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騎士団長殺し第一部顕れるイデア編・上巻

村上春樹氏著作、「騎士団長殺し・上巻」を読み終わったので、感想を綴っていこうと思う。

これ買ったのは多分去年?今年ではない気がする。
下手したら一昨年かも。
というのも、この本を家で見つけたのがつい最近。
少々埃をかぶっていた背表紙を見て、あぁきっとせっかく買ったのに、読もうと思ってそのまま本棚に仕舞い込んでいたのを、いつの間にか忘れてしまっていたんだな、と過去の自分に呆れ笑う。

もしかしたらこれは一章上下巻で数章に分かれている長編だから、まとめて読むために後に残していたのかも?と自分の行動と思考を推理しつつ、ほんの1ページ目を開く。

あらすじ

肖像画画家をしていた主人公は、ある日突然妻から別れを切り出される。
それ以降、画家としての仕事も休み、車で当てのない放浪をして彷徨っていた。
そんな中、友人の雨田政彦から小田原市内の山荘に住まないか?と話を持ちかけられる。
なんでも、彼の父は高名な日本画家であったが、今は認知症が進みとある施設に入所している為、その山荘は主人不在の屋敷になっているのだという。
主人公はその申し出を有り難く受け入れ、その山荘で住み始めるが、そこで一つの絵を見つける。かつての館の主人が描いたであろうその絵は、「騎士団長殺し」と題されていた。
人里離れた山の中で次から次へと不可思議な出来事に巻き込まれていく主人公。
そして、そんな主人公に1人の男が肖像画の依頼に来たのであった。

以下ネタバレ感想
※といっても一章の下巻を読んでないから、話の全容はまだわかってないんだけど。
本編の内容に触れてるのでわ一応ネタバレありってことで。


小さな川が大きな海に広がるかの如く

この物語は、主人公が過去を思い出しながら語るようなスタイルで話が進んでいくわけだけど、そのストーリーの進み方が、とても滑らかで心地よく進んでいく。

私が初めて読んだ村上春樹氏の作品である「1Q84」でも、そんな印象を抱いた。

緩やかに、そして滑らかに話が広がり進んでいき、そこに不可思議な要素がこれまた自然に合流していく様は、まるで小さな川が大きな海へと流れていくような優美さがある。

私は他にも、去年話題となった「ドライブ・マイ・カー」も収録されている「女がいない男たち」も読んだことがあるけれど、その時にもそう思った記憶があるから、多分これは村上春樹という作家の特徴なのではないだと思う。

厭らしさのない品のある文章

今作には割と性や性交渉に関する直接的な表現(セックスなんてものは可愛いものでペニスが少しずつ硬さを取り戻すとか、唇と舌を巧妙に使いとか、割と想像しやすいような性表現)が出てくるし、主人公と人妻の不倫の描写や、登場人物の1人である免色とかつての恋人との最後の情熱的な性交渉についてもありありと描かれている。

かなり生々しい表現が油断してたら、ひょいと顔を覗かせるけど、不思議とそこに下品さはなく、むしろ気高い上品な表現になっていることがほとんどである。

ここまで直接的に性交渉の描写をしていて、しかも不倫やら托卵(の可能性が高い話が出てくる)というセンシティブな内容を扱ってにも関わらず、ヘルシーでどことなくエレガンスで品のある印象を抱ける文章は、なかなかお目にかかることが出来ない。

見ちゃいけないものを見てしまった時の高揚感

今作では、物語を進めるほどに次々と不思議なことが、主人公の身に起こる。

突然見たかった日本画家の巨匠が山荘に隠していた一枚の絵、谷の向こうに住む不思議な中年男性「免色渉」からの異常ともいえる興味の視線、夜中の決まった時間になる鈴の音と祠──。

この主人公が目の当たりにしている不思議を読んでいくうちに、なんだか「あ、これ見ちゃいけないものを見ている」ような気になってくる。

それで、その気持ちは先ほどの項目で言った性描写の時もそう思うわけで。
主人公であれ、免色であれ、その性交渉の描写は文章にしてはあまりにも生身で、体温の高い描写であった。

目の前にあるのはただの文字の羅列なのに、なんだか自分が禁忌を犯していて、見ちゃダメと強く注意されたものを指の間からしっかり覗いてるようなそんな感覚になり、その時の高揚感が堪らない。

これが所謂、背徳感ってやつなのか。
それとも私の想像力が飛躍しすぎてるのか、

最後に

村上春樹氏の文章と私の想像力は、どうやら相性がいいらしい。
ハルキストと呼ばれるにはクールさも、カッコもつけられないけど、彼の作る独特で品がある世界観にはずっと浸ってたいと思う。

村上春樹氏の本を読んでいるのと、その日が何曜日の何時でもあっても日曜の昼から夕方の午後のような気分になる。
何故だろう。

兎にも角にも仕事に忙殺されて、休日を充分に味わえてない貴方に、是非。

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