「お布団はタイムマシーン」を読んで
母親の実家は、当時住んでた家から電車を乗り継いで30分ほどのところにあるのだが、私の子供の頃はまだ近所まで電車が通ってなくて、バスを乗り継いで行かなければならなかった。
そのため、お年始など、帰りが遅くなった時にはタクシーに乗って帰った。我が家には車がなく、ふだん車に乗る機会があまりなかった私には、それがたいそう嬉しかった。
まだ背が低いので車窓が高い位置にあり、暗い中を店のネオンや街灯が流れていくのを見つめていた。
大人になった今でも、夜に自動車に乗ると(私は運転はできないので助手席か後部座席)、懐かしくせつない気持ちになる。
もういない両親と、おさない妹と、眠い目をこすりながら夜の光を見つめていた思い出。
そんな夜の車内は、私を昔に引き戻すタイムマシーンと言えないだろうか?
脚本家の木皿泉のエッセイ「お布団はタイムマシーン」を読んだ。
木皿泉は夫婦ユニットで、往年の名作ドラマ「すいか」や、「野ブタ。をプロデュース」「Q10」「昨夜のカレー、明日のパン」などを書いた脚本家だ。
何気ない日常をすくいとり、観たあとは心が少し元気になる。
エッセイがまた良くて、木皿さん(書いてるのは奥さんの方)の日々や思うことにくすっとしたりじんわりしたり。
タイトルにもなっているエッセイでは、今は半身不随のダンナさんが子供の頃の夢を見て、「オレにとってお布団はタイムマシーンや」と嬉しそうに言う。
そして、
日常生活は、過去と未来が渾然と混じり合っている。その中を、今という時間が、止まることなく白球のように駆け抜けている。それが日々の暮らしというのもである。
と結ぶ。
昔も今も未来も、あたりまえだけど、地続きなのだ。
また、「リセットのやり方」の項では、親しい人に裏切られて落ち込んでた木皿さんが、
その人への親しさがなくなるとともに嫌悪感もなくなっていった。愛と憎しみはセットだというのは本当のことらしい。と書く。
裏切った人と、この先、また出会ったら、前と同じように親切にしてやれるのかと聞かれれば、できると私は答える。でも、やられたことは一生忘れない。リセットとはそういうことである。
木皿さんの正直さ、エピソードのおもしろさ。
ページをめくるごとにまたひとつ、またひとつと、日常のすぐそばにある何かに気づかされるのである。
*表紙の蝶は、実際は針金でできています。
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iPadでのお絵描き練習日記その5。
タッチを決めずに描いてます。
(*通常描いてるイラストや漫画は、マガジンよりご覧下さい)