街の片隅で
大黒摩季の『別れましょう私から消えましょうあな
たから』という曲の中の歌詞に、『同情のセックス』
というフレーズが出てくる。
まさしく、私たちの夫婦間系を代弁してくれているように思う。
夫婦なんて10年も経てば、全てが同情でしかなくなる。
もちろんそれはセックスもである。
私はコンビニでパートする46歳の女。
基本夕方から入っている。
毎日のように、ストロングゼロを買いに来ては、隣
の閉まったみずほ銀行の前で酒を飲んでいる、長
田という40歳の男がいる。長田は働いてるんだか、
働いてないんだか、良くわからない男だ。私がタバ
コ休憩の時に、隣のみずほ銀行の端っこで喫煙してい
ると、長田のくだらない下ネタを聞かされれハメに
なる。だから最近は聞き流している。そんなこともあり
後日、私はいつものようにタバコ休憩の時間になり、
みずほ銀行の端っこに腰を下ろしてタバコに火を点
ける。いつもだったら長田が座っている場所に見知
らぬ青年が座っていた。彼から挨拶された
『はじめまして、カケルと言います。今、長田さん待っているんですよ』
その青年は最後に可愛い笑顔をみせた。
端正な顔立ちに、礼儀正しいその青年は30歳だと付け
加えた。
青年の笑顔を心で受け止めてしまった私。
漫画のように身体中に電気が走っていくのを覚えた。
私はこの年になっても、一目惚れする人間だった事
を初めて知ったし、びっくりもした。
理性で本能を止めようとしたが、難しい。
仕事に戻ってもカケル君の事を考えてしまっている。
私より16歳も年下だ。
私は子供はいないが、一応、旦那がいる身。
本気にならないように努めたが、その夜、旦那がお
風呂入ってる隙に、私はカケル君を想ってマスターベ
ーションしてしまっていた。
『カケル君に抱かれたい』
『カケル君をもっと知りたい』
日々想いは強くなる…。
夕方からのパートのだった。
いつものように長田が入ってきた。
長田はストロングゼロを2缶持ってレジへ来た。
私は訊いた「なんで2缶なの?」
すると、
『カケルに彼女が出来たからお祝い、俺の奢り』
長田は笑ってみせた。
私は自分が情けない。
カケル君と出会ってから1ヶ月はあっただろう。
その間にもカケル君と話すシチュエーションは何度
かあった。
しかしそのチャンスを見逃したのも私なのだ。
旦那と別れてカケル君と。と、いう考えも何処かにあった。
でもそれは私の一方的な想いに過ぎない。
では、とうすれば良かったのだろうか?
相談できる相手がいないからわからない。
先ほど、長田がストロングゼロを買っていって、まもない。
ちょうど私のタバコ休憩の時間だ。
せめてカケル君の顔が見たい。
私は息を整え、コンビニを出て端っこに…あれ?2人がいない。
きっと『お祝い』と言っていたから、居酒屋にでも飲みに行ったのだろう。
私は久しぶりに恋をした。
でもやはり恋の前に臆病な私がいた。
それは変わっていなかった。
でも、きっとこれで良かったのだ。
タバコを吸い終わった私は、そう呟いていた。
その日パートを21時に終えて、自転車でゆっくりと帰えった。
大黒摩季を口ずさみながら。
『別れましょう私から消えましょうあなたから🎵』
『…同情のセックス🎵』