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四畳半から世界へ

このエッセイを書くにあたって「ステイホーム」はいつごろから使われたんだっけと調べてみた。小池都知事の「ステイホーム週間」という言葉で広まったのだとしたらゴールデンウイーク前の会見で話したようなので4月末のことらしい。もうそんなに経つか。

私がコロナウイルスのことを強く意識し始めたのは2020年の3月末のことである。先輩方の卒業式が講堂で行われないこととなり研究室の単位になり、海外渡航者は学内に入らないようにというアナウンスが成された。卒業式の日はたしか研究室単位での証書の授与くらいで、宴会はせずあんまり大勢で集まらないように注意喚起されたのだったと思う。

とはいえ、その当時は一か月くらいで収まる話だろうと思っていたし、世界中に蔓延するなどこれっぽっちも思っていなかった。もちろん私の卒業式も無くなるとはつゆにも思っていなかったわけである。

さて、わたしは修論生なので7月までは就職活動、8月からは基本的には修士論文の執筆(+資格試験の勉強)といった生活をしていた。就職活動も緊急事態宣言までは基本はリモート面接で、実際に会社に赴いたのは6月半ば~7月半ばだったし、修士論文も実験系ではないので実は3月の先輩方の卒業式から大学には行っていない(もちろん家で執筆したり、時折図書館で資料を収集したりはしている)。

前置きが長くなってしまったが、このエッセイは「家の中でどう過ごすか」を主としたものである。わたしは今まで「外に出て人と交わるのが良い!」とされた価値観がすべて逆転した「家にいよう」「友達と会うのは今は我慢しよう」といった世界を、貴重な経験をしているのではないかと考えている。そういった世界で、自分はどのようなことを思い、どのように生きたかといった記録を残すことはいつか貴重になるものと思っている。

元々わたしは夏休みとかになるとクラスメートが何をして過ごしているか気になる性質だった。学校のある時期はみんな登校し、授業を受け、帰宅し……といったある程度同じパターンの生活をしているように思える。一方で休みになると自由な時間が増えることで、生活のパターンは十人十色となる。そうなると自由な時間が与えられたときに「どうやって時間を過ごすか」というのはその人の個性のひとつになるのではないかと思ったりして気になりだすのである。

私にとってこの「ステイホーム」はある種のゲームであった。ゲームというのはルールがあるから楽しめるという意味である。サッカーをやってるのにボールをつかんでゴールに向かって走り出したらゲームにならん!手を使ったらアウトというルールがあるからこそゲームが成立するし楽しいという意味である。つまりわたしはこの半年くらい外に出てはいけない「ステイホームゲーム」の参加者となり、その中で「どうよりよく生きるか」「どう楽しめるか」を考えていた。

結果としてもともと出不精だったこともあり結構楽しい日々を送っていた。友人と「巣ごもりギフト交換」をしたり、何年も会っていない遠くの友人と電話するようになったり、もともとあまり人と会わない自分にとっては人と交流するきっかけはむしろ増えたような気もする。いかに「家にいながら人との交流を絶やさないでいられるか」が私にとっての「よりよく生きる」だったのかもしれない。

そして「自分の庭」(いわゆるガーデンではない、新宿は自分の庭のようなものだから~って言葉使わない?)を今までよりも愛せるようになった。電車に乗らなくなって家に引きこもるようになってから、家の片づけがしたくなったり模様替えしたくなったり、家の近くの気にもしていなかったお店のことが気になりだしたりした。

そう思うとこの約半年間でバーチャルな関係は拡大していき、一方で身体的な距離は等身大になってきたような感じがする。そういえば長距離移動をすると身体に不調をきたす人がいるらしく(病名とかはわからない)、何百万年もの間徒歩圏内を生活してきた身体にとって、ここ百年くらいにできた飛行機や自動車は文字通り桁違いのものであって、それに身体が耐えきれないというのも少し納得がいく。コロナ禍のおかげで通学がなくなってからわたしもそういった不調は感じなくなってきた。

等身大の世界の中で、意思だけはバーチャルの海を泳ぐ。このアンバランスさはなにかと心地よい。等身大のまま世界中、いろんなところへ行ける。もちろん頭はそのアンバランスさに耐えきれないのかもしれないけれど。リモート授業ってリアル授業と違った疲れがあるし。それでもいまはなんとかこのゲームをひとりのプレイヤーとして楽しんでいる。

ヘッダー写真は昨年撮影したオーストラリアのどこか。たまに去年のことを思い出しては、感染症について気にもせず遊べた日々を恋しく思う。いち早くコロナ禍を乗り越えて、前よりもっと良い日常を過ごせるようになってほしいと思う。

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