ハートのねぎ(詩)
父の見舞いの帰りに八百屋に寄った
手前の棚には長ねぎが並んでいて
西日を受けた白い部分が
陶器のような滑らかさを見せていた
あの日、幼子だったわたしは
父がねぎを切る音で目覚めたのだった
「起きとったか。これを食べて風邪を治すんや」
父が運んできてくれたのは卵うどん
ハートの形になったねぎがはらはらと乗っていた
「今日のねぎはお買い得だよ」
声をかける八百屋の大将と一緒にねぎを選ぶ
白と緑の境目をじっくり観察して
緑の部分がハートの形になっているような
ねぎを求める
病室の父はほとんど食べられなくなったけれど
卵うどんを見たら目を細めてくれるだろうか
ハートのねぎはたっぷりと入れたい
わたしはねぎに包丁を入れた