歴史小説「Two of Us」序章☆J‐1
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
Prologueーいにしえの記憶
J‐1
あなた珠子が、この町に暮らし始めた時もまた、城下の人々はとり憑かれたようにお囃子に合わせて踊っていたのだろうか。
今夜の盆祭りのように。
もう何年も帰省してはいなかった。
けれど、福知山音頭を人混みの中から観ていると、律儀な知将でありながら歴史の上では〈クーデターを起こした逆臣〉として扱われている明智光秀を、それでも信頼し、豊穣を祝って来た庶民の誇りや祈願にさえ、映ってしまう。
こんな想いで、この独特のステップを繰り返すダンスの群れを観たのは、初めてだ。
あなた珠子は、高見の見物であの城塞の小さな鉄砲穴から眺めた頃、自身の運命が翻弄され望んだ以上に波乱の外界へ放り出されて行く事、予想出来たのだろうか。。。
こんな狭い囲いに閉じ込められて、早くどこか遠くへ出ていきたいな、とさえ夢想してたのではないか。
私はこんなにツマンナイ毎日やのに、あの人達は、あんなに楽しそう!
会いに行きたいなぁ、まだ出逢えてへん、誰かに。
躾の行き届いた育ちの良いあなたが、こっそり好奇心で眺めた外の世界。
治水もコミュニティも発達させたのは、あなたの父上の統治のお陰だが、その覗き穴は、つい先日、闘いのさなかで火を吹いたばかりだろう。
負傷した兵士が鎧ごと凭れた石垣だ。
それでもあなたは、外の世界を知りたいと願い、その石垣のその鉄砲穴から、父上が戦で留守の間に眺めていたのか。
同じ年頃の私が〈明智ヶ丘〉の中学校の窓から、遠くのどこかを見つめていたように。
あなたが産まれた1563年、あなたの波乱万丈な生涯を、共に闘い共に安らぎを得た闘将の彼、細川与一郎忠興も産まれた。
ちょうどその400年後の1963年、私はこの地に産まれた。
1500グラムばかりの未熟児で、母は産まれてすぐには私を抱き上げることも出来なかった。
狭くて透明な保育器の中で、細くてスポイトみたいな注射器で、鼻から母乳を飲んでいた私が、誰よりも元気にもがいていたらしい。
私は産まれてすぐから、ここを出ていこうと考えてたのかな?
あなたが他界に召された御歳よりも永く生きて、私はこの街に戻ってきた。日本が鎖国時代に入る前に、あなたのような女性が生きて人を慈愛で包み、闘うパートナーとの絆と己の芯なる信仰は曲げなかった事。。。
あのお城の資料館であなたを知った後で、私は初めてこの故郷を好きになりたい❗と感じた。
あなたの辞世の句。
最期の言霊が、本当に伝えたかったことは、何か。。。❓
「散りぬべき
時知りてこそ 世の中の
花も花なれ 人も人なれ」
ーーー to be continued.