恐怖小説 美熟女 前編
田舎町の大きな田んぼに、小学生が突き落とされた。小学生の名前はレイオと言って、小柄で色黒の男子である。落としたのは同級生で友達のマスタカという男子。その横にカッパを名乗る男子が笑いながらレイオを見下ろしている。
マスタカはさわやかな笑顔で、「ざまあ見ろ、クックックッ」と意地悪そうに笑いかけた。レイオは起き上がってカッパを指差し、
「お前も田んぼに落ちろよ、カッパ。何で俺だけがこうなるんだ。この中じゃお前が1番のバカなんだから、お前は落ちろ!!」
と怒った。それを聞いたカッパは「は?!」とやり返した。
「は?!何で俺が田んぼに落ちなけりゃならないの?!お前ふざけるなよ。レイオの分際で」
「誰に対して言ってるんだ!!」
顔や着ている服が泥まみれになってしまったレイオは、カッパに「お前はハチミツ屋の息子のくせに、生意気なんだよ!!」と怒り心頭になって、わけのわからない因縁をつけてきた。
「ハチミツ屋は関係ねえだろ!!」
カッパが牙を剥くように怒ると、マスタカは「わかったわかった。お前も落ちろ」と後ろに回ってカッパを田んぼに突き落とした。
カッパはもんどり打って泥の中に落ちて、叫び声を上げた。
「ハハッ、カッパお前バカだな!!今の俺の攻撃はうまくよけられただろ!」
マスタカが高みの見物を決め込む風に、そう言った。
顔も服も泥だらけのカッパは「マスタカ!あんた何すんの?!」と言うと、マスタカは走って逃げた。
「あっ、逃げやがった」
カッパが驚き、レイオとカッパは急いで田んぼから足を抜いてマスタカを追った。マスタカの家は山の中で、彼は普段の登下校により足腰が鍛えられている。二人は追いつかず、彼を逃がすことにした。
「それにしても、体中が泥だらけになって、これでは着てる服も台無しだ」
カッパはとりあえずパンツ一丁になり、服を抱えて歩き出した。
レイオは大声で「マスタカのバカ野郎」と吠えてみた。しかしマスタカの声が返ってくるわけもなく、カラスの鳴き声が夕暮れの空に響いていた。
すでにマスタカは家まで十分ほどの地点に座りこんで、何かを考えていたのだが、まとまらなかったので家路を急いだ。道沿いに壊れそうなベンチが一台設置してあって、たまにそこで色々とマスタカは考えたりする。普段は何も考えないマスタカにとって、それは貴重な時間である。今日は、楽しかった、とマスタカは思う。明日どうなろうが、それは知らない。
〈中編に続く〉