【短歌連作50首】光年

見ていたい洗濯機の透明なふたみたいあなたに両手をついて

嘘に嘘かさねて夢のような日々すごしてミラノサンドできあがり

なにかわたしを呼んでいるのに街中のマンホールびくともしない夜

完成しない建物だったわたしたち屋根がないのに血の繋がった

目の敵って心の友ってことでしょう、野花で編んだかんむりあげる

植物と土を分別して捨てるときたましいはどちらの味方?

百マス計算埋める手つきで地球上のあらゆるイニシャルをかっさらう

わかったよピアノの中で寝るやつがブスってことでいいよお兄ちゃん

ポカリの粉を水で溶かしてどきどきするよ怒られたくて

カーテンが窓より似つかわしいひとと不吉な話でひどく笑った

鳥手羽の軟骨かじり取りながら順接のうつくしさひとしお

観覧車のわっかを首にかけたまま東京の夜の目印になる

骨に彫るイニシャルの色は青だった 恋を津波に喩えては駄目

手品の種でわたしが育ち手品の仕掛けでお国が動く

ごちそうがもう虫の息 銅板のにぶい光に身を横たえて

エマージェンシー、ナースコール叩き鳴らして水にホイップクリーム溶いて

麻紐に麻紐なりの運命があって花束となる花々

ペンキ塗りたてのベンチを見たことがないけどそのせつなさを知ってる

お互いが神様だから見つめ合うことも神隠しと言えるでしょう

じゃあわたしにふさわしいはず歯型のちいさいハートは指に

iPhoneの黒い画面におびただしい指紋が銃創のよう 迷い子

暮れていく目黒の途方に暮れているわたしの恋愛サーキュレーション

両想いなんてないけど焼け跡が火山になるまで払う税金

強豪が身を寄せ合って走るのはまぶしくてかわいそうまぶしそう

覗きこむ歯のない口のくらがりを できないことがいつも光るの

手探りで祭囃子を引き当てて蛍のように静かに看取る

雷のにおいに惹かれてやって来て根強いまぶたで愛してあげる

死ぬほど好きと言ってほんとに死ぬ人がどこにいる助けてチェンソーマン

天体望遠鏡をかついだことのない人間同士抱き合うけれど

収穫がいちご鼻しか無いなんてどうかと思う旅の佳境に

夢から覚めてこの星のひと全員とデートしていた気がしてあつい

掻けば掻くだけかゆくなる首すじの強い風なら見開かないと

どっちが自分のか友達のかわからない本 でも ここが棺おけじゃない

炊飯器たぷたぷにして運び出すあなたを許したくない気持ち

服の裾そんなにも引っぱったからにんじんケーキが焦げつくでしょう

ぬいぐるみのように小さな扇風機かかえて、わたし、迎えにゆきたい

口癖があかるいドレスを編みあげるまでを守ろう正座になって

電子音だけが流れる黒い箱から細いひと出てきてきれい

稲妻がすきよ襟からすべり込ませたら姿勢が良くなりそうで

大泉学園駅の踏み切りを幽霊船として渡ります

いちまんえん、と口に出したら店内にわたしが一生ひとりになった

じっとしていないで布をかけたくなる、あははと笑う大事な女の子

海外の濡れてしまったゴッホの絵もう乾いてるといいね逃げ水

東京タワーなんてきれいこれだもの持ち帰れないのも無理はない

いない姉が宝石商になるまでの物語に泣きラーメンのびる

洪水があるからかかとの高い靴履いてるだけのどこが少女か

まっぷたつの歩道橋にも夜が来る子宮とたばこの関係性で

嘘をつくとき特有の口臭がきらいとにかくミクになりたい

遺伝ってこれでいい?北海道が緑にひかればわたしも緑

光年という陰惨なものさしを飲み込むあなたたちを信じない


(第6回笹井宏之賞応募作)

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