歴史小説「Two of Us」第4章J‐6
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Forward to【HINO-KUNI】country
J‐6
夕刻になって、オクの身柄を預かっている商家を訪れる。
養女として公家の娘の清原イトを迎えていたその大店の主人は、経緯を既に知っていて、もちろん口外なく、そして温かく迎え入れてくれた。
「〈お玉〉さんとお呼びいたします。念のため。
今晩はこちらにお休みくださりませ。明日は、オクの案内で〈老いの坂峠〉を越えていただきます。〈水戸野〉の峠までは、オクにお送りさせます。どうかご無事に」
「かしこまりました。水戸野から先は、イトと二人で向かうつもりです。
有難く、お部屋をお借りいたします」
商家の主人が、付け足すように知らせる。
「先日、山家藩の谷衛友様には、急ぎ文を渡してお伝えしておきました。
頼ってみてくださりませ」
「重ね重ね、お世話になります。
谷様は、細川の殿と同い年で歌会の友でござりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「はい。存じあげておりますよ。わたくし共も御用聞きのお得意様ですので、お任せくださって嬉しゅうござります。
では、お休みなさいませ。明日、おむすびをご用意しておきます」
あなた珠子とイトは礼を述べ、深く頭を下げた。
あくる朝、商家が持たせてくれたお香里のお弁当を持ち、珠子とイトは、オクの案内と共に桂川沿いから〈沓掛〉(くつかけ)の辻に辿り着いた。
〈老いの坂峠〉の入口であるこの辻は、旅人がわらじや着物を整え直す休憩場所として、竹林も古くから整備されていたので〈沓掛〉と呼ぶのが由来の定説である。
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