらいなら、わたしはずっと立っていたほうが良い。凛々しさ。
窓から入ってきた小鳥を見つめるESの顔、素敵。しかしこの小鳥、オーディションで選ばれた2羽だそうで、てっきりCGかと思ってたから、ひどく驚いた。仕事の邪魔になるからと手でどかすのも、テンポや画面の美しさに目を見張るものがある。小鳥って、どうやって演技覚えるのだろう。ほんとすごい。
ESが「ナザレ」と「パレスチナ人だ」しか言葉を発さないことは、記事か何かを読むまで気がつかなかった。というのも、ESは無表情、無口でありながら、あまりにも雄弁に語っているからだ。その二言だけ発することで、印象的にしたかったのだとしたら、わたしはその意図から外れてしまい申し訳ないが、とにかく楽しんで観ているのには違いないから、許してほしい。
そして、天使のシーン。ここだけじゃなく、この映画では音楽が良くて、何度観てもShazamしちゃう。なんだこれかっこいい!と思ってShazamすると、すでに前に観た時にしているのだ。シーンの話に戻そう。この天使のシーンは、もしかしたら人によっては不要、というかもしれない。または、過剰に称賛する人がいるかもしれない。わたしはそのどちらでもない。これは必ず必要で、かといってここが核とも思えない。全てのシーンが平等にあると思う。不要という人を否定するつもりはない。ただ、つまり、わたしはこのような、やっぱり映画だよね、映画にしか成し得ないよね、というシーンが入った映画が好きなのだ。他の多くのシーンのように、日常でも見られるような、しかしおもしろい光景も大好きだけど、それだけの映画はやっぱり少し物足りない時があって、この映画では日常と非日常、あるいは妄想のバランスが本当に心地良い。その後にでてくる、手荷物検査で金属探知機をぶんぶん振り回すとこも。あれも急に派手でおもしろい。
ラストシーンももちろん好きだ!最初に観た時はよくわからなかったけど、今はじわじわと込み上げてくるものがある。笑えて、なんか少しうるっとくる。若いエネルギーだとか、そういうものへの感涙なのか。そしてそのままエンドロールに入るのもすごく素敵。それまでずっと静かで、こんなに派手なシーンはなかったのに、最後はこれで終わる、というのがなんか、またひとつ外側の現実に行けたような気がして楽しい。ははは。今回も楽しかった。最後の「Bahlam Maak」曲というも良いんだよなあ。映画に使われる音楽は、それ単体で聴くよりも映像と合わさることで、さらに輝きを増す。(もちろん例外もある。)
この映画の良さ、スレイマン監督の良さに気づいた私は、しばしば似ていると言われている、ジャック・タチやチャップリンの映画も観た。なるほど、どちらも大変面白かった。いずれも今後このブログで書こうと思うから、詳しくは割愛するが、チャップリンは「独裁者」を観て、思っていたよりわかりやすく、そして感動した。そしてジャック・タチは「プレイタイム」と「ぼくの伯父さん」の2本を観て、すぐに好きだとわかった。かっこいい。美しい。好き。止まらなくなりそうなので、この続きはまた。
話を戻して、ずいぶん長くなってしまったけれど、私は本当にこの映画が気に入っている。何度も観ることで、味わい深さが増し、そして解釈や想像は広がる一方だ。街を歩いていても、この映画のことを考えるし、仕事中にも脳裏に浮かんでやまないから、ポスターにも使われている、海に向かって立つESの画像を、デスクトップの壁紙にした。
それと、最近はスレイマン監督のような眼鏡がほしい。あのセパレート眼鏡、かっこいいんだよなあ。憧れちゃう。
先にも述べたが、スレイマンの映画を観てから、日常に映画のようなシーンをたくさん見つけるようになった。この前台湾に行った時、博物館で椅子にぎゅうぎゅうに座りながら、ガイドさんの話を聞く韓国人観光客の団体を見て、これはと思い写真に収めた。最近では、カフェの外をサンタの集団がぞろぞろと歩いているのを見た時、私が映画監督だったら、絶対にこのシーン入れるのにと思った。もしいつか映画監督になったら、入れてあげよう。
そして、台湾に行ったとき、どこに行っても生活があるなと思った。これは発見だ!と思った。国が違っても、街は街で、そこには生活があるだけなのだ。しかしそれはパンフレットにも書いてあったけど、この映画のひとつの解釈でもあるようで、だとしたら私が発見だ!と思ったことは、やっぱりみんなが気づいてて、無意識にこの映画が好きな私の価値観は、こうして繋がっているんだと気づいた。
ハマると収集癖が発動してしまうためネットで買った、この映画のパンフレットとDVDの写真を添えて。
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