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マラソンの中止・縮小と、主催者がしてること(想像含む)

レースの話はもっと後で書こうと思っていたのですが、いろいろな意見が飛び交っているので、自分が思うところ書かせて頂きます。

自己紹介(下記)でも書いたように、私は走り始める人・走り続ける人が増えてほしいと思っています。そのために自分の経験や知っていることを共有して、走り続けたい人たちの背中を少しでも押せればと思っています。


「走り続ける」ために、マラソンやレース・ランニングイントの存在はとても大きいです。

新たな経験・より広い視野・大きなモチベーションを与えてくれます(詳細は別の機会に書きます)

それらのイベントが軒並み中止となっており、それに対して様々な意見・議論が見えてきています。中でも特に話題となっているマラソンの中止・大幅縮小(東京マラソンを始めとした全国各地のマラソンやランニングイベント)について書きます。

東京マラソンの縮小

東京マラソンは当選倍率10倍・参加者3万人のレース、楽しみにしていた方の気持ちはよくわかります。一般枠の中止自体は本当に残念です。


私自身、有り難いことに東京マラソンは過去に走らせてもらっています。
東京の名所を巡るフラットなコース・42km途切れない応援、タイムも出やすいレースです。

ファンランナー・シリアスランナーどちらも高いレベルで満足できる数少ないレースであり「マラソンという競技の魅力を凝縮して詰め込んでいる」そんなースだと思います。

東京マラソンであれば、本命レースとしてトレーニングを積んできた方々も多いでしょう。マラソンは約3ヶ月以上前から計画的にトレーニングをしないと、しっかりと走り切れません。当選発表が昨年9月だったので、半年近くの間これに向けてトレーニングをされてきた人も居ると思います。

マラソンシーズン終盤のレースということもあり、東京マラソンが今シーズン最後の予定だった人もいらっしゃると思います。

私自身も当選から5ヶ月間のトレーニング・他レースでの調整もして、自己ベスト(2h56m)が出せた思い入れのあるレースです。

「レースを開催するということ」

今回の中止決定がされたのは開催日の約2週間前、ランナー的にはすべてのトレーニングを終えて、あとはコンディショニングや疲労抜きに当てる時期、という方が多かったと思います。「やることはすべてやって、あとは本番だけ」という中での中止のアナウンスでした。様々な状況が重なったとは言え、参加者視点ではとても厳しいものだった思います。

一方で最近の議論は「返金するかどうか」という、当事者やランナー以外も含めた世間一般の耳目を集めやすい論点が目立ちがちです。「参加できないなら返金されるべき」という論点と意見は一見わかりやすいし興味も引きます。

でも「レースを開催する」ことはもっと複数の視点で見られるべきだと思います。

私は今回、開催者でも参加者でもありません。ただ「レースを開催する」とはどういうことかというのは、関係者の方から何度か聞いたことがあり、私自身も視点が変わりました。

それを自分の知っている範囲で、一部の想像も加えてシェアします。少しでも多くの方が「レースを開催するとはどういうことなのか」を理解され、それで参加者と開催者の間が近づけば、多くのランニングイベントが今後も継続できると思っています。

過去に中止となったレース(私の)

私自身これまで2回のマラソン中止を経験しています。

どちらも2011年でした。

初フルマラソンを完走した年で「5時間以内で走りたい」と意気込んでいた時です。エントリーしていた、かすみがうらマラソン・佐倉マラソンが、東日本大震災の影響で中止となりました。

後日大会主催者から、参加賞のTシャツと共に1通の手紙が送られてきました。

そこに書かれていたのは、開催できないことお詫び、返金できないことへの説明、そして何より感じたのは「彼らも悔しいしやるせない」ということでした。明確には書かれてなくとも、それは文面からわかりました。

「来年はより良い大会にするからまた申し込んで欲しい」
という言葉で結ばれていました。

私はマラソン経験の初期にこの経験をしたので、大会を開催することがどういうことなのか、というのをなんとなくスッと理解できました。

「ああ、準備してくれている人がいるから、ランナーは走れるんだ」と

もちろんあの時と今では違います。ただ、大会主催者ではどうしようもない大きな困難・不確実性・国民の気持ち。これらと、自分たち主催者が今まで作ってきたもの、の間での葛藤、その手紙からは感じられ、それは今の状況にも通づるものがあると感じました。

レースは1日、準備は1年

マラソンの制限時間は6時間前後が一般的なので、参加者視点では“長くて1日”だと思います。

一方でマラソンの準備にかかる時間はどれくらいか。その日を迎えるためにどれくらいの時間が裏でかかっているのでしょうか?想像ですが、1年以上だと思います。

今年のレースの当日に来年の予定がもう告知されていることが多いですよね。レース開催日の当日夜か次の日には「来年は◯月☓日です」と告知されることが多いと思います。

これは「来年の準備はもう始まっていた」ということなんだと思います。
日付を確定するというのは、何をするにも一番大事で大変です。それを起点に各種の準備が具体化するので。

例えが小さいですが、私は今年の夏休み旅行の日程すらすぐ決められません。仕事の山谷の予測、チームメンバーとの連携・調整等、考えることが多くてなかなか踏ん切りがつきません。けれどあまりに直前になると希望するフライトやホテルが取れない、という制約条件も発生してくるので、早めに決めなければと毎年焦ります。

そのため「予測できない部分も仮定してしまって、早めに判断し動く」ことが大事です。決めたあとはそれを実現すべくとにかく仕事頑張る、他の人との調整しっかりやる、という感じです。

マラソン開催と一概に比べることはできませんが、「何かを企画する、そのために他の人と調整する、いろんな手配をする、決めて動く」という点は共通する要素だと思います。もちろん難易度や規模の違いは比べるべくもありません。

来年の開催日が告知されているということは、1年以上前から準備をしている。それはつまり、そのために人が動いている、ということなのです。

人が動いているということは、その対価(給与)を誰かが払っているということ。その源泉は参加費かスポンサー費用です。(一部は募集前、つまり収入確定前に見切りで動いていることもあるのかもしれません)

1年前から来年のレースの準備は始まりコストは発生しているんだと思います。

練習とレース本番の違いを生むもの、とその準備

「走る」という事自体はどちらも同じです。

でもレースは練習と違います。

だから特別な体験になります。

だからレースに出ます。

ランナーでない方が抱く「なんでお金払ってまで走るの?」「一人でもタダでも走れるのになぜ?」という疑問にも現れています。私自身もレース出る前はこう思っていました。

レースにはどんな体験があり、何がそれを特別にしているのでしょうか?

• タイム記録が取れる ←ゼッケン・計測チップ・タイムマット・まつわるシステム


• 給水や給食がある ←水・スポドリ・食べ物・テーブル・紙コップ・わたしてくれる方々


• 手荷物運搬がある ←トラック・ドライバーの方々


• 記念品がある ←完走Tシャツ・タオル・メダル:デザイン制作・発注や納品のプロセス

• トイレが各所に ←仮設トイレレンタル・運搬の手配

• 応援がある ←コースマップを見て沿道に来てくれる


• 仲間と共通の目標で走れる ←日時場所・コースが決まっている

すぐに思いつくものだけでもこれだけあります。

これがマラソンレースを、練習とは違う特別な「本番」にしてくれています。

それがレースの体験価値だと思います。だからお金を払って走っているのではないでしょうか。

これらの手配にかかるリードタイムは、数週間ではなく短くても数ヶ月かと。今回の東京マラソンのケース(開催2週間前の中止縮小判断)であれば、ほぼすべての手配は完了していたと思われます。

完成したTシャツや応援マップは倉庫内に積まれ、給食のバナナは船で日本に向かっている頃でしょう (給食バナナは、輸送にかかる時間とバナナ熟成度を考慮して収穫しているそうです。レース当日に一番糖度が高く走るエネルギーになるように)

仮設トイレは数百個が枠取りされて運搬待ちだったでしょうし、荷物を運んでくれるドライバーの方々は通常の業務を調整し当日の手荷物搬送ルートと時刻を確認していたはずです。

たった1日に使うものでも、準備や手配は多くの人が時間をかけて行っています。その日のランナーの体験を特別なものにするためには、多くの物品が事前に手配されています。

時間をかけて準備されたそれらのモノを、1日で一気にランナーは体験できるから、その体験は特別になるのだと思います。

公道を止めて走るということ

警察官の方々が参加ランナーの為に交通整理をしているのを見たことありますよね。沿道の横断者を誘導したり、時には車を止めてくれたり。

当たり前に感じていますが、よくよく考えるとすごいことです。警察が組織としてマラソンレースの運営に協力している、ということですから。

マラソンやロードレースは公道を止めて行われます。数時間とは言え地域の交通に大きな影響を与えます。できるだけ地域に影響の少ない交通規制計画の立案・その告知周知徹底・地域住民の理解とりつけ、もとても大変だと聞きました。

レース当日も、規制告知車両・先導車両・先頭を誘導する白バイ・観戦者の誘導、など多岐にわたり警察の方々の姿を見かけます。

(余談:私は規制告知車両と先導車両をみると興奮します。先頭集団がもその直後に走っているという目印なので。あの日だけはパトカーが待ち遠しいです。)

警察との協力
警察の協力を得るためには、当然承認が必要です。

警察に何かを承認してもらい、しかも動いてもらうって難しそうですよね。

「こんなことやりたいんです。警察さんの協力が欲しいです」とどんなに熱く思いの丈を伝えても、警察が動くことはありません。

協力を得るためには自治体と主催者が連携して、マラソン開催の意義や効果を根気強く説明し理解を得ると聞いたことがあります。具体的にどんなことをしているのかはわかりませんが、警察の承認を得る、というだけで大変であることは伝わってきます。

安全とお金

そんな中でも、マラソンコースの承認には特に時間がかかるそうです。ランナー・観戦者・住民の安全観点、また警備の視点で十分配慮されているか、何人の警備員を配置できるのか、等。コースの検討には多くの時間がかかり、自治体や各地域との確認・調整も多数発生します。

新しいマラソンレース・コースの承認には数年かかることもあるそうです。晴れて開催が決まっても、毎年警察側から安全上の厳しい確認を受けて、自治体・主催者が調整を重ね、当日を迎えているのだと思います。

マラソンレースは事業としての採算が厳しい所が多いといいます。

マラソンで一番重視されるのは「安全」です。参加ランナーが怪我や事故なくその日を終えられること。それだけでなく、応援してくれる人、地域の住民、マラソン以外で訪れる人…。

その日その時間にその地域に居る全員の安全、がマラソンやランニングイベントの継続のためにはとても大切だと聞いたことがあります。

「安全」を実現するためには、多くの人手が必要になります。タイム計測等は機械化や自動化が急速に進みましたが、安全の担保はやはり人の手で確保していく必要があるそうです。

沿道や会場の警備員、医師看護師、脱水防止の為の給水所の円滑なオペレーション…これらの方々のおかげでランナーは安全に走れます。ボランティアの方々もいますが、仕事としてされている方もおり、そこには人件費も発生します。当日の費用だけでなく、人員の募集過程でもにもお金はかかっています。

安全にはお金がかかり、採算を圧迫しますが、それは何よりも優先されています。

マラソンに全員が賛成しているわけではない

わたしは今ランニングが大好きです。
ただ、そうでない人も多いと思います。自身もランニング大嫌いだったので、その気持もわかります。

ことレースやイベントとなると、地元地域の方々は日々の生活に影響がありえるので、良い感情ばかりではないと思います。

実際にレースを走ったり観戦したりするとコース外でも様々なやり取りがされてます。

参加ランナー応援してくれている地元の方々、これは本当にランナーの背中を押してくれます。特に子供やおじいさんおばあさんの応援が多い地方のレースは、地元にも愛されている良いレースが多いです。

一方で交通規制の警備員の方にクレームを言っている方も時々見かけます。「なんでこの道が通れないんだ、俺はいつもここを通っているのに」と。

マラソンは日曜に行われることが多いです。せっかくの週末に家族とでかけている時にマラソンのせいで交通規制にあったら、良い気持ちではないと思います。このような感情は地元住民の方としてはごく自然だと思います。

地元の理解や協力をどうやって少しでも多く取り付けるか。反対している人にも、いつか応援に来てもらう為にはどうしたら良いのか。

地元住民の方々と共生していくこともレース開催するための大きな仕事なのだと思います。初年度は応援する人が少なかったが年を重ねるごとに多くの地元住民の方々がランナーを応援しに外に出てくれるようになった、という大会もあるようです。

その裏には、主催者側の年間を通じた数年に渡る、地元地域への地道な貢献や普及活動があるのだと思います。


参加者視点と開催者視点

今シーズンは多くのレースが中止・縮小となってしまいました。
目標達成のため長い期間トレーニングを積んできたのに、初めてのマラソンで色々準備してきたのに、という気持ちの方もいらっしゃると思います。私自身も走り、市民ランナーとしてマラソンに本気で取んだので、気持ちはわかります。

一方で、1年間という時間をかけてきた主催者側の視点も、もっと多くの人に理解されると良いなと思います。

私が書いた内容はあくまで、お聞きした話+想像です。

実際の主催・開催・運営にはこの数倍多くの困難や難しさがあるでしょうし、それらの課題を毎年1年かけてクリアした上で、晴れの日であるレース当日を迎えているのだと思います。

参加者と主催者がより近づくことで、もっとマラソンやランニングイベントが日本でも継続しやすくなり、身近になることを願っています。

それが、走り始める人・走る続ける人が増えることに繋がると思っています。

手紙

9年前のマラソン主催者からの手紙にかかれていたことが、今回の記事を書くきっかけでした。

「来年はより良い大会にするからまた申し込んで欲しい」

今年中止・縮小となった多くのマラソン・ランニングイベントの主催者の方々はこう思っているのだと思います。

応援しています。


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小池 中人/Nakato Koike
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