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『ZERO to ONE』ピーター・ティール

隠れた真実を見つけろ。大衆に飲まれるな。

ピーター・ティールが起業家の脳みその使い方を教えてくれる本。
モノゴトをすべて疑え。とも違う。
逆張りをしろ。とも違う。
要約には限界があるが、そのエッセンスを伝えたい。

今ある目に見えるものが真実ではない。
冒頭の「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
これに詰まっている。この隠れた真実を見つけるためにヒントを教えてくれるのがこの本の内容だ。

その答えは「世の中のほとんどの人はXを信じているが、真実はXの逆である」という形式になる。

特に刺激になった5つのポイントを抜粋した。

①独占と競争。独占する大企業はウソつき。

2011年の議会聴聞会でGoogle会長のエリック・シュミットがこう証言していた。

「消費者が情報へのさまざまなアクセス手段を持つ、極めて厳しい競争環境に私たちは直面しています。」

大企業こそ、似たようなこと言っているのを思い出すのではないだろうか。
変化の激しい社会だ~なんて言ってたら、見事に飲まれている。

翻訳すると、こういう意味になる。
「Googleは大きな池の中の雑魚にすぎません。いつ誰に飲み込まれてもおかしくないのです。政府に目をつけられるような独占企業ではありません。」

これを見たとき笑ってしまった。でも、もっともなのだ。
彼らは謙虚さをまとい、傲慢さを出さないように自己制御している。
日本だと最近はリクルートの出木場社長が、Indeedを買収した時に我々は危機の中にいたとかなんとか言っていたが、あれも同じことだ。

目を付けられたくないのだ。下手に目立つようなことをしたら、そんな問題児は校長室に呼び出されてしまう。リクルート事件で政府から、既得権益から目を付けられるのは懲り懲りなのだろう。

逆に非独占企業は反対のウソをつく。
「この市場には自分たちしかいない」と。
起業家はたいてい競争範囲を甘く見積もりがちで、スタートアップにとってはそれが命取りになる。彼らは自分の市場を極端に狭く限定し、まるで自分たちが市場を支配しているかのように考えたがる。

非独占企業はさまざまな小さな市場が交差する場所を自分たちの市場と位置づけることで、自社の独自性を誇張する。

反対に、独占企業は自分たちの市場をいくつかの大きな市場の総和と定義づけることで、独占的地位をカモフラージュしている


②ビジネスにおいて完全競争は死である。

経済理論が完全競争の均衡状態を理想とするのは、モデル化が簡単だから。ビジネスにとって最善だからではない。

歴史的経緯を知っておくと理解しやすい。
経済学の数式は十九世紀の物理学の理論をそのまま模倣したものである。
経済学者は個人と企業を独自の創造者ではなく、交換可能な原子とみなす。なんらかの企業価値を説明をするとなると数字に置き換えるためだろう。

しかし、物理理論で考えると、長期均衡はすべてのエネルギーが均等に分布し、あらゆるものが静止した状態。いわゆる宇宙の熱的死である。

独占している状態は、進歩の原動力となる。
独占状態はイノベーションを生み出す。
長期計画を立てる余裕と、競争に追われる企業には想像もできないほどの野心的な研究開発を支える資金があるため、イノベーションを起こし続けることができる。

歴史的にみても、よりよい独占企業が既存企業に取って代わってきた。
IBM→マイクロソフト→アップルのような歴史を見るとわかりやすい。
独占企業に進歩を妨げる危険性があるならもっともだが、まったく違う。

賢そうなアカデミックな学者の言うことを盲目的に信じるなということだろう。もちろん全否定はしてないだろうが。その理論が果たしてどこからきて、根源はどこにあるのか、歴史を紐解くまで理解することが本書で繰り返し書かれている「自分の頭で考える」ということの一つだ。

③破壊するな。創造しろ。

「破壊」という言葉は、甘美な言葉で起業家たちを競争志向へ歪めてしまう。この破壊するいう言葉は、既存企業への脅威を表すために提唱された概念である。つまり、スタートアップが破壊にこだわるのは自分自身を古い企業の視点で見るようなものだ。

正義的なビジョンを掲げるのは気持ちよく没入することを正当化できるから楽をしている。ダークフォースと闘う反乱軍とみなせば必要以上に敵を意識することになりかねない。また、既存企業の対比で語られるような会社は全く新しいとは言えないし、おそらく独占企業になれない。競争から抜け出せないからだ。


④どんな会社を立ち上げる?問うべき2つの質問。

★自然が語らない真実は何か?
☆人が語らない真実は何か?

自然についての隠れた真実こそが重要と考える人は多い。
その分野ごとの研究者は近寄りがたいほどの権威があるように見えるからだ。

しかし、ここにハマりがちな落とし穴がある。
物理理論の権威だからといって、優秀な金融コンサルタントになれるわけじゃない。何かすごそう、万能感にハマるなということだ。これは人生・キャリア選択にも繋がる大切なことだと思う。

人が語らない、つまり禁忌やタブーは何か?
これはあまり重要だと思われていない。
競争は資本主義の対極にある。まさにこれだ。

秘密を探すべき最良の場所は、ほかに誰も見ていない場所だ。
ほとんどの人は教えられた範囲でものごとを考える。


⑤べき乗則に従え。

べき乗則とは、パレートの法則のような異なる現象でも普遍的に現れる法則である。私たちが生きている世界の理解しきれない森羅万象には原理原則が貫かれており、偶然が生み出した産物ではない。

正規分布の世界ではなく、私たちはべき乗則のもとに生きている。
1社が他の100社を上回る利益を出せばよいベンチャーキャピタルはいい例。

人生も同じで正規分布のポートフォリオではない。
正規分布というのは、簡単にいうと規則正しく数打ちゃ当たるものというイメージ。ポートフォリオは、たくさんの可能性を分散させた寄せ集めのハッピーセットって感じ。
そう、人生はそんなもんではない。
だからこそ、得意なことに集中すべきだし、それが将来価値を持つかどうか真剣に考えることだ。重要なのは「何をするか」ってのはこういうことだ。

これを読んだときに、私は元アスリートでもう15年以上もウエイトトレーニングをしており、かなりの知識と経験がある。でも、なぜかそれがあまり誇れるものだと思えなかった。学歴が高い年収が高いエリートビジネスマン、成功した創業経営者と比べて劣等感を感じていた。彼らは、私よりも健康ではないし、筋トレや栄養のことは知らないし、おそらく一生かかっても私には追いつけないのにね。

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本書はもう古典の部類に入ってきているのだろうか。
起業家だけではなく、意外にキャリア選択で悩んでいる人にもいいと思う。
ヒントを得て、あとは自分の頭で考えていこう。


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