【作曲徹底解説】「...恋に落ちたら」はどのようにして出来たか
Penthouseの最新曲「...恋に落ちたら」のサブスク配信開始からおよそ一週間、皆さんお聞きいただいているかと思います。
皆さんのお気に入りポイントはどこですか?
私はAメロ入りの「カーテンを開ける暇もなく起き抜けに眺めるWindows」の歌詞が好きです。
いろんな要素が詰まった曲なので、きっとそれぞれにいろんな「好きポイント」があるんじゃないかなと思います。(コメントお待ちしてます)
しかしですよ、そこのあなた。果たしてこの曲の聞くべきポイントを全て網羅出来ていますか? もちろん、「なんとなくいい曲だな〜」とか「素敵やん」と思って聞いていただいていいんです。ただ、こんなNoteまで読みに来ていただける皆さんであれば、もう一歩深いところで曲を楽しんでいただくのも良いのではないかと。
というわけで今回は作曲者たるワタクシが、「...恋に落ちたら」を徹底解説いたします!作曲やアレンジのエピソードも盛り込んで参りますので、楽しんでいただけたら幸いです。
■「...恋に落ちたら」作曲のきっかけ
きっかけは、音楽友達とのトークでした。コロナ禍の寂しさを紛らすため、昼休みや夜中に友人とグループ通話をしていたときふと恋愛の話になりました。そんな中で「恋に落ちたら順風満帆よ」というキラーワードが出て、「歌詞みたいだな笑」と盛り上がり、さらには「いっそ曲かいてみるか」と遊び半分で書きはじめました。
遊び半分ゆえに、サクサクと得意な進行でイントロ〜サビまで作って、歌詞も膨らませて、なんと翌日にはデモもできてしまっているというスピード感。往々にして、悩んでこねくり回した曲より、「もうできちゃった」みたいな曲の方が、名曲だったりするものです。
で、そのデモというのがこちら。せっかくなので公開しちゃいます!
もうこの頃にはだいぶ形ができてますね〜。
しかしこの曲、このデモの完成からしばらく放置されることになります。
■ベーシスト大原さんによる発掘と激推し
なぜ放置?と思うかもしれませんが、これまでのPenthouseの楽曲とは少し毛色が違うし、何より私も珍しく書いた日本語詩が可愛すぎて恥ずかしかったという笑
しかし程なくして、ドライブを回遊していた大原さんに見つかり、「めっちゃいい!!」と推していただき、めでたくバンドアレンジしてリリースする運びとなりました。
■お待ちかね、徹底解説スタート
さて、前置きが長くなりましたが、ここからは曲を聴きながら、Aメロのあそこはどうだ、サビのコードがどうだという話をしていきます。皆さんもぜひ曲を流しながら読んでみてくださいね。
■大Youtube・サブスク時代にウケるアレンジ
まずPenthouseの最近のアレンジのテーマとして、このYoutubeやサブスクという環境でいかに聞いてもらうか、というところがあります。言い換えれば「手軽に良い曲をたくさん聴ける環境で、いかに最初から最後まで聞いてもらえるか」ということにもなります。
その最たるは、やはりサビ入りのイントロです。ここで「うわ絶対いい曲じゃん!」と思わせたい。大原さんが最初に提案してくれたところです。とはいえ、サビをまるまるやるのは飽きられるので、半分の尺でうまく収めました。
サビ入りというだけではなく、期待感を煽るようなピアニストかてぃんのキラキラアレンジも光りますよね。レコーディング時に「もっと派手にして〜」と頼んだらこれがすぐ出てきました。ありがたや。
■Penthouseらしいさを提示するリフ
入りサビの後は、元々イントロだった歌のない間奏部分です。Penthouseらしさとか言ってますが、私の作風ですね。ベースとギターがオクターブでユニゾンする、ハードロックスタイルを、少しおしゃれなコードと組み合わせてます。
ポップなメロディと歌詞を、Penthouseらしさといかに融合させるか、というのは一つ課題でした。こういった単音リフはもちろん、跳躍の少ない洋楽チックなメロディになっているのもその辺り一役買ってくれていますね。
■Aメロの歌詞のテーマは「自分ごと」
1番Aメロの入りは「カーテンを開ける暇もなく起き抜けに眺めるWindows」という一節から始まります。カーテンと窓(Window)は呼応していて、本来はカーテンを開けないと窓は見えないはずが、コロナ禍という状況ではリモートワークとつながることで情景が見えてきます。
そのほかにも、コーヒーで眠気を覚まそうにも、カフェインの摂りすぎでいまいち効き目がなかったり、といったあるあるや、「コンビニでも売っている」という生活感あふれるフレーズを散りばめ、この歌詞が「自分ごと」であるように感じてもらえるんじゃないかと思います。
■Aメロ終わりからBメロへの移行
Aメロ終わりはみんな大好きサブドミナントマイナー系コードを置いています。「重なれば」の箇所のなんともいえないアンニュイなコードです。Bメロの歌詞は「遠い夏のあの日」から始まるのですが、回想へつながる場面の転換とよくマッチするなと思って使っています。
■Bメロの面白ドラムフレーズ
デモではもう少しありきたりで、ハーフテンポでタムを絡めた感じの打ち込みにしていましたが、ドラマー平井さんのオシャレフレーズ案が炸裂し、より耳を引くものになっています。「あの夏」を回想する歌詞が本来持つゆったりとした感覚と、恋愛ソングの高揚感を両立させている感じがしませんか?
■ゴスペラーズ黒沢さんによるサビのメロディにまつわるアドバイス
サビのメロディについてはエピソードがあります。いつぞやゴスペラーズの黒沢さんとお会いした際に、思い切ってこの曲のデモを聞いていただいたことがありました。その際「サビで同じメロディを3回繰り返すのではなく、例えば2周目を少し変えてみる等してみては?」というアドバイスをいただきました。
とはいえ、このメロディのイメージを崩さずに変化をつけるのは私には難しく、ここが最後まで悩むポイントになりました。結局メロディはいじらず、①歌う人を変える、②コードを変える、といった二つのアイディアで変化をつけていきました。
①については聞いての通りまほさんと私の掛け合いにしてイメージに違いを持たせています。
②は1番、2番、ラスサビでコード進行を少し変えることで、少しでも聞き飽きる感じを減らそうと目論んでいます。
■サビ終わりのタイトルコールに隠れた秘密
これはちょっと皆さん気づいているかどうかお聞きしたいところなので、ぜひコメントしてほしいです。
イントロの「恋に落ちたら」と、1サビ終わりの「恋に落ちたら」で、歌い出しの位置が違っているんです。わからない人はぜひ聞き比べてください。イントロは1サビに比べて2拍分置いてから歌い出しています。
イントロの間を置く感じはとてもドラマチックですが、いわばハイカロリーでずっと食べるには重い。一方1サビ終わりの方は前菜のようなさっぱりさがあるものの、これだけでは物足りない。両方の長所を場所によって取捨選択しているというわけです。2サビ、ラスサビの終わりも、どうなっているかぜひ聞いてみてください。
■こだわりの2番Aメロ
私のポリシーとして、「極力1番Aメロと2番Aメロは違うことをやる」というのがあります。理由は先に述べた通り飽きさせないためです。
一方で、1番と2番で同じメロディを採用することのメリットもあります。それは覚えやすさ≒キャッチーさです。
今回はその両方のいいとこ取りをしようというテーマで臨んでいます。具体的には1Aの「カーテンを開ける暇もなく起き抜けに眺めるWindows」と2Aの「何気なく見るNetflixも味気なく写りはじめた日々に」。聞き比べると、音程の並びはほとんど同じですが、歌い出しの位置が違います。1Aは16分裏から入るのに対し、2Aは4分表から。Aメロとしての繰り返し感は残しつつ、印象はうまく切り替えられているかと思います。
また、2Aの入りといえばまほさんのオクターブ上の歌唱も印象的ですよね。ハッとするでしょ。「2Aは1Aと違うんだな、どうなるんだろう」と思わせたい、そんな思惑があります。
その後はすかさずパワーのある声で「大人のふりが板につくほどに〜」とたたみかけます。「君が連れ出してくれたらいいな」は16分にはめるフレーズの多い曲の中で緩急をつけるべく三連を。そしてまた間をおかずに楽器隊の派手なキメからBメロを飛ばしてサビ、というとんでもない忙しなさです。
でも、それでいいんです。2番Aメロって、なんか「休憩」っていうイメージが共通認識ありません? でも私からしたら、そんなんじゃだめなんです。せっかく私が一生懸命書いた曲なんだから、「頭からお尻までずっと最高」であって欲しい。そのためには2Aは2Aなりの良さを出したいと思っています。
2Aまで聞いてくれた人って、もうだいぶこの曲を気に入ってくれている人なので、ある程度自由にやってもいいだろうという前提に立つことができます。そういうこともあって、楽器隊のアレンジの指示も「ここは自由!」みたいな感じになってますし、それによる良さもそれぞれのパートを聞けば聞くほど感じてもらえると思います。
■2番サビで登場するみんな大好きⅢ7
黒沢さんのアドバイスに則って変えた「この季節の結末の結末だって」の裏のコードがⅢ7です。「けつ」のメロディーが1番と比べて半音上がって、なんとも胸が締め付けられるような感じがするでしょ。みんな好きな展開ですが、多用するとダサいので取り扱いは慎重に行なっています。
■2番サビの歌詞は1番との対句
「夕立を追うように夜が窓の外を満たしていく、期待通りの返事を待つ」と「停滞を散らすように朝が窓の外を照らしていく、期待通りをきっと描く」で、対比の効いた表現になっています。我ながら綺麗ですわ。
正直「期待通りをきっと描く」というまでポジティブに倒していいかどうか悩んだ節はありますが、次のNanana〜パートを思いついてからはこれでばっちりハマるようになりましたね。
■ライブで盛り上がりたいNa Na Naセクション
間奏だからと言って休ませません。2番で前向きになった主人公の気持ちを代弁するかのような多幸感があるメロディ。ギターと歌でユニゾンかと思いきや、ギターは歌の間を埋めるオブリが入っています。矢野のギターの音色も撚りがあって、このパートの特別感を演出してくれています。
折り返しのコードは、普通ならⅥm7 Ⅵ♭m7 Ⅴm7で降りていくところを、代理コードのⅠM7からⅦM7 Ⅶ♭M7 Ⅵ7(♭13)と続く、おしゃれポイントです。
■Bメロから転調、そしてサビへ
NaNaNaで盛り上がったあとは、緩急をつけるべくピアノと歌だけに落とし、かといって冗長にならないようすぐにバンドインする構成にしています。1番とメロディを少し変えていますが、これはレコーディング時に「バンドインに合わせて歌のテンションもあげたいな」とふと思い急遽変更したものです。
そして、ラスサビに向けてここはベタに半音上げ転調で盛り上げます。ベタにはベタのいいところがあって、そこはしっかり拾いたいですよね。
■ラスサビも実はコード変わってるんです
半音上がって、主人公の気持ちが軽くなっている様子が感じられますね。ラスサビも黒沢さんのアドバイスから着想を得て、コードを変えています。コードを変えることは決めていたものの、どう変えるかスタジオで1時間くらい悩んだ思い出があります。
ちなみに、「憂鬱を飛ばすように風が夏の先に駆け出していく」という一節は大原さんによる作詞です。
■最後のNaNaNa
私とまほさんだけでなく、みんなでマイクを囲んで歌をとりました。ここ、ライブでは3倍くらい尺取るので、よろしくお願いします。
■セルフライナーノーツを書いてみて
いかがでしたでしょうか。より深くこの曲を聴き込めるポイントは網羅しているんじゃないなと思います。「そこいいと思ってた!」という共感や、「そんなこだわりがあったんだ!」と言った発見があったら、ぜひコメントを残していただけると嬉しいです。
いざ書いてみると、自分で思っていた以上にあれやこれやとこだわっていたことを思い出します。たった一曲でも歴史があって、メンバーとのやりとりが紐づいていて、黒沢さんまで出てきて、しみじみといい音楽をやっているなと思います。
引き続きいい曲といい歌を届けられるよう精進して参りますので、何卒応援のほどよろしくお願いいたします。