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アメリカ大統領選挙 - 民主党バイデン氏の逆転劇を振り返る

アメリカ大統領選挙、歴史に残る長期戦になりましたね。11月3日に投票が行われてから、主要メディアがバイデン氏の勝利をアナウンスするまで4日、全州の結果が出そろうまで10日ほど。

特にジョージアやペンシルバニアといった激戦州では、「スポーツ漫画のクライマックスシーン?」と思うくらいの接戦になりました。9割以上開票が進んでも、まぁ結果が出ない出ない。

私はというと、そんな歴史的な接戦を記録に残しておこうかと思い、タイムラプス的なやつを作ってみました。



タイムラプス的なやつを作ってみた

最初にお断りしておくと、以下は完全に私の趣味に走ったセクションです。

ためになることは書いていないので、「接戦だったオリンピックのあの名試合をもう一度見たい」みたいなテンションで大統領選を振り返っているコアなアメリカ政治ファン(?)以外の方は、読み飛ばしていただいた方が賢明かと思います。


まずは全米の勢力図。(スクショはCNNより)

日本時間4日の夜(アメリカ時間4日の朝)、それまでトランプ氏(赤)がリードしていたウィスコンシンとミシガンでバイデン氏(青)が逆転します。

その後、残りの接戦州はもはや1ポイント2ポイントの戦いになり、「〜5ポイント差」「5〜10ポイント差」「10ポイント以上差」で色分けされているCNNの地図が意味をなさなくなってきました


そんなわけで、最初はCNNで結果を追っていた私も、途中からニューヨークタイムズに鞍替えしました。

こちらはジョージア州で青(民主党)が猛烈に追い上げる様子。(スクショはニューヨークタイムズより。以下同じ)

アメリカ時間5日夜には、ジョージアのリードが0.05ポイント差になり、それから0.038ポイント差にまで縮まり・・・

小数点一桁まで表示していたこのグラフも、意味をなさなくなってきました。

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ニューヨークタイムズは途中から、選挙ページのトップで「票差」を表示し始めます。

次のスクショはいずれも5日深夜のもの。開票率98%以上で差は0.013ポイントとか、どんだけドラマティックなんだ。

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そして6日早朝、バイデン氏が逆転。

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そこからもカウントは続き、結局ジョージア州でのバイデン当選確実が発表されたのは11月13日、選挙から10日経ってからのことでした。

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とはいえその差は0.28ポイント。ジョージア州では「差が0.5ポイント以内なら数え直しを要求できる」というルールがあるため、手作業で数え直しが行われ、19日に改めてバイデン氏の勝利が確認されました。

数え直し後の最終的なバイデン氏のリードは12284票だったそうです。


バイデン氏の逆転劇を生んだのは「郵便投票」だけではない

さて、逆転劇のドラマティックさに終始していてはあまりにも役に立たない記事になってしまうので、今回一躍脚光を浴びた「郵便投票」についても触れてみたいと思います。

「郵便投票は民主党が優位」「翌日以降に郵便投票を数え始めてからは、バイデン氏が追い上げるだろう」とは、選挙前からさんざん言われていたことでした。

とはいえ、選挙当日の夜時点では多くの激戦州でトランプ氏がリードしていました。なかでもペンシルバニア州ではトランプ氏が15ポイントの差をつけており、「ゆっても、当日投票と郵便投票でそこまで支持割れる?いくら郵便投票は民主党優位っていっても、これだけの差を挽回できる???」と思った人も多かったんじゃないでしょうか。

って人ごとのように偉そうに書いていますが、私も割とそう思いました。

そう思いながら、各郡ごとの支持率やら開票率やら各種速報やらを追っていたのですが、この「郡ごとの差」ってやつがなかなか重要で。「郵便投票」に負けず劣らず今回の逆転劇で鍵を握っていたと思います。


都市の民主党、地方の共和党

民主党と共和党の勢力図は、都市部と地方とでまったく違います。たとえば激戦州と言われるペンシルバニアですが、州内どこでも金太郎飴みたいに支持がわかれているわけではありません


 ペンシルバニア州

たとえば57万票が投じられたフィラデルフィアでは、8割がバイデン票。一方で、8000票に満たないフルトンという郡では8割以上がトランプ票。それだけ違うものをぜんぶ平均すると「接戦」になるというわけです。


こちらがフィラデルフィア。

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お隣のデラウェア郡。(ちなみに私が学生時代に10ヶ月ほど住んでいた場所でもあります。)

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一方のフルトン郡。

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同じペンシルバニア州でも、きれいに割合が逆転しているのがわかります。

ちなみに、州内で票数が多い郡トップ6ではいずれもバイデン氏優位、少ない方から数えて44つの郡はいずれもトランプ氏優位でした。


つまり、どの郡の票がいつ上がってきたかによって、途中経過はいくらでも変わるのです。

もしもフルトン郡のような地域から数え終えて、そのあとフィラデルフィアやデラウェアからの数字がどんどん上がってきたならば、「最初は大きくリードしていたトランプ氏が、後半で追い抜かれる」みたいな大逆転は不思議でも何でもないわけです。

ちなみに選挙当日深夜1時ごろの時点で、ペンシルバニアの開票率は64%、トランプ氏のリードは15ポイント。郡ごとの開票率推移は追っていなかったのであくまでも想像ですが、大量の票が届く都市圏ほど、集計に時間がかかっていたんじゃないかなーと思います。

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こちらは、選挙2日後(アメリカ時間5日)朝の時点で、ペンシルバニアのうち開票率が低かった郡トップ3。州全体では9割近くの集計が終わっていましたが、フィラデルフィア票の3割はまだ残っていました。

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フィラデルフィアの3割というと17万票、フルトン郡22個分にあたります。

ちなみにこの時点でのトランプ氏のリードは2.6ポイント。その後フィラデルフィアの集計結果が届くたび、目に見えて差が縮んでいきました。

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そして7日(土)の昼ごろ(アメリカ東部時間)、バイデン氏のペンシルバニアにおける勝利、ひいてはこの大統領選における勝利を決定的にしたのも、フィラデルフィアから新たに届いた3000票だったそうです。


ウィスコンシン州

ウィスコンシンでもやはり、州最大の都市ミルウォーキーが逆転劇の鍵を握りました。

ミルウォーキーは州の投票数の14%を占める大都市で、やはり民主党が優位。4年前にトランプ氏がウィスコンシンをおさえた時も、ミルウォーキーに限れば3分の2はクリントン票でした。

このミルウォーキー、選挙当日(3日)夜の時点で半分も開票が進んでいなかったのです。スクショをとらなかったのでちゃんと覚えていないのですが、たしかその時点で州全体の8割くらいは開票が進んでいたと思います。

この州でバイデン氏が逆転したのは、投票翌朝(アメリカ時間4日)5時ごろ、ミルウォーキーからの票がどかっと届いたタイミングでした。

ちなみにこの「どかっと届いたタイミング」のグラフがネットで拡散され、「夜中にいきなりバイデン票がこんなに入るのは不自然だ」という陰謀論がささやかれたりもしましたが、単に「民主党寄りの大都市で徹夜で行われていた集計作業の結果が届いた」だけのことでした。

※時系列での出来事を詳しく知りたい方は、New York TimesのLatest updatesをさかのぼってみてください。
※他の様々な疑惑に関する検証結果まとめはこちら



「郵便投票が民主党優位」はなぜ?

とはいえ選挙当日夜の時点で、共和党寄りの郡でも開票作業が残っていました。それでも、郵便投票の開票が進むたびにバイデン氏がどんどん追い上げていきました。

選挙前から散々いわれていた「郵便投票は民主党優位」という説明。それをきいて疑問符が浮かんだ人もいたんじゃないかと思います。「投票手段って、支持政党によってそんなに割れるもんだっけ?」って。


理由はいろいろと言われています。

「平日に仕事を休めない人や、車を持っていない人でも投票しやすく、そういった人は低所得者や非白人が多いから」「民主党支持者の方が、コロナを心配する人が多いから」「郵便投票によって、若者の投票率が上がるから」などなど。

選挙前、「郵便投票をすでにすませた若者がこれだけいる」という報道をよく目にしました。初めて投票をする学生が助け合い、複雑な郵便投票のルールや申請方法の理解につとめた、というエピソードも聞きました。それでは、年齢と投票方法の間に何か関係はあったのでしょうか?


ちなみに、年代と投票先の間には明らかに関係があります。こちらは出口調査の結果。

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65歳以上ではトランプ氏支持が過半数を超えているのに対し、29歳以下では6割がバイデン氏を支持しています。(出典:BBC

ということは・・・「伝統的な投票方法にこだわる中高年、特に平日の朝から投票所に並べる高齢者ほど当日に投票所に出向く傾向があり、ウィズ・コロナの生活様式を柔軟にとりいれる若者ほど郵便を使う割合が高かった」と考えれば辻褄があうのでは???

そう思って世代ごとの郵便投票のデータを探してみたのですが・・・、なかなか見当たりません。


やっと見つけたのがこちら。「どうやって投票するつもりですか?」と全米の有権者に聞いたアンケートです。(出典: Pew Research Center

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一方こちらは、同じ質問を29歳以下の有権者にぶつけた結果。(出典: ハーバード大

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別団体のアンケートなので単純比較はできませんが、傾向はものすごく似ていました

若者だろうが全年齢だろうが、投票する気がある共和党支持者のうち5割は「当日投票所に行く」。郵便投票すると答えた人は2〜3割でした。

一方、民主党支持者ではこの割合が逆転します。5割が「郵便投票を使う」と答え、「当日投票所に行く」という人は2〜3割でした。

ものすごーく限られたデータではありますが、年齢というより支持政党でぱっかり割れてたんですね。


「郵便だと非白人が投票しやすくなる」という説もありましたが、若い世代のアンケートを見る限りでは、むしろ黒人の方が白人より「当日投票所に行く」人が多かったようです。


年齢ではなくて、人種でもなくて、支持政党


もちろん、あくまでもこれは事前の世論調査。実際の郵便投票や当日投票の内訳がわからないので確かなことは言えません。また「コロナ感染拡大を心配している人 vs 気にしていない人の比較」という一番関連ありそうなデータがないのでものすごく雑な結論にはなってしまうのですが・・・

これを見る限り、「郵便選挙は不正だ!投票所に行こう!」というトランプ氏の声と、「コロナ感染拡大を避けるため、郵便投票を積極活用しよう!」というバイデン氏の訴えと、どちらに耳を傾けたかによって投票手段が変わった、という側面も大きそうです。



政治問題化した郵便投票

今回は、「郵便投票」の扱いが政治問題化した選挙でした。

記録的な数の郵便票が予想され、配達の遅れが心配される中、郵便公社に補助金を出すのか、それとも郵便ポスト撤去などのコスト削減策をすすめるのか。

投票用紙専用の投函ボックスは、どこにどれくらい設置するのか。ぎりぎりに投函された票は、消印有効で受け入れるのか、当日必着にするのか。消印有効だとして、何日後まで受け入れるのか。

早く届いた票はいつから数えられるのか。集計はできなくても、本人確認などの手続きだけでも済ませておけるのか、それとも当日まで開封さえ許されないのか。

そういった手続き上の問題ひとつひとつが争点となり、訴訟や議会にも持ち込まれました。

たとえば、勝者がわかるまで4日かかったペンシルバニア州。そこまで時間がかかった背景として、この州では選挙当日まで郵便票の開封処理も集計も許されていなかったということがあります

実は、集計作業を早めようという動きは州内にもありました。民主党のウルフ知事は選挙の何ヶ月も前から「これ絶対めっちゃ時間かかるし、事前に開封処理だけでも始められないかね?」と議会と交渉していたものの、共和党多数の議会に拒否されてしまったようです。

(参考記事: New York Timesミネソタ大The Philadelphia inquirer


共和党は郵便投票をめぐる規定を厳しくし、できるだけ多くの郵便票を失効させ、集計を長引かせ、「郵便投票」システム自体の信頼性を損わせようとする。民主党はその逆のアプローチをとる。

そうやって郵便投票をめぐる手続きのひとつひとつが政治問題化していく中で、「郵便票」はさらに民主党寄りに、「投票所での投票」はさらに共和党寄りになっていった。「郵便投票は民主党優位」という事前のかけ声が、さらに郵便投票を民主党優位にしていった。そんなところでしょうか。



国としての歴史が比較的浅く、またいろんなルーツを持つ移民たちの国であるアメリカ。その分彼らは、「民主主義」とか、「人民による人民のための」とか、そういう「理念」や「理想」を建国神話みたいに大事にしてきました。少なくとも、外国人である私の目にはそう見えていました。そのアメリカが、「民主主義」の根幹である「選挙」をめぐって揺れに揺れています。アメリカがこの問題にどう向き合ってどう決着をつけるのか、注視していきたいと思います。



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